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第四話 私のいない世界で優雅は...。


お願いだから優雅。

もうこんな私を呼ばないで。


 ̄ ̄ ̄ーーー_____

 ̄ ̄ ̄ーーー_____


日の光がカーテンの隙間から部屋の中を照らしている、優雅の部屋。

優雅はベッドの上で布団を半分しか掛けずに寝ている。“優雅!”と下の階から優雅の母親の声がこだましている。そして、部屋の外から階段を上がってくる音がした。


「優雅ー起きなさい!」


また廊下から声を張り上げるルナの声は大きく通る声なのだが、それでも優雅は起きない。少しすると勢い良く部屋のドアが開く。


「優雅!何回呼んでると思ってるの!」


ルナは優雅の部屋に入り、息子を起こそうとするがまったく優雅は起きる気配がないので困ったものだ。これが自分ではなく“真希ちゃん”ならば反応は別だろうと考えると心が痛む。それでも、自分は優雅の母親だ。


「優雅!起きなさい!何時だと思ってるの!」


やっと母親の声が聞こえたのか優雅が起き始める。眠い目を擦りながら“うるせえなぁ”と云うような目で母親を見る優雅は起きたくないようだ。そんな優雅の口から出た言葉は寝起きでかすれている。


「...んだよ...」


「何だよじゃない!...本当に真希ちゃんがいないとダメなんだから、この子は...」


本当に自分の息子である優雅は真希ちゃんがいないと何もできないのかと言ってしまったルナ...すると優雅がベッドから勢い良く起き上がる。

ルナの“真希ちゃん”という言葉に反応したようだ。


「真希!」


真希という言葉に本気で反応して目が覚めたらしい優雅は、また真希のことを探して視線をさ迷わせて...やっぱり“いない”のだと悲しさと寂しさが入り雑じったような想いを瞳に映した。

それを見たルナは、母親としてか、それとも息子の好きな子を自分のために奪ってしまった罪悪感からか“真実”を告げようか迷いながら口を開いた。


「優雅...あの、真希ちゃんは...」


やはり、言えない。何度も言いかけては、言いにくそうにして口を閉ざしてしまうルナの瞳にもなんともいえない想いが映し出されている。

優雅はそんな事には気付かずに、何も聞きたくないと思ったのかベッドから出て制服に着替え始めて元気無く優雅は言った。


「学校行く」


「え?あ、そう...そうよね」


優雅の行動に何も言えないルナは、大人しく息子が学校に行くのを見送ることしかできなかった。






学校、優雅は授業後をサボって1人で屋上にいた。先ほどチャイムが鳴り、今は昼休みだ。手すりに寄り掛かり屋上の出入り口であるドアの方を向いて座っている優雅の見上げる空は少し曇っている。

難しい表情をしている優雅...すると、そこへ屋上の重いドアが開く音がした。


「やっぱりここにいた。午前サボりやがって...」


そう言いながらドアから顔を出したのはシンヤだ。呆れた顔をしてシンヤは優雅の方に歩いてくる。

シンヤの姿を認めるが、優雅は特に反応をせずにそのままぼーっとしていた。


「お前は本当に、真希ちゃんがいないと駄目だな」


「...昔からだ」


シンヤはからかいながら、優雅の隣に腰を下ろした。そんなシンヤの言葉を優雅はまったく否定せず肯定した。“俺は真希がいないとダメなんだ”と、元気無く言う優雅を見てシンヤはからかいの笑顔を張り付けたまま固まってしまった。本当にシンヤにとって、いつもの“からかい”のつもりだったのだ。

そんないつもとは少し違う反応を見せるシンヤを見つつ、優雅は話し始めた。


「俺さ、すげぇ最低な奴なんだ」


いきなり何の話だ?と優雅の突然の言葉についていけなかったシンヤは疑問符を顔に浮かべた。すると優雅は立ち上がり手すりにもたれ掛かったかと思うと、今よりも顔を歪めた。それをシンヤは見詰め、次の言葉を待つしかできない。


「っ、分からないフリしてたんだ。あいつが俺の、傍に居てくれるなら...何でも良かったんだ」


「優雅?」


優雅の言っていることはシンヤには意味が分からないが、いつもとまったく違う優雅を心配する。そこへまた、屋上の重いドアが開く音がした。

そこにはレイナの姿があった。どうやら走って来たらしい、息を切らせている。


「大変なの!!...っ真希が!」


レイナは2人の方へまた走って行き喋り始めるが、慌てているせいで要領を得ない。シンヤはレイナに落ち着いて話してと言うが、今日の優雅といいレイナも意味が分からない。

優雅は“真希が”と聞いて、何か思い当たるものがあるらしく表情をまた曇らせた。




レイナの話によれば、真希はもう学校には来ないということらしい。ただ“退学する”と真希の母親が先ほど学校に来て退学届けを出したらしい。


「どういうことなんだ?」


シンヤはもう訳が分からず、考えているが本当に理解できない。そんなシンヤを見て、レイナも何か知っているのではないかと優雅の腕をつかんで問い詰め始めた。


「ずっと、真希が学校を休み始めてから電話が繋がらないの...!何か知ってるの?真希のこと、何か知ってるんでしょ!?」


レイナの瞳に涙が溜まっていき、ついには頬を伝い落ちていく。


「いきなり学校辞めるなんて...私、聞いてないわ!!...真希は風邪で休んでるだけでしょ!?それなのに、私に何もッ...」


ついに思いも涙も堪えきれずにレイナは本当に泣きだしてしまう。そんなレイナの肩をシンヤは瞬時に抱いた。優しく頬を撫でて涙を拭き、次は目元に指を当てて涙をはらうが、レイナの涙は止まらず後から後から溢れ出てくる...それでもシンヤは大切なレイナに涙は似合わないと、大丈夫だと言って慰める。


「大丈夫だレイナ。それに、そんなふうに泣いてる顔は俺の好みじゃない」


「シンヤっ、私、真希に...」


シンヤは肩を抱くだけではレイナが泣き止まないと判断して、もう片方の手を腰にまわしてきつくレイナを抱き締めた。大切な友達の真希を思い涙を流すレイナに胸を貸し、ついでに優雅から隠すように優しくレイナの頭を撫でた。

優雅は2人の世界に入りつつあるシンヤとレイナを見つつ、真希を思って泣いてくれるレイナにも罪悪感を(いだ)いた。このどうしようもない気持ち...優雅はあえて目の前で2人だけの世界にいる彼らに言った。


「お前ら今日、真希の家...行く気あるか?」


「え...真希の家?」


突然の優雅の言葉に現実に戻されたレイナは声をあげ、シンヤはレイナに分からないように優雅に邪魔するなと目を向けてきた。

優雅はそんなシンヤを見て苦笑しながらも“ざまあ”とシンヤに口パクで伝えた。するとレイナは涙を制服の袖で拭くとシンヤの腕から抜け出して優雅を真っ直ぐに見詰めた。


「真希に会えるの?」


「ああ、お前らは知ってもいい気がする...俺が真希にどれだけ最低なことをしてたのか・・・・・」


そんな期待を込められた目で見詰められても困る優雅だが、何ともいえない表情をして空を見上げながら優雅は答えた。

ここで第二章は終わりです。

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