64 採集クエスト
冒険者ギルドを訪れた私は、昇級クエストについての説明を聞いている。
ギルドに所属している冒険者にはランクが設定されていて、昇級クエストをこなせばランクが上がり、貴族クラスからの依頼が増えていくそうだ。
貴族からの依頼は、失敗できないくせに難易度が高かったりするから、信頼できる冒険者に任せたいってところなのだろう。
そして貴族が、冒険者ギルドと言う非公式の団体に依頼するには、それなりのリスクも伴う。
貴族が抱えている討伐隊より街の冒険者の方が強いと知れたら、貴族の信用はなくなるからね。
そして冒険者に依頼した場合には魔王、つまり私への報告書も偽装しなければならないらしい。
つまり、冒険者が仕事をすれば貴族の仕事が増えると。
アルベルトをエルーザ領に張り付けておくには、私がクエストを頑張れば良いってことだね。
よし決めた、昇級クエストを受けよう。
私自身の安全のためにも、アルベルトには過労死寸前まで頑張ってもらうよ?
冒険者のランクは1から10まで。
そして、昇級クエストは順にクリアしなければならず、飛び級はできない。
貴族からの依頼はランク5から出てくるらしいから、道は長い。
まあいいさ、気楽にやっていこうじゃない。
で、ランク1から2への昇級クエストは、三種類の薬草の採集だった。
採集クエストは地味だから嫌いなんだけど、贅沢を言っても仕方がない。
幸い、この三種類の薬草はどこにでも自生してるみたいだから、見つけるのは苦でもない。
店にも売ってるから、それを購入しても良いとのことだ。
でもそんな、ズルをするような真似はしたくない。
だから私は街道まで出て、目当ての薬草を探した。
ものの数分で見つかったけどな。
うーん、張り合いがない。
昇級クエストなんだから、強いモンスターの討伐だって良さそうなものだ。
……いけないいけない、刺激を求めるなんて私らしくない。
ここ最近は戦いばかりだったから、そんな環境に慣れてしまったんだろう。
楽であることに越したことはない。
楽なことは良いことだ。
よし、さっさと戻って報告しよう。
「マオさん、お疲れさまです。これでマオさんは、冒険者ランクは2になりました。おめでとうございます」
「ありがと、さっさとランク3の昇級クエストを受けたいよ」
「それは出来ません。ここまでは、言わばチュートリアルです。ここから先は地道にクエストをこなして、冒険者としての名声を上げてください。ギルドの仕事は信用第一ですよ」
受付さんの笑顔が眩しい。
と言うか、そんなこと説明してなかったじゃないか。
……確かに、貴族からの依頼もあるし、国民だってギルドを信頼してる。
信用第一と言うのは、当然と言えば当然か。
……待てよ?
これ、依頼主の名は明かされないんだよね。
で、冒険者に指名もできる。
私が正体を隠して私宛てに依頼をすれば。
「先に言っておきますが、自分から自分へ依頼を出したところで、名声は上がりませんよ? 依頼主の人数と、指名してきた人数で名声値を計算していますので、ズルは出来ません」
……こういうところはしっかりしてるのね。
仕方がない、ここから先はマイペースにクエストをこなしていこう。
シャドウサーヴァントも完成してないから、気軽に外出もできないからね。
私が受付さんと話をしてると、冒険者の一団が酒場にやってきた。
ふと外を見ると、窓からは夕陽が射し込んでいる。
もうひとつくらいクエストをやっていこうかと思ったけど、そろそろ帰らないとアナスタシアがどんな怒り方をするか分かったものではない。
私は目立たないように酒場から立ち去り、足早に魔王城へと向かった。