間話 真希じゃなくて、俺がいない世界。
パラレルワールドなんて、マンガとかSF映画の作り物だと思ってた。本当にそんなものがあるなんて今でも信じられない。
俺がいない、知らない世界の物語。
 ̄ ̄ ̄ーーー_____
 ̄ ̄ ̄ーーー_____
高校、2年1組の教室。帰りのHLも終わり、真希はスクール鞄を持って教室を出た。中学も高校も、友達も彼氏も作らずに人間関係は必要最低限で過ごしてきた...友達なんていらないから、優雅が傍にいてくれればそれだけでいい。
「姫野さん、もう帰るの?」
「うん、また明日」
廊下ですれ違ったクラスメイトや他のクラスの子達に挨拶をして、真希はニコリと笑顔を向けるがその顔は何処か本当には笑っていないのではないかと思わせる。
廊下を進んで階段を下りようとすれば、部活に来ないかと誘われたり、遊びに行こうなどとも誘われたりもする...真希にとっては何かと理由をつけてすべてを断るのが日常だ。
「毎回毎回、誘わなくていいのに...」
玄関まで来る頃には疲れている真希は、ため息をついた。また他の部活をしている子達に見付かる前にと思い、真希は靴を履き替えて早足で生徒玄関を出た。
最近は部活の勧誘もあまり無かったのだが、今日は運が悪かったらしい。
(私には、優雅だけでいい...)
真希はそう思いながら校門を通り出て歩道を歩く。中学も高校も、きっと優雅と私の志望校はかぶって、一緒に学校に行って帰るのだと疑いもしなかった。昔から私の隣には、優雅がいるものだと思っていた。
それなのに...いつも高校から1人で行き帰りする道、中学の時も優雅と寄り道して帰ることを想像して淋しさを埋めた。
「優雅とじゃなきゃ、アイスを食べてもおいしくない...」
小さな声で真希は寂しそうな顔をして呟いた。ちょうど真希の斜め前にはアイス屋と服屋が見えたところだった。
もし、許されるなら隣に優雅がいて、寄り道したら“買って”とねだってみたい。もう少し先にある可愛い小物を扱う雑貨屋なんかも優雅と一緒に寄り道してみたかった。優雅がいるだけで、それだけできっと楽しいはずだと思う。
(でも、優雅はもういない。あの日の横断歩道の記憶が憎い...)
大通りに出て、ここの歩行者用の信号にはいつも待たされる。ここで信号待ちをしていると、何故か思い出してしまう。現実に引き戻されてしまう。優雅が最後にどうなったのか...ああ、目の前に“あの日の情景”が重なってしまう。
「優雅...」
ーーー優雅、返事をして、お願いだから...
記憶の中の、赤い色を纏って横断歩道に倒れる優雅に...私は何度も何度もあなたの名前を呼んで、認めたくないと心の中で叫んでいた。
いつの間にか、目の前の歩行者用の信号機が赤から青に変わっていた。あの日の記憶から現実に引き戻された真希は何もなかったかのように歩きだした。
家に帰り、真希は自分の部屋に入ってスクール鞄を机に置いた。壁に掛かるハンガーを取りベッドに置くと、ブラウスのボタンを一番下まで開けてスカートを脱いでいく...ベッドの上に脱ぎっぱなしにしていたジャージに着替えると、ふと真希は窓の外を見た。
「おばさん、また優雅の部屋で泣いてる...」
真希の部屋と優雅の部屋は隣り合っている。何故そういう設計にしたのか分からないのだが、真希の家も優雅の家も行こうと思えば自分達の部屋のベランダから行き来できるように造られている。そのため、カーテンを閉めない限りお互いの部屋の中が見えてしまうのである。
「私も人のこと言えないよね」
優雅があの日、車にひかれていなくなってから...おばさんは毎日毎日、優雅の部屋でずっと泣いている。
自分も“優雅の死”をまだ受け入れられていない。もう、5年くらい経つというのに、頭では理解しているつもりでも心はそれを受け入れたくないと今でも足掻いている。
「私ね、優雅のこと...」
“好きなの”、という想いは音にはできなかった。するとベランダの方から窓を叩き、真希を呼ぶ声がした。
そちらに目を向ければ優雅の母親であるルナの姿があった。いったいどうしたのかと真希は慌ててルナの方に行くと鍵を開けて戸を横に引いた。
「おばさん、どうしたの?」
普段こんなことをしなさそうなおばさんがベランダから来たことに驚く真希は、ふと昔はよくこのベランダからお互いの部屋を行き来していた優雅とのことを思い出した。
すると、突然におばさんは自分の両手を強く握ると...とんでもないことを言っていた。
「真希ちゃんお願い!!優雅を生き返らせて!」
ーーー本当に、それをしても許されるの?
私は、何度も優雅の傍にいきたいと思っていた。自分には人並外れた“霊力”がある、だから...あの日の出来事を変えたり、きっと何かできるのではないかと心の中でずっと考えていた。
でもそれは、普通なら“ありえない”ことだと思ったから、自分の思った通りに行動していいのか、ずっと悩んでた。
「いいの?この霊力を使って、優雅を助けても...優雅の傍に行っても許されるの?」
「私もそれを望んでいるの。できることなら、私が過去を変えたいくらいだわ!」
おばさんのライトブルーの瞳には優雅を失った悲しみと、別の狂気にも似た“願い”の色が映っていた...ああ、本当に優雅の傍に行っても、過去を変えても、あの日の出来事を変えてもいいのだろうか。
私の心で、悪魔が囁く...否、私はもう一度、あなたに逢いたい。ずっと一緒にいたい。それが“私の願い”だから、それを叶えるために私はこの道を選ぶから。
高校の制服を着た真希が、歩道から静かに横断歩道を見詰めていた。
“あの日の横断歩道”は忘れられない、忘れたくない。あの頃は横断歩道の脇に花束やお菓子がたくさんあった...でも5年も経つと、それはもう無い。どれだけ酷い事故だったとしても、忘れ去られている。
「っ...優雅ッ...」
あれから自分は、どれだけ泣いただろうか...目は赤く腫れて、今もまた涙が溢れて頬を伝い落ちている。
それでも、真希は少しすると涙を制服の袖で拭いた。そして、自分の体の中の霊力を集めるように、意識を集中するように息を静かにはいた。
周りの人間なんて、視線なんて関係無い、大嫌いな車の音なんて聞かなくていい...私が戻るのは、あの日のこの横断歩道。
真希は自分の胸の前で祈るように手を組んで、両目をとじた。
「私は、もう一度...あなたに逢いたい!!」
真希は叫んだ瞬間、数秒してからとじていた目を見開いた。そして、目の前には石造りの白い壁が四方を囲む場所へと変わる。真希の足元は何段か上がっている四角形の白い石造りの台の上で、そこには白く光り耀く円形の魔方陣のようなものがあった。
この石造りの白い台の真上だけ天井が無く、空は暗い。そんな中で存在を主張するのは半月の形をした月のようなものだけだ。その月の光が、白く光り耀く魔方陣に力を与えるように天井の四角い穴から降り注いでいる。
「私は、優雅に逢いたい!!!」
真希はいきなり現れたこの場所に驚くことも恐れることもなく、ただ願いを口にした。
すると魔方陣の放つ光りが一際強くなり、白い光の玉が無数に浮かび、真希の周りをふわりふわりと舞い踊った。
ーーーとてつもなく、強い霊力を感じる。
魔方陣から自分に伝わる強い霊力のようなものを真希は感じ取り、無意識に口元がゆるむ。それでも、真希の心はただ“優雅”の存在を求めていた。
これが、この物語の“はじまり”__________
久しぶりのヒロイン視点です。




