死因は何か 2
ドンドンドンドンッッッ!!!
睡魔の波に上手く乗れていなかったヘキナはその音で目を覚ました。時計を見ると深夜11時、いつもならまだゲームとかをやっている時間帯だ。でも こんな時間の来客などはおかしい。というよりヘキナにとって来客自体が珍しいのだが。
扉の方から聞こえてくる音は最初の数回だけで収まり、急に静かになった。しかし、その珍客はいるだろうと寝ていた体を起こし、玄関の方へと足を向けようとしたその時突然破壊音が鳴り響いた。
「あー…大きな音は不味かったか…」
ガラの悪い、若い男が1人…いや後ろに何人かいた。全員黒っぽい服を着ていたが、あまり統一性が無い。さっきの音は奴らが扉を壊して入ってきた音のようだ。彼女もその音で起きたようだ。明らかに敵顔のそいつらはこっちを見ていた。
「おい、そんなに睨むなよ、素直にしてれば殺しゃしねー…あー…コッチで殺してもあの爺に会うだけか」
後ろにいる仲間達がゲラゲラ笑う。
そんなことをやっていたからか隣に住んでいる神経質な棚田さんが怒鳴り込んできた。
過去に夜中に大音量でゲームをやって怒鳴られたことがあった。今回もその延長だと思ってきたのだろう。ただ威勢が良かったのは最初だけで俺達の状況を見て後退りで自分の部屋に帰ろうとした。
しかし、そんな姿をコイツらが見逃すわけなく、1番後ろにいた男が棚田さんを捕まえた。リーダー格の男がまじまじと見る。
「アナタは駄目だ。歳を取り過ぎてるから殺しても俺らにはあまりリスクにならねぇ」
殺しでリスクがないという訳わかんないことを言っている。囚われのみになった棚田さんは青ざめていた。まんまと殺されて言い訳がない、そうヘキナは思うが奴らの重圧に負けていた。奴らの放つ殺気がその場を凍らせた。
「まっっ待て...人殺しは...」
「殺れ…」
後方にいた奴が素手で心臓を貫いた。貫いたその腕には大量の血液が付着し意図も簡単という具合に絶命させる。
ゲームとは違う生々しいその姿は吐き気と恐怖心を沸き上がらせた。奴らは人間じゃないと感じる。何とか打開しなければ。
「あれ?」
ヘキナの声に男達はこちらに視線を向けた。男たちが見たのは彼女が消えていることに驚いているヘキナの姿だった。後ろのベランダへの扉が開いている。殺人劇の最中、目を盗んで脱出したようだ。
「チィッ、逃げられたか。お前ら2人1組でアイツ探してこい」
リーダー格のやつの号令で呼応とともにバタバタと後ろの男達が出ていった。指示の間、彼女がいた場所に何か青いガラス玉の様なものが落ちているのにヘキナは気づいた。奴らに気づかれないように拾って隠す。
「あー、めんどくせー。さっさと地図登録しとけばよかった」
「地図登録?」
ふと発せられた単語に反応してしまう。ヘキナの言葉に男は若干睨んだが、ニヤッとしながら口を開いた。
「あー知らねぇのか。敵の位置を確認できる為の地図だよ。あんな上位の神ぐらいになれば、わざわざ力量の高い俺様が直々にやんなきゃならねぇ」
ゲームをやっていると何となく分かる。しかし、全くゲームとかの雰囲気がなかったコイツからそんな言葉が出てくるなんて思いもしなかった。
「この世界はおもしれぇだろうな。元々いた世界だとは今更思えねぇ」
そう言いながら男は近づいてきた。緊張が高まる。顔を覗き込むようにして顔を近づけてきた。
「テメェらみたいな低レベルなら居場所、名前、体力、大体のことは筒抜けだ。今死んでおくか?」
男は踵を返す。そのまま出口の方へ歩いていった。
「簡単に殺れるからな、せいぜい余生を楽しんでけ。間抜けた仕事なんかしねぇよ」
男は壊れた扉から出ていった。完全に気配が消えるまでじっとしておく。神、力量、地図、気になった言葉だ。あとさっき拾ったガラス玉。彼女ので間違いないだろう。ヘキナは男の捨て台詞から自分の殺される可能性が高い事を考慮してこれを隠すことにした。あの男はいなくなってる。ジャージ姿のまま外出した。
「もう、帰ってこれないかもしれんな」
ふと声が漏れる。あの男が言った簡単に殺せるという言葉でヘキナは奴らより先に彼女を見つけなければ殺されることを悟っていた。優先事項が片付けば残りを処理するだろう。
棚田さんがそのままになっているので、生き残ったとしても警察沙汰は免れない。もし、この世界の住民でないとしたら犯人はヘキナにされるかもしれなかった。
非現実的なことが舞い込んできてこれは幸運なのかっとヘキナは考える。見納めとしてアパートをじっと見つめるが、急がなければいけないことを思い出して足速に駆け出た。