56 美少女冒険者マオ
さて早速、受付さんと呼ばれてたエルフの少女に話しかけてみよう。
「いらっしゃ……あら?」
話しかけようとしたら、エルフの少女がこちらに気づいた。
そして、私の顔をまじまじと見ている。
……もしかして、私が魔王だってバレた?
「あなた、もしかして……」
「な、なに?」
「張り紙を見てくれた方ですか?」
エルフの少女は目を輝かせている。
張り紙って、何のことだ?
「……違うのですか?」
「いや、張り紙ってなにさ?」
「これです」
エルフの少女は、一枚の紙を私に見せた。
そこには『急募! 腕の立つ冒険者求む! 経歴、種族不問! 詳しくは王都のギルド酒場まで!』と書かれていた。
こんな張り紙、あったんだね。
「残念だけど、その紙を見てきたわけじゃないよ」
「そうですか……」
しゅんと落ち込む姿が、何とも可愛らしい。
「何か理由があるの?」
「実は最近、王都周辺でも強力なモンスターが発見されるようになりました。討伐隊だけでは限界があり、モンスター討伐の依頼が大量に届いているのです」
「だから、強い冒険者を募っていたってわけか」
エルフの少女は頷いた。
なるほど、それは由々しき事態だ。
一応私の国だし、モンスター程度に好き勝手やらせるつもりもない。
「あのさ」
「はい、何でしょう?」
「私はその紙を見たわけじゃないけど、ギルドに入りたくてここに来たことに、代わりはないんだ」
言った途端、エルフの少女の目が輝いた。
「ほ、本当ですか!?」
「本当だよ」
「で、では、こちらの書類にサインを」
そこまで言ったところで、酒場のマスターと思しきおじさんが遮ってきた。
「待ちなさい、そう簡単に受け入れるものでもない」
「ですが!」
「……まずは、貴女のお名前を聞きましょう」
私か?
私しか居ないね。
本名を名乗るわけにもいかないし、以前考えておいた名前を名乗ろう。
「私はマオ」
「マオさん、貴女は何のために、ギルドへの所属を望まれるのですか?」
何を聞くかと思えば、そんなことは決まってるよ。
「私は、困ってる人を助けたいんだ。だから、ギルドに入りたいって思ったんだよ」
自分で言ってて寒気がしたわ。
まあ、あながち間違いでもないし、別に良いか。
「なるほど、分かりました」
そう言った瞬間、おじさんの目が光ったような気がした。
このおじさん、よく見たらオッドアイだわ。
右目は銀色、左目は真紅。 その真紅の瞳に見つめられ、何だか妙な感覚に包まれる。
これはもしかして、魔眼かな?
「マオさん、貴女を歓迎しましょう。冒険者ギルドへようこそ」
……このおじさんには、私が魔王だってバレたかもね。
それでも、私を冒険者のマオとして接してくれると言うことは、事情を察してくれたってことで良いんだよね?
あとでアナスタシアに報告するなよ?
「では改めて。マオさん、こちらの書類にサインをお願いします」
エルフの少女が、一枚の書類を差し出した。
そこにはギルドでの注意事項が書かれていたけど、基本的には自由な組織のようだ。
ギルド側から召集することもなさそうなのは、こちらとしては都合が良い。
私は注意事項を読み終え、書類にサインをした。
「ありがとうございます。冒険者マオさんの登録完了です」
「では、我々も自己紹介をしておきましょう」
おじさんが前に出て、軽く頭を下げた。
「私は冒険者ギルド、魔族本部のギルドマスターです。以後、お見知り置きを」
ギルドマスターか。
どうりで、人を見る目が鋭いわけだ。
「私はギルドの受付です。クエストの受注や報告は全て私が行ってます。よろしくお願いします」
全部って……働き者だね。
おじさんもといマスターは厳しそうだけど、上手くやっていけそうだ。
それに疲れて帰ってきても、エルフの少女もとい受付さんの笑顔に癒されると。
良くできたシステムだね。
ギルドの雰囲気も良いし、これからの冒険者ライフを満喫できそうだ。
何はともあれ、美少女冒険者マオの誕生だ。