63 魔神爪サイカ
ダンジョンでシャドウサーヴァントの特訓中、ドワーフのコルタから連絡が入った。
どうやら遂に、私専用武器が完成したそうだ。
ちゃんとした理由があるんだ、アナスタシアだってコルタの工房へ行くことを止めはしないでしょ。
そのことをアナスタシアに相談した結果、案外あっさりと許可を貰えた。
今日は仕事もないし、羽を伸ばすには良い機会だと言ってくれた。
つまり、今日はお休みだ。
武器を受け取ったら、ギルドにも顔を出してみよう。
コルタの工房は、相変わらずの汚れようだ。
少しは掃除した方が良いのではないかと思う。
「大きなお世話だよ」
おっと、心の声が漏れてたか。
これを機に掃除でもしたら?
「私の部屋の話は置いといて、ついに出来たよ魔王ちゃん」
コルタは、この部屋に似つかわしくない、金装飾の箱をテーブルの上に置いた。
見た目アタッシュケースのようなその箱を、コルタは私に差し出した。
「さあ、中身を確認してくれ」
私は留め金を外し、箱を開けてみた。
そこにあったのは……籠手のようなガントレットのような具足だった。
「これ、ガントレットじゃないの?」
「まあまあ、まずは装備してみなって」
言われるままに、ガントレットのようなものを装備してみる。
ただのガントレットかと思ったが、指先の部分が鋭利な爪状になっている。
「グローブには、なめした鎧牛の皮。指先の爪には、魔狼の爪と牙、それから純度100%の魔晶石を混合させたスーパーメタル。装甲には輝岩大亀の輝石をあしらった、自慢の一品さ」
それだけ聞くと凄そうだ。
「さらに、魔法による変形機構も備わってるよ」
「変形だと!?」
「魔王ちゃんが好きそうだから組み込んだけど、その反応を見る限り、入れて正解だったようだね。それに魔力を流し込んでみな」
言われた通り、ガントレットに魔力を流し込んでみる。
すると、指先の爪部と装甲部が伸びた。
爪はさらに鋭利になり、装甲は肩まで覆えてしまえそうだ。
「伸びるだけじゃない、攻撃力と守備力も上昇するんだ。更に、手の甲の部分に窪みがあるだろ? そこに例えば、水の魔法水晶をはめ込めば、そいつは水属性になるんだ」
マジか!?
ちょっと待って、テンション上がりまくりなんだけど。
ああ、試し斬りしたい。
「人形だけど、試してみるかい?」
断る理由がない。
私達は工房裏にある広場へ向かった。
「さあ、好きなだけ試してくれ。私も、そいつが暴れる姿を早く見たいんだ」
コルタは目を輝かせてる。
分かったから落ち着いてほしい。
私は広場の中央にある、木人形の前まで行った。
まずは、適当に動いてみよう。
見た目からは想像もできないほど軽く、何も装着していないかのような扱いやすさだった。
次は攻撃だ。
私は大きく振りかぶり、木人形目掛けて振り下ろした。
この広場には、ステータスダウンの魔法がかけられている。
この広場内では一般人並みの力しか出せず、木人形の破壊はできないはずだった。
振り下ろした爪は、持っていた剣と盾もろとも、木人形を引き裂いてしまった。
それと同時に、コルタは歓喜の叫びを上げていた。
「凄いよ魔王ちゃん! この広場の中でこれだけの攻撃力を引き出せるなんて!」
予想以上の出来栄えに相当嬉しいんだろうけど、ぶっちゃけ恥ずかしいからやめてほしい。
「よし、こいつの名前が決まったよ。魔神爪サイカだ」
魔神爪サイカ。
サイカは災禍ってことなんだろうね。
物騒な名前だけど気に入ったよ。
これなら、キルナス迷宮の後半もクリアできそうだ。
唯一の不満を言うならサーペントの武器と似通ってるところだけど、こればかりは仕方がないか。
〔条件を満たしました〕
おや?
〔魔神爪サイカを装備したことにより、魔王スキルに各種スキルが統合されました〕
〔魔王スキルの逃亡不能が消滅しました〕
〔防具:魔王シリーズの能力が魔王スキルに統合されました〕
〔スキルの獲得条件を満たしました〕
〔権限LVが上昇しました〕
〔スキルの獲得条件を満たしました〕
……凄いとしか言えないわ。
スキル関連は、あとで確認しておこう。
「魔王ちゃん、どうかした?」
「魔神爪サイカの凄さを実感してただけ」
「そうか。もし不具合とか出たり、そいつが破損したら持ってきてくれ。格安で直してやるから」
「分かった。色々とありがとう」
「礼を言うのはこっちの方だよ」
私は魔神爪サイカを箱に入れ、コルタにもう一度礼を言ってから工房をあとにした。