幽界へようこそ 1
「お前の事についてはよーく分かってる」
「じゃあ、浄玻璃の鏡要らないんじゃないのかよ」
生前の行い等見たくて見るものじゃない。回避できるなら回避したいものだ。死後の裁判で使われるという浄玻璃の鏡はヘキナが死亡するキッカケまでを何かの短編映画みたく編集され映されていた。そんな黒歴史になる様なビデオは見たくもなかった。
「これは確認じゃよ。なかなか珍しい場合じゃから、ちゃんと裏付けなければならない。いやぁ、久々に胸が高鳴るわぃ」
かの有名な閻魔大王はそう言った。身長は4mぐらいで口髭。烏帽子の様なものに赤い衣が特徴的だった。
「とにかく、お主の件は早急に対処せねばいかん。本来なら儂と対面するのはあと33日後なんじゃから」
本当は死後の裁判とは閻魔大王以外の人からも裁判を受けるらしい。閻魔大王はそのなかの5番目という事でそれなりの期間が必要らしかった。いわゆる四十九日だろう。
「閻魔帳により、罪の裁判は適当に進めた。それはともかく、彼女と関わったお主にはある仕事…みたいなものをやってもらおうと思うておる」
そう言うと閻魔大王は手を2回叩いた。背後から扉の開く音がした。ヘキナは後ろを向く。
「失礼致します」
お辞儀して入ってきたのは、死んだ時あの女性とお堂に入ってそれっきりだった彼女だった。
「儂の第三補佐官の鬼炎と月の神の月読命じゃよ。会ったことあるじゃろ?キメラがあの後処理して連れてきたんじゃ」
「月の神……」
「即ちお主の仕事というのはこの月読命の保護じゃ」
「待て待て待て、話が飛びすぎてる。まずアイツが狙われていた理由とかをだな……」
彼女については謎が多い。狙われていた理由、敵の正体、あとこれまでとかの経緯とかを教えて欲しかった。するとキメラと紹介された女性が説明を始めた。
「月読命とは暦、農耕、漁業についてを司る神です。神は定期的に転生するのですが、転生直後は見た目の様に幼い姿になります。最上位の神である月読命の力を手に入れるにはこの力の弱い時期位しかないので狙われたんだと思っています」
成長するととても厄介なんだとか。神をどのように利用するのかは分からなかったが、月の神というのはイメージ的には強そうだ。キメラはまだ続けた。
「元々神は悟界、迷界、魔界、冥界の四界を行き来出来ます。ですが幼いと神社の助けを借りないと転界出来ないので……」
「待て待て待て、話が難しいぞ」
神とかの話ならまだ分かったが急によくわからない単語が飛び交ったので混乱した。説明を求めるが閻魔大王が...
「まぁ、直に分かるじゃろう。月読命は強力な魔力を持っていて、それを狙ったのがあの黒ずくめの集団。彼女たちは転移してここにいるとでも言えば伝わるか?」
「何となくは...」
「では本格的な話を進めていこう」
閻魔大王はキメラに説明を促した。浄玻璃の鏡がフリックの役目で補助するようにプレゼンテーションが始まった。
「人は死ぬと六道または四聖道のどれかに転生します。前者を迷界、後者を悟界、と呼んでおります。またキリストとの合併によって魔界、そして今裁判しているここを冥界、この4つを合わせて四界と呼びます。実際なら転生先は六道か四聖なのですが今からざっと5000年前に大王様が若い人の死者の為にもうひとつの転生先を設置いたしました。」
「あ、人間界の時間の流れと1000倍ここは早いから人間界では5年前じゃの」
「六道とかよくわかんない奴のせいで、そこに引っかかる余裕なんてないんだけど...」
「まあ、もう少しの辛抱じゃ」
キメラは淡々と話していくような人なのだろう。表情変えずに話を続ける。全く何言っているのかも分からないヘキナを置き去りにして...ついでにツクヨミはヘキナに抱き着いている。
「冥界には細かく分けて二つあり今いるのが幽界と呼ばれる場所。そして新しく転生先になったのが霊界と呼ばれる場所です。八道碧様はそこに転生となります」
霊界にヘキナは飛ばされると言われ少々疑問が生じた。
「はい、質問。霊界は天国ですか?地獄ですか?」
「いい質問じゃ。これは儂が5000年前に人間界のゲー...」
「大王様は話が長くなるので私が話します。霊界は地獄にも天国にもなりえる場所です。生前の罪、徳に合わせて能力が決まります。霊界は所謂RPGの世界なのです」
いや、キメラさんの方が話し長いですよとツッコミを入れたかったが無理だった。
しかしRPGという言葉にヘキナは反応する。夢にまで見た厨二の世界への転生。そういえば新しい転生先は閻魔大王が作ったとか。
「じゃあ、5000年前にそのRPGの世界を発案したのは...」
「儂じゃよ」
ナイスジョブ閻魔!黒歴史生成浄玻璃の鏡の件でイラついていたが、その偉業でチャラとなる。死後にこんな楽しみがあるとは、早く行きたくてウズウズする。
「それでそこで月読命の保護をじゃが、お主ゲーマーなんじゃろ?」
「まあちょっとした...」
一日にゲームは5時間程度。廃人まではいかないとしてもそれ並みの自信はあった。
「これ以上のネタバレは不味いかのぉ?」
「大王様、ゲーム廃人同士のなれ合いは止めてください。話が逸れます」
「キメラよ、お主だってアニメ好きではないか。低身長イケメンキャラが次話にどうなるとかで聞きたくないこともあるじゃろう?」
「なっっ!!!」
キメラは赤面している。見た目に似合わずアニメとかが好きという情報を急にカミングアウトされ恥ずかしいのだろう。素材がいいせいでギャップ萌えが発生している現場に居合わせたヘキナはなんとなく状況を楽しんでいた。
「大王様、なぜそのことを?」
「部下の秘密ぐらい儂には御見通しじゃよ。あと無くしていたあのキャラのキーホルダーは儂が拾っておいたからの」
「あああああ...」
顔を抑えたままキメラは動かなくなった。急に起きた閻魔大王の腹黒さに驚かされる。流石は地獄の管理者と聞いたことあるだけはある。ずっと蚊帳の外にされていたツクヨミがしゃがみこんだキメラの頭をなでている。和む。
「保護にはそれなりの力が必要じゃからな。そこでゲーマーなお主には悪いんじゃが少々チートチックな能力を携わってもらおうかと思っておる」
「能力?」
「そうじゃ、あの組織とかから身を守るにはできるだけ常識を外した能力を持って貰わなければいけないからの」
組織とはあの男たちのことだろう。確かにプレイ初めてそうそうあんなやつらに絡まれれば積みゲーだ。だんだん強くなっていくというのは妥協すべきなんだろう。しかし、
「悪いと思うなら、大王が直接保護すればいいのに」
「生憎保護という面倒くさ...手間の多い仕事はゲーム脳な儂にとって他人に任せて実況している方が楽しいということが分かっておる」
部下たちも仕事が忙しいのと趣味の時間が潰されたくないらしい。ヘキナはその保護の仕事を楽しそうに感じてるので別にいいと思っている。何となく口にしてみただけなので特に何も感じなかった。それより大王はゲーム脳ということをカミングアウトでいいんだ。
「ここなら能力など、だいたいどんなのでも付与できるが、どうせじゃったら儂の本職の能力の応用でいこうかと思っとるんじゃが」
初めて人にやってみる能力なので気に入られるかどうかは分からないらしい。自分で好きな能力をくれるのかと思ったが、どうやら決まっているようだ。ヘキナは付与されてからのお楽しみということで能力の内容も聞かされず付与されることになった。
閻魔大王はヘキナを自分の前に寄らせて尺でヘキナの頭をかざす。赤い光がヘキナを包んだ。
9アルさんメモ 1【六道】
六道とは仏教の悟りを開かないと永遠に6つの世界のどれかに転生し続けるという場所で、天国も人間界も地獄もこの六道に含まれています。残りの3つはいつか紹介します。
9アルさんメモ 2【月読命】
太陽の神(天照大神)とケンカしたから夜しか顔を出さない。だから月は夜にでてくるとか。なにかとすごい神様だと勝手に思っています。
9アルさんメモ 3【時間の流れ1000倍速】
日本は1日に約3500人...そうすると閻魔様は約25秒で1人の人生裁判(休み無し)をしなければいけないので、こうなんだろうという推測。他の文献では読んだことありません。完全な追加設定です。