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#蛟4 強くなるには

 私は今、サクラノ王国ワノ領にある、自宅の道場に籠もっている。

 そう、今の私は水無月 麻衣ではなく、カグラ・ミヅチだ。

 こちらの世界の母親、カンナ・ミヅチの難題を解いた私は、強くなるための修行をつけてもらっている。

 お母様の正体には驚いたが、その強さにも驚きを隠せない。



〔スキル:洞観、スキル:看破の目の発動を確認。カンナ・ミヅチのステータスを表示します〕


〔LV:45〕

〔種族:神霊〕

〔名前:カンナ・ミヅチ〕

〔HP:8200〕

〔MP:50000〕

〔SP:6700〕

〔攻撃力:3500〕

〔守備力:1800〕

〔魔力:47500〕

〔魔法耐性:32000〕

〔素早さ:1600〕

〔神霊化〕〔神眼〕〔神聖10〕〔聖域〕〔五行魔法10〕〔魔力自在〕〔魔力錬成〕〔慈愛10〕〔天の加護〕〔地の加護〕〔寵愛〕



 もちろん、お母様は手加減をしてくれている。

 でなければ、私は一瞬にして死んでしまう。

 それから、お母様の正体である神霊。

 これは地球の神霊とは違い、サクラノ王国の各領土を守護する神聖な霊の事。

 後で知った事だが、お母様は私を産んだ直後に亡くなっている。

 どういった経緯かは教えてくれなかったが、その後神霊として現世に留まったと話してくれた。

 どちらにしても母親に代わりがなく、その母親が霊と言うのは、正直言って複雑な気持ちだ。



「今日はここまで。カグラ、この数日で本当に強くなりましたね」



 そこで言葉を詰まらせているあたり、お母様としてはやはり複雑な気持ちなのだろう。

 確かに私は、以前より強くなった。

 それでも、サーペントには遠く及ばない。



「お母様、あと一度だけお願いします」

「いけません。一日の修行回数は決めていたはずですよ?」

「それは分かっています。ですがお母様は、私に対して手加減ばかり。私は、お母様の全力を知りたいのです!」



 お母様は溜め息をついた。

 こんな事を頼んでも、聞いてもらえないのは分かってる。

 でも私は、お母様の全力は知りたい。

 手も足も出ないだろうけど、それでも私は、お母様の全力を知りたい。

 知っておきたい。



「……分かりました。ですがその前に」



〔カンナ・ミヅチからカグラ・ミヅチへ、補助技:堅忍不抜の発動を確認〕

〔カグラ・ミヅチは一度だけ、HP1で踏み止まります〕



「カグラに死なれても困りますからね。さあ、いきますよ?」





 気が付くと私は、寝室で横になっていた。

 お母様が本気を出してから、その後の記憶が無い。

 記憶は無いが、二度とお母様に全力を出させてはいけないと、私の直感が告げている。

 それほどまでに、お母様の全力は凄まじかったのだろう。

 ステータスやLVでは埋まらない差を見せ付けられた気分だ。


 ステータスは修行次第で伸びはするものの、限界値が存在する。

 そしてステータスの限界値は、LVを上げれば上昇する。

 つまり、修行などでステータスを底上げし、その上でLVを上げるのが効率的だ。

 私の修行も、ステータスを上げるものだった。

 そのお陰で、私はサクラノ王国の騎士に引けを取らないくらい強くなった。

 しかし、それでも越えられない壁が存在している。

 あの、サーペントと名乗る者だ。

 サキさんの魔力を以てしても、サーペントには傷一つ与えていなかった。

 それだけではない。

 サーペントは明らかに戦闘慣れをしている。

 もし、私がサーペントに届くほど強くなったとして、はたして勝つことが出来るだろうか?

 ……答えはノーだ。


 私に足りないもの、それは経験だ。

 サキさんもアナスタシア様もレイロフ様も、実戦経験を積んでいる。

 しかし、私はどうだ?

 修行中、お母様はずっと手加減をしていた。

 だから私は、お母様に全力を出してほしかった。

 実戦経験を積みたかった。

 ……結果は散々なものだったが、これも経験だ。


 少し休んだら、魔王城に戻ることにしよう。

 皆の様子も気になるし、何より実戦経験を積みたい。

 サクラノ王国よりセラメリア王国の方が、モンスターの討伐依頼が多い。

 これからの修行には打って付けだろう。

 ……その前に、お母様に一言謝ってからにしよう。





 私が魔王城に戻ると、騎士団長のベルンハルト様と鉢合わせた。

 ベルンハルト様は、あまり人前へ出て来る事が無いので、何だか新鮮な気分だ。

 そんな事を思っていると、ベルンハルト様が話しかけてきた。



「お前は確か、宮廷術士のカグラだったな。レイロフは今、訓練室で瀕死になっている。医療班へ連絡しようと思ったのだが丁度良い、お前が様子を見てやれ」

「瀕死って……何があったのですか!?」

「レイロフに修行をつけてやったのだが、つい熱が入ってしまってな……本来なら回復薬を使っているところだが、回復薬を切らしていた事を忘れ……」



 呆れた物言いに、私はベルンハルト様に詰め寄っていた。



「修行を行うのは結構ですが、そういった事は事前に確認していただかないと困ります! レイロフ様にもしもの事があったら!」

「す、すまない……。しかし、言い争っている場合でも……」



 私は更に詰め寄った。



「ベルンハルト様。貴方はもう少し、部下を思いやるべきです!」

「わ、分かった分かった。俺が悪かったから、早くレイロフの所へ行ってやれ」



 言い足りない気持ちだが、ベルンハルト様の言う通りでもある。

 私はベルンハルト様に一礼してから、訓練室へと急いだ。



 訓練室の中央で、レイロフ様は倒れていた。

 私はレイロフ様のもとへ駆け寄り、ステータスを確認した。

 レイロフ様のHPは1桁だったが、死んではいないようだ。

 私は修行中に新たに覚えた回復魔法を、レイロフ様にかけた。

 傷はみるみる塞がっていくが、体力を回復出来ないのは回復魔法の悩ましいところだ。

 レイロフ様の回復を確認した私は、清潔なタオルと水を持ってきた。

 レイロフ様の体を清拭する為だ。



 ……何故、レイロフ様の事となると、これほどまでに必死になってしまうのかと、レイロフ様の体を拭きながら考える。

 ベルンハルト様に会った時もそうだ。

 普段の私なら、ベルンハルト様に意見を言うなど、出来るはずがない。

 それなのに、あれだけの事を言ってしまった。

 悪い事をしてしまったと、今更ながら思う。


 ここまで必死になる理由。

 そんなの決まってる。

 私はレイロフ様に、人族の素晴らしさを教えたいと、未だに思っているからだ。


 ……本当にそれだけ? 本当に、それだけだろうか?

 もっと他に、理由があるのではないか?

 しかし、それは考えたくない。

 だって、それを考えてしまったら、私は……。



「カグラ……?」

「レイロフ様、気が付きましたか?」



 レイロフ様は体を起こそうとしたが、私はそれを止めた。

 先程まで瀕死だったから、無理をしてほしくない。

 レイロフ様の言いたい事は、その表情を見れば分かる。

 私が何故、ここに居るのかと聞きたいのだろう。



「私は今日、魔王城に戻りました。そこへベルンハルト騎士団長が、レイロフ様の様子を見てやれと仰られて」

「……そうか」



 それだけ言うと、レイロフ様はそのまま横になった。

 私は、レイロフ様の体に付いている汚れを落としていく。

 全身、血や埃まみれだ。

 どれだけの戦いが繰り広げられたのか、想像に難くない。



「レイロフ様、ひとつ伺っても宜しいでしょうか?」

「なんだ?」



 私は、ずっと気になっていた事を、レイロフ様に訪ねる事にした。



「レイロフ様は未だ、人族を信用出来ませんか?」



 レイロフ様はただ顔を背け、何も答えてくれなかった。

 その様子を見た私は、私の内に湧いた感情のままに言葉を発していた。



「レイロフ様、私はレイロフ様を信用しています。だからレイロフ様は、私を信用してください。人や魔と考えず、私と言う一個人を信用してください」



 人を信用しなくて良い。

 ただ、私を信用してほしい。

 それはとても切なく、それでいて熱い感情だった。

 レイロフ様に、私の想いが伝わったのだろうか。

 私の目の前に握り拳を突き出し、今まで瀕死だったとは思えない声で。



「我が剣に、我が盾に、そして我らが戦の女神に、俺は宮廷術士カグラ・ミヅチを信用すると、ここに誓う」



 私を信用すると言ってくれた。

 それと同時に、レイロフ様は気を失ってしまったが、私としては都合が良かった。

 だって、涙でこんなにくしゃくしゃにした顔を、見られずに済んだのだから。



 その後、遠くからサキさんの声で「リア充爆発しろ」と聞こえたのは、気のせいではないと思う。

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