死因は何か 1
ゲームが始まらないので へキナを殺したくて仕方ありません…とか思っている私がやばいです。
この小説は生死について取り上げています。近年にご不幸がおありになった方は、自己責任でお願いいたします。
ゲームの世界に転生して、敵を倒して、仲間を手に入れて、魔法が使えて、ヒロインと恋人になってみたい。ゲーム好きは一度は思うことだと思う。
八道碧はそんな人の1人だった。大学中退、無職、趣味はゲーム。ニートでは無いが友達はあまりいない、言うならば『自宅警備員予備要員』として、自宅賃貸アパートの警備の一員として過ごしている。
その日は、ヘキナは外にいた。ということは自宅警備員とバイトの2つをかけもちしている男にとっての束の間の休憩。ではなく、自宅の食料庫の貯蓄が無くなり食料補給の為の遠征である。
「あー、鹵獲とかしてぇ」
この前出た新作ゲーム機のおかげで吹き飛んだ¥60,000で財政危機中のへキナは遊び古した某ソフトらを持って、中古ゲーム取扱店に立ち寄っていた。ゲームの宣伝を見て、食料補給とかをもっと楽しくできないものかと考える。敵を倒すことでアイテムを手に入れられるそれは現実とは違う楽しさが込められている。アナウンスが入りヘキナの受付番号が呼ばれた。
「合計で¥700です」
店員がお売りになりますか?と聞いてくる。バイトがない水曜での生活は厳しい。現在所持金¥518のヘキナには売るという選択肢をとる。あまりにも安い買い取り価格に驚愕しながら店を出た。
所持金¥1218になったので何とか明日のバイトまでは持ちそうだと思い、とりあえず今日の夕飯と明日の朝食を買うことを考える。へキナは一応情けなしの料理は出来るのでコンビニとかではなくスーパーに向かった。
道中犬の散歩している人と出会う。好奇心旺盛なその敵はヘキナの方へ寄ってくる。ヘキナはその無邪気な敵がこっちに来る前にすぐ左にあった公園に入った。犬から逃れ管理の行き届いた公園と進む。あまり都会ではお目にかかれない綺麗な公園だ。今日は平日なので人はいない、筈であったが...
「ん?」
公園の中を通って店への道に出ようと思ったその時、反対側の出口に何かが見えた。近づいて確認すると10歳くらいの少女だった。
髪がきれいな銀色をしており、衣装も白い和服と洋服を合体させたような、二次元から飛び出してきたという印象だった。羽とかが生えているわけではなかったが、目の下に三日月マークが刻み込まれている。
「気を失っているのか...」
とりあえずその少女をベンチに移動させ寝かし、公園の入り口には自動販売機があったので飲用水と炭酸飲料を買った。並んでいるベンチのもう一つに座り、彼女が目を覚ますのを待つ。外傷は無いようなので少し安心した。
季節は春。そろそろ桜も芽吹くところだ。冬とか夏とかでなくて良かったと思う。
「ん...」
「おっ起きたか」
ヘキナの声に彼女は気付いたようで、コッチに視線を向けていた。最初は驚かれると思ったがそんな様子もなかった。
「ほら、喉渇いているだろ」
「?」
ヘキナが買っておいた飲料水を渡す。しかし、蓋を開ける気配を見せない。というより蓋を下にして口の上でペットボトルを振っている。
「まさか、開け方が分からないのか?」
ヘキナは半分ぐらいまで飲み干した自分のペットボトルで蓋の開け方を見せた。長いで待ち時間で他に2本も飲み干し、所持金も¥658へと減っていた。
彼女はやり方を見るや否や早速蓋を開けて飲み始めた。やはり喉が渇いていたのか一生懸命に水を飲んでいる。中身を飲み干すと几帳面に蓋を閉めなおした。
「言葉は話せるか?」
急な質問に彼女は一瞬戸惑うが、首を横に振った。期待していた反応でなく落胆するが質問を続ける。
「名前とかは、あるのか?」
彼女は首を横に振るだけだった。彼女が話せないとなると質問しようにも有力な情報は得られない。
その時、彼女は急にヘキナに抱き着いた。いきなりだったのでヘキナは戸惑う。
「お、おい。どうした急に?」
日も傾き始めた。そういえばまだ夕食も買っていない。依然と彼女は抱き着いたままである。
「今夜、俺んち来るか?」
彼女は首を縦に振った。所持金が少ないヘキナにとっては厳しいが置いていくなど絶対できない。
立ち上がると彼女は手を繋いできた。安心感に笑う彼女を見て少しほほましくなる。しかし、幼女といえども普段女性と触れたことのないヘキナにとっては普通に緊張する。できるだけ手汗をかかないように意識するのも叶わず、手先はひんやりしてきながら公園を出た。
途中コンビニにより夕飯を買った。彼女の銀髪と衣装を見て少し驚いているレジスターを無視して彼女が選んだカップラーメンを購入。所持金¥270となった財布に危機感を覚えながらアパートへと帰った。
部屋に入ると電気をつけヤカンに水を入れ沸かした。ついでに風呂もサッと洗い沸かす。その間彼女はちょっとした家事をやるヘキナを物珍しげに見ていた。たまに抱き着いてくる。妙な好かれだったが、そのままにしといた。
夕飯を食べ終わり、汁を捨てカップを冷やかす。彼女は満腹になったようだ。満足した顔をしている。
「お前、風呂入るか?」
先ほど沸かしといた風呂に促してみる。すると一緒にっというようなしぐさをしてきた。さすがにそれはできないと感じたので一人で風呂に行かせる。本当に妙に好かれている。
「異世界転生か...」
そのようなことが起きたらどんなに世界がおもしろくなるだろうとヘキナは思った。彼女がもしそうならと想像していると彼女が風呂から出てきた。
彼女の後に風呂に入ったヘキナが出てくると、何もすることのなかった彼女は寝ていた。テレビをつけておいたのだが電源が消されている。床に寝ている彼女を見てすぐさま自分の布団と座布団で急ごしらえの布団を作り彼女をそこに寝かす。
いつもなら、この後にゲームをするのだが今日はそんな気分ではなかった。時計を見ると早すぎる時間帯だが、布団に入ることにした。彼女の邪魔にならないように脇で寝る。
「まさか、幼女と一緒に添い寝する日が来るとは」
座布団で拡張した布団の隅には異世界から飛んできたかもしれない少女が寝ている。意識が高まり目は冴える。今夜は寝れないなとヘキナは悟った。今寝たら全て夢だったのではないかという不安でさらに寝れなくなる。
「ふわ...あぁぁぁ」
不意に彼女の寝言が聞こえた。視線を向けるとしっかりと彼女は存在している。試しに頬を抓ってみたがちゃんと痛覚が存在する。夢ではない。そう思ったら安心した。
目を閉じ、睡魔の言われるままに流されてみる。