死因は何か 3
月も無い暗闇の中、ガラス玉を隠すために道を逸れる。ヘキナの位置は筒抜けらしいので彼女の捜索を装う。
「あとで隠した場所を教えれば、アイツはいつでも取りにこれるな」
ヘキナが隠す事にしたのは、自分が死んでもあの男達に奪われないため。それと、もしかしたら彼女があのガラス玉と自分を遠ざけようと考えているかもしれないという考えからだった。取り敢えず、隠した場所から離れて彼女の捜索に乗り出す。
とは言っても特に心当たりがある訳でもない。あるといったら最初に出会った公園だろうか。
早速公園に足を運んでみる。途中2人組の男達とすれ違った。それ以外は特に何もなく公園に着いた。
暗くて何も見えない。彼女はいるのだろうか?ヘキナは周りを見渡す限り変わったところはない。
「外れか…」
不満が漏れる。その不満の声で何かが変わる訳では無い。電灯もあまり無く結構広めな公園から彼女を探すのは困難だが不可能では無い。探してみようと1歩を踏み出してみた。
ドクンッ
突然鼓動が大きく聞こえた。自分とある場所だけが大きく聞こえるようなそんな感覚。初めてなる感覚だが自分は何処かに引っ張られるような感じがする。理屈は得に分からないが、こっちに彼女がいることが分かる。ヘキナは公園の脇にある林の方へと進んでいった。
街灯の光も月の光も届かない林の奥。念のために持ってきていたペンライトで照らしても所々の木々が光の邪魔する。しかし、暫くすると前方が淡い光が漏れているのに気づいた。足元に注意しながら近づいてみる。
「うわぁ…」
光源は彼女だった。とても優しく暖かい光が彼女から放たれていた。ヘキナが近づくと彼女が目を開けた。ヘキナの姿を確認した彼女はニッコリと微笑んだ。
「や……しろ…………」
そう言うと彼女から放たれていた光は鈍くなりやがて消える。光が消える瞬間、彼女の体が傾いた。ヘキナはそれを支える。今の発光には体力を消費するのだろう。汗ばんだ顔を見てそう感じる。
社と彼女は言った。初めて言葉を発したが、本当にそんな単純な感じでいいのかが分からなかった。言葉を話せないと言っていた彼女である。しかし、光を放ってから彼女は脱力状態になっている。確認が取れないのでとにかく行ってみるしかなかった。
公園の近くには神社がある事を知っている。倒れたままの彼女を背負い、社を目指す。幸い入っていた林はちゃんと道がついていたので帰り道は問題なかった。突然の刺客にもある程度対応する為に枝を1本拾っておいた。一旦表に出て裏にまわると小さな鳥居が見えてくる。鳥居を潜ると和風の建物が見えた。
「ほら、社だぞ」
突っ伏していた彼女は目を覚まし、ヘキナの背中から降り、前方のお堂へと駆け出した。そして、何の躊躇もなく扉を開けてお堂に入っていった。ヘキナもついて行きお堂に入ろうとした時、さっき聞いたばかりの声が聞こえた。
「あー…やっと見つけたみたいだな」
鳥居の方に人影。さっきのリーダー格の男だ。ヘキナは持っていていた木の枝を構える。歩いて近づく男は歩幅を変えることなく歩き続ける。
「あー…そんな正義感余しでいられると殺したあとのリスクが高まる。どけ」
「いいや」
コイツらの危険度を知ってしまっているヘキナは膝が笑っていた。しかし、目の前で起こした殺人劇を起こした奴らに彼女を渡すわけにはいかない。
突如腹部の激痛が意識を霞ませる。力が抜け、その場に倒れ込んだ。
「寝とけ」
男はヘキナの腹部を突いた。激しい鈍痛。それでもヘキナは辛うじて意識は保っていた。口元に手をやると血が付いてる。吐血しているようだ。息苦しくなり、その場で呻いた。
邪魔がいなくなった男はお堂の扉に手をかける。その時、光とともに高いよく響く音が鳴り、反発するように男の手を弾いた。
「クソッッ!結界か」
扉の前に魔法陣が展開されていた。あの少しの間に彼女が仕込んだものだろう。侵入を拒む結界。
「やっぱり...」
男は何処からか取り出した紙とペンで何かを書き込み始めた。書き込んだ後、男は扉に貼る。さっきのような光と音で紙は弾かれ瓦解した。
「解除も出来ないか…やっぱ最上位の神はちげぇな」
男は倒れているヘキナの方へ近づいてきた。動かない体では逃げる事も出来なかった。男はヘキナの胸倉を掴み、軽々持ち上げた。突かれた部分を動かされて顔を顰める。
「おら、コイツを死なせたくなければ出て来い」
反応はない。男は左手を懐に持っていき、中から刀身が黒く、赤い線が幾つか入った感じの長剣を取り出した。取り出し方に不自然な感じがあったが気にする余裕は無かった。刃をヘキナの首元に持ってくる。ヘキナは蒼白した。
「出てこねぇのかよ……待て、お前…」
何かに気づいた様で男は違う方向を見ていた。ヘキナもそっちを見てみる。赤い着物を着た女性がそこにはいた。黄色い帯には炎のような刺繍がしてあった。女性が喋る前に男が話しかける。
「幽界のやつだな…何かようか?」
「散々他界を荒らしていれば彼女絡みでなくても派遣されることぐらいお分かりでしょうに」
ダミ声の男に対して女性は凛とした声だった。突然、女性は無言で串の様なものを袖から取り出し、男の右手に投擲した。
しゃなりとしたイメージから思わせない冷酷さだ。グサリと刺さり、男の手が緩む。持ち上げられた体が解放されヘキナはまた地面に寄りを戻した。
「いってぇな…なぁ、おい」
男は右手の串を引き抜く。女性はこっちに向かって歩いてくる。女性が向かってくるのにも男は気にせず、手を暫く見つめてる。
「大丈夫ですか?」
女性が問いかけてくるのに対しヘキナは呻いて答える。彼女がヘキナに手をかざした。するとその手は光り始めた。暖かい光はヘキナの傷を癒していく。光が弱くなる時には全快していた。
「結界の中にいれば安全です。そっちに向かってください」
そう言うと女性は扇型の武器を取り出して構える。男の方を見ると手の傷が治っていた。峰のほうを肩に当て、不満の様子をよく表していた。
「走りなさい」
「逃がすかよ」
駆け出したヘキナに向かって男は長剣を振るった。刀身から鎌風が生まれヘキナに向かって飛んでいく。しかし、ヘキナに届く前に女性が扇を使って軌道をずらした。ヘキナのすぐ横の地面が抉れた。
「マジかよ……」
石畳の地面に綺麗な三日月型の切れ込みが入る。後ろを振り返ってみると、男と女性は対峙中だった。またに周りに飛ぶ流れ弾みたいな攻撃で徐々に周りが崩れていく。
現実では有り得ない戦闘に悪寒を感じながら足を元に戻した。お堂へ入るため扉に手をかけようとした。でも、扉に手は届かなかった。
「えっ……?」
自分の腕を見てみる。右肘から先の腕が無かった。意識したことにより激しい痛みを感じる。熱がそこから出ていくような、血がダラダラ流れ出ていた。
「か゛あ゛あ゛あ゛…」
その場で蹲る。気配がある方を見てみると黒い服を着た男がいた。あの男の仲間だ。手には血のついた短剣と切り取られた腕を持っていた。その男はヘキナを蹴飛ばして仰向けにさせる。
「殺されそうだが……ほっとくのかぁ」
「数まではカバー出来ません。どうせ他に何人も隠れてるんでしょう?」
女性は困ったと言うような様子をしてこっちを見ている。男との戦いは激しさを増していた。手を出したくても出せないだろう。ヘキナは右手を抑えながら起き上がろうと試みるが、仲間の男の足で押さえ込まれる。男は手から短剣と腕を捨てた。刃が床に刺さる。そして男は懐から弓矢を取り出した。
ギリリ……
頭に矢が向けられる。意識は痛みから恐怖心へ移り変わった。殺される。
「お前とはまた会うだろう…」
弓を引きながらその男は言った。飛び散る鮮血はお堂から漏れてくる光に照らされた。