幽界へようこそ 2
「これでいいじゃろ」
見ためは変わっていない。身体能力が変わっているか調べるため軽くジャンプしてみたが筋力にもさしては変わりなかった。
「実質的に強化されるような能力ではない。ほれ鏡の前に立ってみぃ」
ヘキナは今はただの鏡になっている浄玻璃の鏡の前に立ってみた。普段通りの何の変哲もない自分が映っている。
「お主はやっぱりエルフは好きか?」
「?...好きだけど?」
「どんなのがいいんじゃ?」
「そんなの急に言われても...」
「いいからイメージしてみてくれぃ」
ヘキナが想像したのはとあるライトノベルに登場したエルフのキャラクターだった。急に自分の好みなエルフを想像しろと言われても少々難しい話だった。
「ほう、熟練度が低くても機能してくれるみたいじゃの」
大王はヘキナを見ていた。イメージの世界から離脱しヘキナも鏡を見てみる。
「なっっ!!」
鏡の中には尖った耳と豊満な胸が特徴な女性のエルフの姿が映っていた。ヘキナが手を上げれば手を上げ、あらゆる動きがそのまま鏡に反映する。鏡の中にいるエルフとは自分だった。ヘキナがイメージしたキャラとは違う顔だが整った顔で綺麗だった。
「熟練度が上がれば顔や体系まで設定出来るようになるじゃろう。種族、性別までは自由そうじゃな」
「すげぇ、どういう仕組みだ」
「元々ここは死後の転生を行う場所じゃ。六道には6つ転生先があってそれぞれに繫栄している種族が異なっておる。お主が今なったエルフは天人界の種族じゃ。つまり転生するために種族を変える能力というのを儂は備わっておる。それをお主に付与したわけじゃ」
六道は天人界、人間界、修羅界、畜生界、餓鬼界、地獄界に分かれ、順に妖精系、人間系、巨人系、獣人系、小人系、鬼人系の種族がいるらしい。おまけで魔界の魔人系にもなれるらしい。イメージで姿が変えられるのが分かりコロコロと種族を変えてみる。一瞬、鏡に映っているヘキナを見て大王が顔をしかめたが、すぐに取り繕った。ヘキナは今の姿を見るのに興奮しているので気に留めなかった。
「種族ごとに特化した能力、いわゆる種族値はしっかり繁栄される。また種族ごとの特殊能力も使えるわい」
エルフの姿にさせ、試しにと言わんばかりに大王が手先に意識を集中してみろと言ってきた。何かを集束するように意識すると手から白く光る球体が発生した。
「それがエルフの魔力、魔力は人間はあまり使えなくてもエルフなら当たりまえのように使っておる」
それぞれの種族になってみて、大王に種族の注意点を教えてもらう。キメラもこの時には回復して、能力の注意事項の説明をしてきた。
「ともかく、力量が高くなったわけではない。まだ低レベルな時に変な組織にあったらこの能力を使って隠れるんじゃ」
「月読命は元から変装できるのでご心配なく」
彼女は狐の姿に変化した。動物だけでなく人にも物にもなれるらしかった。コロコロ変えていく姿は身を隠すことについては問題なさそうであった。
「そういえばお主は月の神と行動するから神憑になったほうがいいじゃろうの。まだ言葉の話せない彼女と意思疎通が使えるようになるんじゃし」
「神憑?」
「神の憑依、神との契約です。これはモンスターをペットにするというより、神が体に宿るというものです。勿論、ステータスの上昇があります。上位の神なのでなかなか良いボーナスがつくので神の能力を狙う輩には命を狙われる可能性……否、狙われるんですが」
命を狙われる代わりにステータス上昇。しかし、さしてや状況は変わらない気がする。あの殺意バリバリの男達に元から狙われているのだから。
「元から保護する俺は命狙われるんだろうし、ステータス上昇なら喜んでやるよ」
契約の儀式は神が描いた魔法陣の上で行う。契が終わり、魔法陣から降りると急に頭の中に声が響いた。
『契約終了。どう聞こえるぅ?』
頭の中に響いた声は彼女のものだった。彼女はニカァっと笑ってる。急な声に驚いているヘキナを見て喜んでいるようだった。意思疎通はいわゆる念話という事か。
「契約完了ですので、ニックネームを決められます」
「え?ツクヨミって名前じゃないのか?」
月の神のツクヨミと呼んでいたので、てっきりツクヨミという名前が付いているのかと思った。そう思うとツクヨミから思考が飛んでくる。
『月読命っていうのは祖先の名前で、能力を受け継ぐと同時に名前も継ぐやつだから。別に新しく名前があっても大丈夫なんだよ』
「うぉ…おおう」
ツクヨミが喋ってる。正確には念話だが。へキナはまだ違和感が大きかった。ある程度の成長で会話はできるようになるとキメラから聞いていたが、なんか感動した。ツクヨミを見ているヘキナを見て、月読命説明を入れようとしたキメラは察したようだ。
月の神というなら名前は月にまつわったものがいいんじゃないかと考える。月はそんなよくない...
『月って、変だよ』
急なダメ出しに若干落ち込む。暦の神様でもあるなら旧暦の名称とか...あまりちゃんと覚えていないけど。1月って何だっけ?2月は如月、弥生……あと葉月ぐらいしか分からん。
「じゃあハヅキにしよう」
ツクヨミことハヅキを見てみる。さっきやってた念話の要領でこっちから話しかけてみる。しっかり届いたようで感想が返ってくる。悪くはないようだ。
「じゃああとは貴方の名前についてです」
「俺の?」
「ここは死後の世界なので生前につけられた名前をそのまま引きずる必要などありません。特に貴方のような女性のような名前が嫌な場合改名が可能です」
一瞬ヘキナは答えに詰まった。間を置いて、キメラにヘキナが答えようとした時、大王の方が先に開口した。
「嫌、キメラその心配はないの。彼は自身の名前を深く気に入っておる。閻魔帳に目を通せばわかるじゃろう」
大王が開いた閻魔帳をキメラが目を通し謝罪する。
「愚問でした。自重します」
「いいえ、大丈夫です」
「そもそも女性にもなれる能力がついたのじゃから逆に都合がよかろう」
「それもそうですね」
やらなければいけないことはだいたい終わったらしく霊界についての説明、メニュー画面の基本操作の仕方を教えてもらい転生した後の準備に備える。ツクヨミとしての能力についても教えてもらった。裁判の仕事が滞っているのことなのでだいたい学び終わるとヘキナは新世界への心意気を整える。
「幽界と霊界は近いからの。転生自体は簡単じゃよ。そこを右に行ったところの扉からも行くことができる」
大王にはお礼を言って判決室を出る。キメラが扉まで案内してくれた。
「キメラもありがとうな。そういえば生前一回助けられているし」
「至らなかったから殺されてるんです。ほめられたものではありません」
謙遜な反応を返されてヘキナは否定するがキメラは認めようとはしなかった。
「ここがその扉です。こちらの方で何かありましたら、またお会いに行くこともあるかもしれないです」
キメラがそういうと少し大きめな扉の前で足が止まった。ここがその扉のようだ。胸が高鳴る。
「よし!!!」
扉に手をかけ扉を押す。中には大きな魔法陣があった。キメラに指示されてハヅキと魔法陣に乗る。キメラは軽く会釈して扉を閉めた。同時に魔法陣が光り始め部屋いっぱいに包んだ。
9アルさんメモ4【幽界】
これは六道概念とは違う別の死後の世界です。なんでも手に入れることが出来るのというのが特徴で、手に入りすぎて、つまんなくなった時に霊界(次のステップ)に行けるようになります。
私の初期原案ではここがゲームの世界にしようかと思っていました。
9アルさんメモ5【霊界】
幽界より上へ昇るとあります。幾つも重なっており、心が綺麗に(?)なれば上層へ進み続けれます。詳しくは忘れました…
9アルさんメモ6【浄玻璃の鏡】
生前の行いを映す鏡。実は人の考えていることも映し出せるとも聞きました。そうらしいです!すごいですね。