第三話 私のいない世界で優雅は過去を忘れたままでいて。
思い出さないでほしかった。思い出してほしかった...
あなたのために、なんてきっと嘘。自分のために優雅の傍にいたの。
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優雅の部屋。窓から夕日が差し込んでいる。優雅は部屋に入るなり、スクール鞄を床に投げ置いてベッドに飛び込んだ。うつ伏せになりながら優雅は先ほどの現象を思い出して考えている。
「何なんだ?さっきの...」
帰り道に一瞬だけ浮かんだ映像。あれはいったい何だったのか...“白い横断歩道の線”。それだけが強烈に思い出される。あの小間切れの映像、あれはどこの横断歩道なのだろうか。
「俺は“何か”を忘れて...?」
自分は本当に何かを忘れているのだろうか。よく分からない、自分はいったい何を忘れている?いや、その前に本当に何かの記憶を忘れているのだろうか。考えても考えても、思い出せない。
優雅の部屋の空中に浮く真希は、心配そうに優雅をずっと見詰めていた。
優雅は気付いていないだろうが、今日も真希は優雅に“おばけ”らしく憑いて行っていた。
『優雅、思い出さないで...』
優雅が思い出しつつある、あのときの記憶...どうか、忘れたままで、いてほしかった。今、私が“いない”って本当は優雅は気づいてるんでしょ...?
だから、そんなに私を呼ぶんでしょ?あの時みたいに。
でも、ごめんなさい...私はもう傍に行けない。
『私はもう、本当に“私の魂”は消えてしまう』
私の声が届くことはない...。
さよなら優雅...私はもうあなたを見ることもできなくなるから。
お願いだから、笑って。優雅...
「優雅のこと、大好き...」
最期に真希は残り少ない霊力を振り絞り、優雅に聞こえないはずの音をちゃんと声にした。
優雅を生き返らせるために霊力を使って過去に飛んだ。
あなたの命を喰らう“死神”に、私の命を代価にして渡した。
泣いて私を呼ぶ、自分を責め続ける優雅の傍に行くために魂をけずり、他者の命を喰らってまで...あなたの傍にいられたことは、私が選んだ道だから、私は後悔なんかしない。
でも...あなたのことを、私は救えていない。変えたかった。
そして、真希は完全に姿を消した。
優雅は突然ハッとしたようにうつ伏せていた顔を上げた。何か聞こえた気がした。また、真希の声がした気がした...。
「“大好き”って真希に言われたような...」
周りを見回しても真希の姿どころか、この部屋にいるのは自分1人だけだ。他に誰かがいるわけがない。
そんなことあるわけないよな...俺の、勝手な妄想か!?まぁ、本当に真希に言われたら、嬉しすぎるだろ!!
「そんなわけ無いか...そんなこと、あるわけない」
真希、逢いたい...。
俺は、本当に真希がいないと駄目だな...って、そう思う。
ーーーいつから?
俺の、頭の中にそんな問いが響き渡る。この声はさっきも聞いた“あの声”だ。
「っ...いつ、から...?」
どういう、意味だ...?意味分かんねーよ!!
優雅はイラつき、その怒りに任せて両手に力を込めてベッドに叩き付けた。それでも優雅の気持ちは晴れることはない。