思い出の中であなたを抱きしめる 02
「っ、優雅ッ...何もできなかった私が悪いの?」
相変わらず、ずっと泣いて、泣いて、啜り泣いて、自分を責めて、部屋のベッドの上で膝を抱えていたのは、他でもない優雅がいなくなってから中学生になった私だった。
あの頃のランドセルは部屋の角に置いて、優雅と一緒に中学校に行くはずだった、のに...。きっと昔の私は、優雅と一緒にいられると思ってた...それなのに、優雅は私の隣にいない。
どれだけ泣いても、優雅は私の涙を拭ってはくれない。...あれ、優雅は私の涙を拭ってくれたことがあった?
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真っ黒な漆黒の空間で、私は今日も1人で自分の昔の記憶を見ている。もうここに来てどれくらいの時間がたったのかも分からない。
1日?それとも1週間?もっと長い時間がたっているような気もする...だけど、もっと短い気もする。
「ここお風呂とか無いし、でも私は死んでるから生きてる人間みたいなこともしなくていいのかな...」
ずっとここにいるけど眠気もない、あるのはただの優雅も誰もいない空虚と寂しさだけ。ああ、ここに来て1つ不思議に思ったことは、死んだはずの小学生の姿ではなく今の自分の姿が高校生の姿で制服を着ていること。
あ、消えた時は学校だったっけ...って、私はいったい何をしているんだろう。誰も見てないけどちょっと、変なかんじ。
「こんなところに1人でいるなんて、頭がおかしくなりそう!」
私はちょうど目の前に投影された記憶の中の優雅に指をビシッとさして言ってみた。誰からの突っ込みもない。大丈夫だと思っていたけど、もう自分はおかしな人になっているかも知れない。
でもそれは、今さら?優雅のことしか考えられなくて優雅の死をねじ曲げた時点で...私は変なの?何が良くて、何が悪かった?
「お前何やってんだよ、ケガとかしてねーか?」
「ッ...いたい、鼻うった...」
「ちょうど鼻の上擦りむいてんな」
またいつかの記憶。これはたぶん“あの日”を変えた優雅のいる世界で、中学生の頃。だって、中学の制服着てるし。
私が学校帰りに何かにつまづいて豪快に転けた時のことで、この時は顔面から歩道の地面にぶつかったからすごく痛かったのを憶えてる。
それと、優雅が差し出してくれる手は妙に力強くて、安心できた。
「お前何やってんだよ、ケガとかしてねーか?」
「べつに平気...」
「とりあえず大樹まで逃げるぞ、真希」
そんな優雅を見ていたら、何だか妙な感覚に襲われた。それを事実だというように、目の前にはまた優雅の手が差し出された、妙に似て非なる別の記憶が浮かび上がっていた。
それは中学生?いや小学生くらい?目の前の優雅は、私が知らない鋭い目付きをしている...否、私はその鋭い目を知っている。だってそれは...
「“夢の世界”の記憶...?」
同じセリフなのに、優雅の顔付きも瞳も纏う空気も何もかもが違う。同じ人間のはずなのに、不思議なくらいに違う。
さっきのは街中で、今のは薄暗いどこかの田舎?いや、違う。ここはたぶん、あの6人で住んでいた家の外の森の中。確か安全のために家の周りにはカモフラージュ用と魔法による攻撃を無効化するような結界が張られていたはず...ここはちょうど、その結界のギリギリの外。
「この時、何で私は家の外に出たんだっけ?しかも結界の外なんて出たらダメなのに...」
私は必死に考えた。でもどんなに思い出そうと思っても、黒いモヤにさえぎられるように思い出せない。頭が痛い。
ここに来てからこんな“痛み”なんて感じなかったのに、思い出そうとすればするほど気持ち悪くなる。
「「ッ...パパ、たすけて.....」」
記憶の中の自分の言葉と重なった。何で、どうして、あの世界の“パパ”に助けを求めたのか...わからない。思い出せない。
私は何故か、その場で泣き崩れた。でも、だけど心の中には妙に冷静な私がいて...どうしてこんなに恐くてさみしくて、泣いているのか解らない自分がいた。