エルフだと色々辛い 2
歩いていくと教わった通りに壁の赤い建物が見えてきた。ヘキナは一旦“人間”に戻るために路地裏に入る。
先ほど買った〖キュールの実〗を食べてSPを回復させた。気付いたことだがHPやMPなどのポイントは一定時間で1ずつ回復するらしい。人がいないことを確認してスキル名を口に上げる。
「“転生=自我”」
若干発光を起こして元の姿へと戻る。もしも“転生”で人間になろうとすると別人が出来上がってしまう。なので自分に戻るためだけのスキルだ。
「スキル使いすぎている気がするが、初日だからしかたないか」
あまり何かに頼りすぎていると後で痛い目みるというようなオキマリがあるが、今日はしかたないだろう。
「そういえば悪い奴が弱補正がなんとか言ってなかったか?」
ハヅキが入り口の時に言っていた情報だ。少々気になってい居たので今、尋ねる。
『ごめんなさいマスター。詳しいことまでは覚えていない』
「そうか」
『でもこういうことでしょ』
そういいながらハヅキは路地裏の奥の方を指す。さっき人がいないことを確認したよりも奥の方だ。よく目を凝らすと何人か人影が見えた。しかしそれは屍のように生気がない。項垂れて絶望している表情は他人までもに伝染しそうな勢いだ。
「なんだあれは...」
『生前悪事を働いた人でしょ。いこ?マスター』
ハヅキに連れられてまた路上の人となる。さっきの人たちが気になったが、そのまま目の前にそびえたつ赤い建物に入っていった。
ギルドは何種類か存在しているらしく今入ったのは〖冒険者ギルド〗。ほかにも職業ごとに色々分かれているらしい。転生プレイヤーはとりあえず所持金稼ぎに冒険者になる必要があった。
「色んな種族がいるって聞いたが、まだ俺には全部の確認はできないな」
種族は“人間”と“魔人”や“エルフ”や“ピクシー”のように見た目が似ているのがある。まだスキルの熟練が低いものには種族を確認が難しい。
ギルド内にはパーティを組んでいるもの、依頼をお願いしに来るもの、ヘキナみたいに新人、のような人たちで賑わってた。どこに行ったらいいのかもわからず、入ってきてすぐ先にあるいかにも受付な感じのところに向かった。
「冒険者登録をしたいのですけど」
「はい、こちらで行えます。現在ご使用になられている本名のほうをこの用紙に」
受付嬢が登録用紙を差し出す。名前とハヅキのことを書き渡した。特に細かな情報はいらない分助かった。
「では確認と受理をしておきます。そんなに時間はかかりません。この呼び出し用ブレスレットが発光いたしましたら、またお越しください」
受理が完了するとこのブレスレットが知らせてくれるらしい。生前もフードコートとかにこのような仕組みがあったのを思い出した。
緑色のブレスレットを身に着け、特に行く場所もないのでギルド内を散策する。受付は計5つあり、さきほどの受付の端に対になるように2つ。両サイドの壁にもう1つずつ位置していた。
正面の受付の隣には依頼の掲示板があるのを確認した。ギルドの大きさにしては少しこじんまりとしている。登録が完了したら依頼をこなして所持金を稼ごうとヘキナは思った。
「討伐、採取、護衛、おっ!指名手配書まである」
依頼書の隣に並ぶ、手配書の列。ここにある依頼書より手配書の方が量が多かった。人の討伐など依頼と似たようなものだろう。報酬の金額はそれぞれだったが、一人の男に目を止めた。
「アイツッッ!!」
生前襲い掛かってきた、あのリーダー格の男だった。通称は『狂夜叉』。本名は分からないのことだ。最後に確認されたプレイヤーネームも変わっているだろうとのこと。懸賞金G72,600,000。死怨』という闇組織の幹部らしい。手配書には推奨レベル、種族などの攻略に必要そうな情報も書き込まれていた。
「狂夜叉っていうのか...明らかに今のレベルじゃ、太刀打ち出来ないよな」
とりあえず記憶にとどめておく。推奨レベルはケタ違いだった。手配書を見渡すともう一人知った顔の男がいた。脳裏に焼き付いている。はっきり言って、この男も忘れたくても忘れられない男だ。
『マスター、顔青いよ。大丈夫?』
「あぁ...」
ヘキナは震えていた。あの時に部屋に入ってきたのは狂夜叉も含めて5人。ヘキナが覚えているのは最初に隣人を殺した男とリーダーであった狂夜叉、さらにもう一人。狂夜叉も恐怖だったが、トラウマというものはそれを上回った。
「ハヅキ、俺はこいつに殺されたんだ」
名前は淀慧。腕を切り落とし、眉間に一矢、自身の殺害の張本人だ。懸賞金は狂夜叉より低いが、ヘキナより強いことは示されていた。同じく『死怨』の一員。心なしかこの手配書は貼り出されたばかりに感じた。
『マスター...』
「どうしたハヅキ?」
念話なのにハヅキは先が言いづらいという素振りを見せた。念話は考えていることを意思で飛ばせるが、自分ではちゃんと飛んでいるかなどの確認が取れないためコツがいる。ハヅキみたいに口をつぐむようなことは難しい。そこに感心する。
『あの時もっと早く儀式が完了していれば...』
「何の話?」
『男たちを遠ざけて、マスターを守れたかもしれない』
ツクヨミは月の神。月が出ているときは身体強化などが可能らしい。しかし、儀式中は動けないようで、あの時はヘキナの最期に手を出せなかったらしい。あの後、キメラがハヅキを幽界に送ったことで、組織のメンバーは霊界に戻ったのだそう。
あの日に喋れていたのは月の記憶を月の記憶を借りたから。社に向かったのは、月の力を借りられることを思い出したことにより早く確かめたかったからそうだ。
死後の世界のことはまだその時のハヅキにはあまり覚えていていなかったらしい。成長でいくらかのツクヨミとしての記憶は戻るとキメラから聞いていた。
幽界であの世の説明されるまでハヅキは泣いていたとキメラは言っていた。
「よくその日にあったばかりの人に涙流し続けていたな」
はっきりいってヘキナには出会って半日も経っていない人にそんなに泣くことなどできない。そういえば生前も妙に好かれていた気がする。
『だって、マスターはハヅキの一番最初にあった人だから...』
そういえば、カラカサに向かっている途中にそういうことを言っていた。ひな鳥が初めて見たものを親鳥と勘違いするような、そんな現象なのだろうか。
『初めて出会ったとき、マスターはとても優しくみえたから』
「そりゃどうも」
照れ隠しをするしかないヘキナにハヅキはニヤニヤ笑う。さっきもで言っていた理由が疑わしく思えてきたが、本当なのだろう。
やり取りの中、腕にはめておいたブレスレットが発光し始めた。処理が終わったらしい。掲示板を後にして正面受付へと向かった。