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思い出の中であなたを抱きしめる 03


「っ、傍にいてよッ...」


これが日常。学校から帰って来ては1人でぼーっとして、休みの日に優雅を思い出して啜り泣いた。自分を責めて蔑んで、部屋のベッドに制服のまま寝転がっていたのは、他でもない優雅がいなくなってから高校生になった私だった。

もうランドセルも中学の頃に使っていた鞄も部屋のクローゼットの中に放り込んで、優雅のことを忘れようとしたのに...忘れられない。

もし今の私を昔の私が見たら、何て言うだろうか。




あの頃に戻りたい。優雅に逢いたい。

でもそれは、私が願うなんて、許されることじゃないよね...?






 ̄ ̄ ̄ーーー_____

 ̄ ̄ ̄ーーー_____


真っ黒な漆黒の空間で、私は1人。ランダムに繰り返される自分の昔の記憶の中にいる。

もう何度、目の前の優雅に手を伸ばして...幾度、自分のその手では過去の優雅ですら掴めないと絶望しただろう。本当に、私はおかしくなってしまったらしい。


「優雅...」


また、目の前の高校生の優雅に手を伸ばした。でも、届かない、掴めない。優雅に逢いたいと思う気持ちは、霊力(ちから)が尽きて世界から消えた時よりも大きく強くなっている...。

何もない、上下左右さえも分からない空間に私はもう立つ気力さえ無い。ずっと座り込んで、何処か優雅を亡くした時の感情にすごく似ている。優雅のいない世界で、ずっとずっと泣いていた頃を思い出す。


「あの時、優雅に好きだって伝えてたら何か変わった?」


目の前の優雅の姿が歪む。後悔の涙で優雅も記憶も見えなくなる。堪えきれなくて溢れた涙は私の頬を、伝い落ちた。

ああ、私は何を言ってるんだろう。


「...違う、私は“おばけ”だったから優雅と一緒にはいられない」


だから、言わなかった。認めなかった。そのはずなのに、何を後悔してるんだろうか...私はその道を選んだはずなのに、後悔なんてしない、はずなのに。

どうしようもできなくて、私は右手で髪をむしるように引っ張った。ぐしゃぐしゃにして、自分がうずくまる空間を両手で力任せに叩き付けた。何も無い真っ黒な漆黒の空間のくせにッ、何で“固い”なんて感触があるのか。本当にイラつく。



「おい、真希!いつまで寝てんだよ!!」



優雅の声に、何だか現実に引き戻されたような気がした。こんな真っ黒な漆黒の空間でどうにかなっていた私の耳に聞こえて心に響くあなたの声は本当にすごいと思う。



「起きろ真希!遅刻するって言ってんだろ!!」



ーーー“いつまで寝てるんだよ!!”


ーーー“起きろ真希!”


あの頃では日常の普通の言葉...そんな言葉が、まるで()()()が言われているような錯覚さえ感じる。

不思議...“夢の世界”でもそんなことをよく言われていたような気がする。


「起きたら、私は優雅に会えるの?」


冗談混じりに、ありえないと思いながら私はそんな言葉を音にした。すると、突然に真っ黒な漆黒の空間は弾かれたようにカラフルな色に変わった。先程までの重たく暗い色から、ポップな絵の中にいるような不思議なあたたかい空間に私はいる。


『まだ終わってない!!真希!強い霊力(ちから)を持つお前の存在が必要だ!!』


突然に聞こえた、よく知るようでまるで知らない人のような“優雅”の声がした。でも、私を必要だと言う彼の姿を見ることはできない。

何度も、私のよく知る優雅に“起きろ”、“学校に遅れるぞ”と言われたようにこの声に何度も何度も“こっちに来い”、“お前が必要だ”と言われる。


ーーー“優雅(あなた)”は、いったい誰?


私がそう疑問に思い、声の主に問うとパリンというガラスにヒビが入るような音がした。音のする方に目を向けると、目の前には亀裂が複数入っている。そこから崩れ落ちたガラスの破片のような物が私の足下に散らばる。

大きくなるヒビの隙間から、また別の世界が見えた。


『やっと見付けた。お前、願いの檻(こんなとこ)で寝てんじゃねーよ』


完全に空間に入ったヒビが人が通れるくらいに大きく崩れ落ちた。破片が私の方に飛んでくる。そう思って手を前にして私は目を閉じた。でも、いつになっても痛みは襲ってこない。

自分の足下には、先程よりも多くの破片が、私を避けるようにして散らばっていた。


「なに、これ...?」


私はこの目の前の状況についていけていなかった。意味が分からなくてただ空間に入ったヒビの先、大きくあいた穴から手が差し出されていた。

私に手を差し出している彼は、知らない人。そのはずなのに、とても()()に似ている。同じ髪の色、同じ瞳の色...顔も同じなのに、どうしても()()と思わせる。私のよく知る優雅は、そんな鋭い目付きをしていない。その目はまるで...。


『早く出て来い真希。俺をこれ以上待たせるな』


私のよく知る優雅は、そんな風に言わない。纏う雰囲気が違う、目の前にいる彼はたぶん、私が最後に見た優雅よりも少し年上な気がする。

この優雅(ひと)の手をとってもいいのか分からない。私はどうしたらいいのだろうか。


『っ、真希...お前の傍にいてやれなくて悪かった』


いつの間にか腕をつかまれて引っ張られたかと思うと、何故か私は彼の腕の中にいた。ぎゅっと強く、でも優しい力で抱き締められる。妙に落ち着くと、安心できると思ってしまう私はおかしいだろうか。

あなたに触れたら、知らないはずなのに懐かしくて...知らないはずなのに、私は彼を知っていると確信できた。


「優雅ッ...!!」


私は優雅の背中に腕をまわして、力一杯に優雅を抱き締めた。

“お前との約束破って悪かった”と、そう言う優雅は()()()()()()()の頃に似ている。




それは一緒に保育園に行ってた頃の、()()()()()()で...いつしか忘れた()()()()()

「おばけの恋。~はなれたくない~」はこれで完結となります。読んでくださりありがとうございました。


*テュルーエンド(準備中)へ続く物語として、他にもレイナ主人公の外伝や~はなしたくない~などのシリーズがあります。

~はなれたくない~は真希主人公の1番最初の物語です。

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