間話 優雅じゃなくて、私のいない世界。
これはデジャヴ...
私と優雅を変えただけで、“同じこと”を繰り返している。
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真希の部屋。床に座りベッドにうつ伏せているのは、真希の母親である満姫だ。
今日もいつも通り自分を含めて3人分の朝食を作ってしまったが、自分以外に食べてくれる人はいなかった。娘の真希はもういない、昔から一緒にいる親友の桜木ルナの息子である優雅君は食べに来てはくれなかった。
その現実に、自分の失態に自分で自分を笑ってしまった。
「真希...本当にもういないのね。分かっていたことだけど、やっぱり寂しいわ...」
満姫の茶色の瞳から涙が頬を伝い落ちてベッドを濡らす。
ああ、“あの時”のルナの気持ちが今なら理解できる。優雅君を失ったルナがいつも息子の部屋で泣いていた。会社の経営が傾くのもルナは気にしていられる状況ではなかった。
だから、あのルナでさえも...“あんなこと”を願わずにはいられなかった。だが、それでも満姫は、涙を拭きながら言う。
「泣いている場合じゃないわね...」
自分は“あんなこと”は願わない。真希とも約束をした。それに、あれだけのことができる人間なんてこの世界に滅多にいないだろう。ゼロではないだろうが、きっとごく僅かのはずだ。
すると満姫は、立ち上がりふと思い出す。
「真希は“今まで生きていたこと”にしておきたがっていたわね」
寂しそうに、懐かしそうに真希を思い出しながら優しい笑顔を浮かべた満姫は目の前にある窓から外を見て隣の家を見る。その窓から見えるのは優雅君の部屋でカーテンが閉めきられている。
自分の家もルナの家も行こうと思えば真希の部屋と優雅君の部屋が行き来できるように造られている。
「そういえば、優雅くんは大丈夫かしら...」
「あんたは強いわね、満姫」
満姫が優雅を心配しているとドアの方から声がした。そちらを見れば部屋のドアが開いていて、そこにはルナの姿があった。
いつもならもうとっくに会社へ行っているはずの時間だが...相変わらずスーツを着こなしているルナはとてもカッコいいと思う。専業主婦となった自分とはやはり違う。
「そんなことないわ。立場が逆だったら、私もルナと同じことを願ったはずよ」
「本当に、そうかしら...」
ルナは満姫から視線を反らして悲痛を映した瞳をふせた。自分は満姫の娘に、真希に背負わせてしまった...過去の出来事を変させて、自分の優雅と命の在処を入れ換えた。死をつかさどる“死神”に誰よりも心を繋げたはずの満姫の娘を差し出したのだ。
優雅にとって自分は最低の母親、真希ちゃんにとって自分は最低の大人、満姫にとって自分は裏切り者...否、見限られてもしかたない臆病者。
「ルナ?」
満姫が心配そうにルナの顔を覗く。本当に満姫は昔から眩しいくらいに真っ直ぐで輝いている。こんな自分とは大違いだ。
それでもルナは満姫に“大丈夫”だと言って笑う...だが満姫にはそんなルナの笑顔が“強がり”なのだと昔から知っている。自分に起こるかもしれない“不幸”はいつも、ルナの方に先に起こるのだから。
「大丈夫よ、心配しないで。上手くやるわ」
「分かったわ」
この話しは“おしまい”と満姫とルナの間で目配せしあって終わりにした。
すると、ルナはまだ朝食を食べていないのと言うので、満姫は今朝作り過ぎてしまった朝食があるから食べていってと返したのだった。
真希以外に母親達も秘密を知っています...という話でした。
実は、真希の知らない秘密が今の加筆修正で付け足されていっています。と言うか、本当に書きたいと思っているのは「おばけの恋~はなれたくない~」のその後の物語でして...この物語では「銀風の物語」との繋がりを全切りして新たな力の根元を用意しています。(元ネタを知らない方には意味の分からない内容ですみません)




