第三話 お前のいない世界であの時を思い出す。
俺の忘れていた記憶。
いや、本当には忘れられない記憶。
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床に力無く座り込み心を壊し、声を掛けても動こうとしない優雅をシンヤが肩を貸してソファーへと座らせた。
優雅はソファーに座り、視線を動かしたかと思うと、何処かを見詰めてまた止まってしまった。
シンヤはそんな優雅をただ見詰めることしかできない、友達として何て声を掛けていいのか、どうすればいいのか分からない。
「シンヤ...」
そして、レイナもまた優雅に掛ける言葉もシンヤに掛ける言葉も見付からない。真希に対しても、何て言っていいのか...いや、真希に対しては文句ばかりかもしれない。
「本当に、ごめんなさい」
満姫は2人の複雑な思いや表情を見て、申し訳なさそうに言った。母親としても、この状況を作り出してしまった自分にも非があるだろう。
こんなにも“矛盾した世界”を娘が作ることをすでに許してしまったのも、説得させられてしまったのは他でもない自分なのだから。
「いえ、本当のことが聞けて良かったです」
そう言うシンヤもまだ内心は複雑だ。優雅にだって言いたいことも聞きたいことも山ほどある。それでも今のこんな風な優雅に言っても、いつもみたいにからかっても...意味がない。そして、助けを求められる状態じゃないレイナにさえも視線を向けてしまう自分が情けない。
「はい、ありがとうございました」
レイナも頭の中で納得も整理もつかないながらも、満姫に言った。
先程まで窓から差し込んでいたオレンジ色の夕日は沈んでしまっている。壁掛けの時計を見上げればもう6時半をまわっていた。満姫もそれに気付き、お家の人が心配するわと困った顔をした。
「俺達も、そろそろ帰ります。お邪魔しました」
「真希と優雅君のためにありがとう」
帰り支度を始め、シンヤとレイナは優雅にまた明日と言ってリビングを出た。そして満姫は優雅を心配そうに見詰めた後、2人をお見送りしてくるわと言ってシンヤとレイナをの後に続いてリビングを出た。
リビングのソファーに座り、1人になった優雅...頭の中で思い出したくない、忘れてたい記憶を何度も何度も繰り返し思い出す。
これは、あの日の記憶...
『優雅ー!』
俺を呼ぶのは、小6の頃の真希だ。いや、正確には記憶の中の真希は小6の俺を呼んでいる。昔の俺は、真希の前を走ってる。それを真希が追いかけていた。
「行くな!!」
今の俺の目の前を通り過ぎていく、4年前の俺と真希。
どれだけ真希に必死になって叫んでも、真希は走っていくのをやめてはくれない。
どれだけ“昔の俺”を止めようとしても、自分の腕を掴んで止めることなんてできない。“今の俺”には通り過ぎていくだけの過去の記憶なんて、どうにもできない。
そして、あの横断歩道へと辿り着く。
『早くしろよ!真希!』
歩行者用の信号が青に変わると、昔の俺はまた走り出す。
『優雅!!』
真希が必死に俺を呼んでる。よく見れば真希の顔は俺に危険を知らせるように険しい表情をしてる、真希は横断歩道に突っ込んでくる車に気付いてた。
でもあの時の俺は自分に突っ込んでくる車になんて、真希が俺を呼ぶ理由なんて...何も気付かなかった。
『優雅は大丈夫。私が代わるから...』
真希が俺を庇って、俺の代わりに真希が車にひかれた。普段聞くことなんてない、鈍い音が聞こえる。真希の体が不自然に空中で曲がりくねっている、歩道に尻餅をつく俺の少し離れた場所に、“真希じゃない真希”が転がり落ちて...真希の目だけが、真っ直ぐに俺を見ている。
「『真希!!』」
“今の俺”と“昔の俺”の、真希を呼ぶ声が重なる。
そして、目の前には、赤く染まった真希がいた。
『真希!?おい、何で返事してくれないんだよ!!』
いつまでも俺(達)は、真希を呼び続けた。
真希に触れている昔の俺の両手は、真希を染め上げる“真っ赤”な色と同じ赤い色をしている。
「真希、何で俺なんかを助けたんだよ!?」
今の俺の両手も、あの時と同じ赤い色をしているんじゃないかと自分の手を見詰める...。
『優雅ー!』
そしてまた、真希が俺を呼ぶ声で始まる。何度この光景を繰り返し見れば、俺は許されるのか...本当に、許されるのか?
俺は、真希に許してほしいのか...?
『早くしろよ!真希!』
ああ、またもうあの横断歩道に来てしまった。
俺がこの時、もしも
「死んでたら、真希は...」
「優雅!!」
突然、記憶の中の真希じゃない誰かに呼ばれた...優雅はその声により、繰り返す記憶から現実世界へと戻された。
優雅の記憶に少しもたついています。
そして、ブックマークありがとうございました。




