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真希のいない世界 02

いつものようにシンヤとレイナと一緒に真希の部屋に上がり込んだ。部屋の主はいないのに、俺達はこの部屋で過ごすことも多い。真希がいなくなってからおばさんも菓子の作りがいが無かったから、レイナが美味しそうに食べてくれるのが嬉しいらしい。

俺とシンヤは甘いのは苦手だが、甘くない菓子は食べる。


「真希のお母さんの作る今日のケーキも美味しい!」


「レイナは毎回よくそんなに甘いものが食べられるね」


俺とシンヤの目の前にはおばさんの作った甘さ控えめのケーキがあり、レイナの分だけ可愛くデコレーションされた、見ているだけでも甘ったるいと分かるようなケーキがある。いつも美味しいと食べるレイナに、シンヤはマジかよという顔をして言っている。

俺もシンヤのことは言えないくらいに、レイナのケーキを見ただけで胸焼けしていたためシンヤの思っていることに心の中で同意した。


「だって、こんなに美味しいじゃない」


「そこまで言うなら、俺のも食べてくれると嬉しいんだけど。残すのも悪いし...」


シンヤはそう言いながらレイナの前にほとんど手のつけていない自分のケーキを差し出した。ありがとう!本当に食べていいの?と喜ぶレイナもいつものことだ。俺はそんな2人のやり取りを見て笑う。そして、いつも思うことは決まっている。

もし、今ここに...俺の隣に真希がいれば、俺のケーキは真希が食べていただろう。俺の許可を得ずに、“食べないの?”と言いながら俺のケーキをちゃっかり食ってる真希の姿が目の前に浮かぶ。


「真希...」


お前はいない。そんなことは頭では分かってる...でも俺は、まだ受け入れられない。ずっと死ぬまで、いや、自分が死んでも真希が俺の隣にいないなんて認められない気がする。

俺はいつまでたっても、真希がいないと駄目なんだ。


「優雅の奴、また真希ちゃんのこと考えてるな」


「そうね...今日も教室で真希のこと思い出してたんでしょ?」


「俺にとってレイナが一番なのと同じように、優雅にとっての一番は真希ちゃんだから」


さすがにどこへ行っても優雅はヘタレよね、とレイナが小さい声で本音を口にしたが、今の俺にはそんなことどうでもよかった。もう、どうとでも言ってくれ...今の俺には真希が傍にいない以上のダメージはない、はずだ。真希がいないのに格好をつけても意味がないんだ。真希以外の女にどう思われようと今の俺には関係無い。

それに、どうせ俺はヘタレだよ!あいつがいないと何もできないし、最低な奴だよ!!


「はあ、真希...」


お前の着替えを“事故”見てしまったのも、その後“変態”って言われたのも懐かしい。変態呼ばわりされても、お前が傍にいるなら何でもよかったんだ!

ああ、俺は本当に、あれから2年がたつのに進歩がないよな。真希が傍にいないのは、俺にとって不自然で物足りなくて...表現できる言葉を知らないくらいに“さびしい”。


「おい優雅、俺達はお前の()()には付き合わねーからな?」


「じゃあ、また明日ね」


存在を忘れかけていたシンヤとレイナが立ち上がりながらそう言って、いつものように真希の部屋から出て行った。俺は少しだけ現実に戻って来てシンヤ達に“また明日な”と右手を振った。

あいつらを見送った後、遅れて壁掛けの時計を見ればいつもシンヤ達が乗る電車の時間が近付いていた。


「何でこの世界(ここ)には真希がいないんだろうな...」


俺は自分の後ろにある真希のベッドに寝転がると、天井を見上げながらぼやいた。パラレルワールドなんてものがあるなら、俺と真希がいる世界とかもあってほしいと思う。俺が真希と一緒にいられる世界があるなら、俺は...いや、()()


「...俺が真希を守りたい」


俺がそう言うと、タイミングよくおばさんが“夕飯できたわよー”と1階のキッチンの方から呼ぶ声がした。

実は、思うことも無駄だと分かっていながら、たまに思うことがある...何で俺の母さんは家事や俺のことを真希の母親であるおばさんに任せっきりなのか、ということだ。だけど、これは母さんには聞かない方がいいということは今まで見てきて分かっているつもりだ。


「母さんの作る料理より、おばさんの方がうまい」


これを母さんに言ったら、きっと機嫌が悪くなるどころじゃすまないと思う。見た目はそんなに似ていないのに、何故か母さんとおばさんの作る料理の味も、家具の好みも妙に似ているのは昔から仲がいいからか。

俺はそこで考えるのを止めて、俺は夕飯を食べに真希の部屋を出た。

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