TRUE ENDへのプロローグⅠ
*ヒロイン視点です。
私が優雅と一緒にいられた大切な時間。
それはこの物語の“はじまり”の前...これは、他の平行世界にも共通するプロローグであり、そして、とある物語のエピローグとして存在する。
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なにもない。ただ真っ暗で、漆黒しか存在しない空間。
否、その空間に死んだはずの、世界から消えたはずの“私”が存在する。
何故か私は、ここにいて、ただただ“昔の記憶”を思い出してはこの真っ黒な漆黒の空間に“私の記憶”を投影して見ることを繰り返している。
小さい頃の私は、現実世界とは違う世界を、夢の中でよく見ていた。
「真希は大きくなったらパパと結婚するの!」
「おれと?困ったな、おれにはリェナがいるし...」
子供の私を抱っこして、私が“パパ”と呼んだ優しい雰囲気を持つ彼は本当に困った顔をしている。私と同じ、髪と瞳の色をした“この世界”での私の大好きなパパだった。
「こいつがいいなんて物好きだな、真希。それなら俺とも結婚するか?」
私とパパをからかうように、そして私の頭を豪快に撫でながら言う彼は、異母兄弟であるパパに似ている。そして青がかった黒い髪と青色の瞳は、私のよく知る優雅にそっくりだ。そう、彼はこの世界の優雅の父親なのだから。
「お前にだってルーナがいるのに...それにいくら皇族が複数の妻をめとれる決まりがあっても真希は嫁にはやらないからな!」
「そう言うと思ったぜ。でもお前だって真希の父親なんだから嫁にはもらえねーぞ」
パパ達は私を無視して“真希を誰の嫁にするか”という難題を怒鳴り合うような勢いで話し始めた。これはお母さん達が止めに入るまで続く我が家の恒例行事であるらしい。
今の私は、どんなに駄々をこねてもパパと結婚できないことを知っている。でもこの時の私はパパのお嫁さんになれると、パパ達が皇族だから“お姫様”になれると信じていた。
「 さん!いいかげんその話しはやめてください」
「そうよ。 もかわいい真希ちゃんをからかわないでほしいわ」
お母さん達の姿は今とは真逆の色をしていた。黒い色の似合う私のお母さんは、ロングの金髪にライトブルーの瞳で、金色とライトブルーの似合うおばさんは、黒い髪と黒い瞳をしていた。
そして、私は忘れてしまった。パパ達の名前を。皇族の出身なんて、変なところを覚えていたのに...パパと結婚して、お姫様になりたいなんて思っていたのに。大好きなパパ、それに6人で囲むテーブルは賑やかで楽しかった、はずなのに...。
「母さん俺もうお腹へったからグラタン食べてもいい?それに真希が誰のところに嫁に行っても俺には関係ない話しだし、俺は母さんを嫁にする!」
声のした方を見れば、夕飯の準備の整ったテーブルがあり、私と同じく子供の姿をした優雅は1人で先にグラタンを食べようとスプーンを持ちながら反対側の手でおばさんと手を繋いでいる。
そう、この時の優雅は生まれた時から一緒にいる私に女の子としての興味なんてまったく無かった。私も優雅を男の子なんて意識もしてなくて、ただの姉弟みたいな幼馴染みだと思っていた頃だった。
「私は優雅のお嫁さんになんてならないもんね!私の理想はパパだからっ!!」
私がパパの頬に両手を伸ばしてほっぺにキスすると、パパはデレデレとしただらしない顔ですごく喜んでいた。だってパパとお母さんも、おじさんもおばさんもよくしていたし、この世界の愛情表現としては普通だった。
いつからだろう、私と優雅がお互いを異性として意識するようになったのは。
「ねえリェナ、真希ちゃんのパパ好きは重症じゃないかしら...あれじゃファザコンじゃない」
「えー優雅君のルーナ好きもすごいじゃない。そっちはマザコンでしょう」
いい勝負よね!と、お母さんは笑顔で言い放った。
大好物のグラタンを食べながらおばさんに抱き付いている優雅を、私はいつもパパに抱っこされながら見ていた。確かにこの時の私達は“パパ大好き”と“母さん大好き”な子供だった。
そして、優雅のパパはおばさんを溺愛していて、優雅とおばさんの取り合いをよくしていたほどだった。
「おい優雅!ルーナは俺のだっていつも言ってるだろ!!」
そう言いながらおじさんは一瞬で移動し、優雅を間に挟むようにして家族3人でじゃれあっている。すごく楽しそうで良い笑顔をしていた。
お母さんもおばさんの向かいの椅子に座り、私とパパを呼ぶ。2つの家族がテーブルを囲む、あたたかくて笑顔の溢れるこの世界の家が、私は大好きだった。
ずっと、この時間が続けばいい。家の外になんて出たくない。だって外は真っ暗で、誰もが敵を求めて言葉の通じないような獣のように赤い絵の具を撒き散らせるから...家の外には絶対に出ちゃいけないの。
でもそれは、いつしか見れない夢になる。
私はこの世界の記憶を、きっと忘れた。
何故、私がその世界が現実世界と違うのか分かるのは太陽と月の数と、その在り方が違うからだ。現実世界の常識は太陽も月も1つずつ、それが“普通”...だけどあの世界は熱も光も発しない、活動を停止した漆黒の太陽が1つと、その太陽より少し小さい、熱と光をちゃんと発して活動をしている太陽があった。
月なんて三日月と半月と満月の形をしたものが3つもあったくらいだ。あの世界の月は満ち欠けを見せてはくれない。ずっとその形のまま空に浮いている。
「これを思い出したのは“あの日”の出来事を変えてから、だよね」
私と“同じ声”が、私に語りかける。すると、自分1人しかいなかった真っ黒な漆黒の空間に私に語りかけてきたもう1人の自分が姿を現した。
だから、私は彼女に返事をした。
「うん、そう」
すると、彼女は私に近付いてきて複雑そうに笑って言った。
「はじめまして“はじまりの世界の私”」
そう、目の前の彼女は、私と優雅の願いによって生じた平行世界の自分。彼女は私の強すぎる想いに侵食されて彼女の世界の“優雅先輩”を守っている。
私が“あの日”の出来事を変えて優雅の傍にいるために使った霊力を、彼女は優雅先輩を狙う“死神”を倒し、追い払い、一緒にいられる平行世界を維持するために使っている。
「どうして私と優雅は一緒にいられないのかな?」
「分からない。たぶん、私の平行世界にも“答え”はないかもしれない」
ーーー優雅と一緒にいられる世界がほしい
私と彼女の想いが重なる。それでも、その願いが叶うことはまだない。世界から消えてここに来てから、私(達)は優雅と一緒にいられる平行世界を探している。
でも、見つからない。“運命”は、私(達)に“諦めろ”と言っているのだろうか。
「例え神様が私達が一緒にいるのを許さなくても、そんなのは関係ないから」
また、真っ黒な漆黒の空間に何処かの平行世界の私が何の前触れもなく突然に現れた。
目の前の大人の女性は、高校生なんてとっくに卒業しましたという雰囲気を纏っていた。大人の女性はおそらく私と彼女とは違う目線で世界を見ている気がした。
物語の世界設定を統一するため「第三章の間話 真希じゃなくて、俺がいない世界。」の月の描写を丸い月から半月に変えました。