51 輝岩大亀ふたたび
私はカグラの転送魔法陣から、エレヌスさんの小屋に訪れた。
今のステータスをもってしても、サーペントには手も足も出なかったことを報告するためだ。
それから、夢の中にセラメリアが現れたことも伝えなければいけない。
でも、目の前に居る青いローブの老人が、それを許してくれそうにない。
こいつは確か、試練の遺跡に居た亀だったか。
まさかこいつも、私と戦えとか言うんじゃ?
「私はサキ殿と戦いたくないのだが、これはエレヌス殿の命令だからな。悪く思うな」
そう言ってローブの老人は、いつかの亀に姿を変えた。
「カークは命令に背いて、サキ殿と戦った。それを見ていたエレヌス殿は、その様子を大層気に入られてな。修行の一環として、私もサキ殿と戦えと」
あのくそじじいは何てことを考えやがるのか。
そんな思いつきに振り回される、私達の身にもなれと言いたい。
「しかし、やるからには手加減はしない。サキ殿も全力をぶつけてくれ」
〔輝岩大亀:グラントは、先制技:前後矛盾を発動させました。魔王のブーツの効果が逆転し、魔王:サキは輝岩大亀:グラントが行動するまで動けません〕
そう言えば、そんな技持ってたっけ。
グラントは大きく吠えると、口から巨大な火の玉を吐き出した。
ちょっと待て、あの時はそんな攻撃してこなかったじゃないか。
何とか避けたけど、火の玉は着弾時に爆発するタイプだったようだ。
爆発により飛んできた火の粉が、私の体を掠めていく。
「私は元々、この甲羅の守備力による持久タイプだ。あの時は披露しなかっただけで、私にも攻撃技のひとつやふたつあるのだよ」
そう言うとグラントは、巨大な氷の玉を吐き出した。
火の次は氷って?
これくらい避けるのは簡単だよ。
さっきは火の粉が飛んできたから、今回は大きく避け……ああ、そうくるか。
この亀は、私が避けることを読んでいた。
火の玉の次は氷の玉。
同じような技を出せば避けられるのは当たり前だ。
だからこいつは、私が避ける方向まで読んで、そこに火炎のブレスを吐き出していた。
もしかしたら私は、こいつに誘導されたのかもしれないね。
炎は疾風魔法で吹き飛ばすから良いとして、やっぱりこいつはカークより強いんじゃなかろうか?
「なかなかやる。と、言いたいところだが、詰めが甘いな」
背後から炎が迫っている。
ブレスを操れるのか?
これも疾風魔法で吹き飛ばせる。
でも、私が炎を吹き飛ばせることは、さっきの行動で分かってるはずだ。
こいつがどう出るか分からないけど、まずは炎を何とかしよう。
「だから詰めが甘いと言っている」
言い終わると同時に、私の足元から氷塊が突き出した。
咄嗟にジャンプして避けたけど、そこへさらに追い討ち。
グラントは体を高速で回転させ、その巨大な尻尾で薙ぎ払ってきた。
確かに詰めが甘い。
私はカーク戦で会得した擬似二段ジャンプで、尻尾の薙ぎ払いを避けてやった。
さすがにここまでは読んでなかったのか、グラントの攻撃が止まった。
思わぬ連撃に、私は体制を整えるためにグラントから距離をとった。
「確かに、カークの言っていた通りだ。サキ殿との戦いが、これほど楽しいものだとは」
こっちは楽しくないよ。
こちらの逃げ場を奪うような攻撃の連続。
さらにこいつには、一度だけダメージを無効にする技がある。
ごり押しをしたところで突破は困難。
ああ、もう。 こいつは本当に面倒くさい。
でも、こいつを何とかしないとエレヌスさんには会えないし。
仕方がない、徹底的に付き合ってやろうじゃないか。
こいつに勝てないと、サーペントに勝つなんて夢のまた夢だからね。