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第二話 お前のいない世界で俺は生きられない。

*優雅視点での事故シーンの描写が入ります。


何度も何度も真希の最後を思い出す。

車にひかれたのが、もしも俺だったなら...。


 ̄ ̄ ̄ーーー_____

 ̄ ̄ ̄ーーー_____


満姫は、引き戸を開けて部屋の中に入る。その後に続いてシンヤとレイナが部屋に入れば、その部屋はリビングのフローリングとは違い畳である。

そして、その部屋の奥には棚がある。棚の中には先ほどの写真で見た真希が背負っていた赤色のランドセルがあり、その上には小さな仏壇が置いてある。

横の壁には“あの”、変な色の染みがついたボロボロになっているワンピースがハンガーに掛けられていた。


「...うそ、でしょう...?」


レイナは仏壇に飾られている写真を見詰めて呟いた。声にしているつもりは全くなかった。そこにある写真が、あり得なさすぎて、信じられなくて...軽い目眩をレイナは感じた。

シンヤも信じられないという顔をしていて、その目の前の現実についていけない。


「もう、4年になるかしら...小学校の時の真希なの」


シンヤとレイナの反応を見て、さらっと仏壇に飾られている写真は真希だと説明した満姫はいつもの笑顔をしている。

満姫にとっては目の前の()()が当たり前の現実なのだ。今さら何かが変わったりはしない。


「4年前って...」


今度はシンヤが呟いた。数分の時間が経っているが、まだ頭の中は整理できていない。仮に、もしも本当にこの目の前のことが事実だとしたら、今まで一緒にいた“真希ちゃん”という存在はいったい“何”だったのか...レイナだって毎日、学校で会って、学校が休みの日だって遊んだりしていたはずだ。


「それじゃあ、今まで一緒にいた真希は...?」


レイナもシンヤと同じように()()へ辿り着いて疑問を抱いてしまったらしい。レイナの顔が真っ青になって体が少し震えている。

こんな“心霊現象”みたいな現実が、本当に受け入れられるものだろうか...ホラー映画じゃあるまいし、テレビでしているような番組は“作り話”の、はずだ。


「一緒にいた真希は、真希よ」


満姫はそんなレイナを心配しながらレイナに優しく言った。たとえ、“幽霊”や“お化け”だと言われても、()()()()()なのだ。他の何者でもない。


「真希...?」


それでもレイナには受け入れられない。気が遠くなっていく、目の前の景色が遠くなる。立っている感覚も、体の感覚が分からない、体に力を入れているつもりなのに...レイナの体はふらつき、支えを失ったように突然に横に倒れた。


「レイナ!」


突然に傾いたレイナの体。倒れそうなレイナをとっさにシンヤは抱き抱えるようにして支えた。

そんな状況に満姫も慌てて手を伸ばしてレイナとシンヤを交互に見詰め、申し訳なさそうに言った。


「ごめんなさい。大丈夫かしら?」


「レイナ、大丈夫か?」


シンヤも自分の腕の中のレイナを心配して声を掛ける。レイナの目がシンヤを見詰め返すが、その瞳には不安や驚き、信じられないというような感情が複雑に入り交じって映されている。

大丈夫だと小さな声をやっとの思いで答えると、レイナは自分の力で立った。それでも自分を支える自信はなくシンヤの腕に掴まっている。




それからリビングに戻り、シンヤとレイナは満姫から本当は真希が小学校の6年生の夏に事故で亡くなったという話しを聞いた。

横断歩道を優雅と真希が渡っている所に黒の軽自動車が信号を無視して突っ込んできたのだそうだ。小学生の優雅と真希に非はない、横断歩道を青信号の時に渡ろうとしたのだから...その黒の軽自動車はその前にも事故を起こしていて逃走車だったと後で警察からの説明があった。


「そんな...」


「真希ちゃん」


レイナは自分の口元を手で押さえ、そして頬を涙が伝い落ちていた。シンヤも泣いているレイナの肩を抱き寄せながら、満姫の話しを静かに聞いていた。

すると突然にドアが開き、リビングに優雅が入って来て言った。


「本当は、俺が車にひかれるはずだったんだ」


優雅は、自分と真希の写る写真を見詰めている。そこには“あの事故”の前までの写真しかない。その後の写真は、撮られていない。“()()()()()()()()()()()4人で家族写真を撮れなくなった。


「優雅君...」


満姫は心配そうに優雅を呼んだ。優雅の目は泣き腫らしている、その瞳には複数の絡み合った悲痛が映っている。

“あの時”と同じだ。真希が自身の持つ霊力(ちから)を駆使して戻ってくる前の、泣いて真希を呼び続けていた、真希のお葬式が終わった後の優雅君に戻ってしまっている。


「真希はあの時、俺を庇って...」


優雅にとって、忘れていたい記憶が、思い出したくない記憶が、忘れたくても忘れられない最悪の記憶が...幾度も幾度も呪いのように優雅の頭の中でフラッシュバックする。

壊れたように繰り返される同じシーンは、真希と出掛けたあの夏の日。横断歩道を渡ろうとして黒色の軽自動車が俺の目の前に突っ込んでくる。それを、真希がいつの間にか俺を庇って...気付いた頃には目の前で真希が赤く染まって倒れてる。

赤い、紅い、あかい、アカイ、アスファルトの上に描かれた白線のくせに、何で赤黒いんだよ!?


ーーー真希に触れた俺の手も、あかいアカイ紅いあかいアカイ赤い。


「あの時に、俺がっ...!俺が死ねば良かったんだ!!!」


優雅の心が、壊れていく...否、もうとっくの昔に壊れていた。






これは、

真希の変えたかった、変えきれなかった...



この世界の、『未来』。

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