48 敗北
本題に入る前に、まずは私のステータスを見てほしい。
〔LV:25〕
〔名前:サキ〕
〔種族:魔王〕
〔HP:54000〕
〔MP:63000〕
〔SP:48000〕
〔攻撃力:32000〕
〔守備力:19800〕
〔魔力:40000〕
〔魔法耐性:19500〕
〔素早さ:9000〕
私は、ダンジョンで魔力を吸収しまくったお陰で、武器を持っていないモンスターなら普通に倒せるくらい強くなった。
先日、自分のステータスを確認したら倒れるかと思ったほどだ。
それなのに……。
私は今、地面に体を横たえている。
全身が擦り傷や打撲で痛む。
もう指一本、動かすこともできそうにない。
そう、私は負けたのだ。
目の前で私を見下し、卑しい笑みを浮かべる下種野郎に。
まったく呆気なく、酷いものだった。
私は持てる力の全てを使って、必死になってサーペントと戦った。
そんな私を、サーペントは嘲笑っていた。
ダメージを0にする方法も通用せず、見破ることもできず、私が編み出したオリジナルの魔法や技も、まったく効かなかった。
それでも私は抗った。
サーペントの爪甲に触れないよう立ち回り、隙を見つけては攻撃を繰り返した。
しかし、サーペントには傷一つ付けられなかった。
次第に私の体力は削られ、集中力が切れたところを突かれた。
それは爪甲の攻撃ではなく、ただの足蹴りだった。
そのあとは一方的。
殴られ蹴られ、地面に叩き付けられ。
骨も何本折られたか。
回復をしている猶予も与えられず、私はただのサンドバッグと化していた。
倒れ伏し、動けなくなった私の頭を、サーペントは踏みつけた。
先ほどのお返しだと言わんばかりに、私を踏みつける足に体重をかけて、さらに踏みにじっていく。
痛い、嫌だ、死にたくない。
私はもう、それしか考えられなかった。
護衛は全員やられてしまい、私を助けてくれる者など居ない。
私は心の中で大きく叫んでいた。
誰でも良い、誰か助けて、と。
しかし、そんな叫びが誰に届くはずもない。
足を退けたサーペントは私の髪を鷲掴みにし、無理やり体を起こさせた。
ぶちぶちと何本か抜けたようだが、それは些細なことだ。
全身を覆う痛みが、私の思考を鈍らせているから。
「良い顔になってきたじゃねえか。恐怖と絶望に満ちた顔によ」
サーペントは髪を鷲掴みにしたまま、私の脇を殴った。
骨が二、三本折れる音と共に激痛が走る。
肺にもダメージがあったのか、呼吸も困難になってきた。
目も霞んできた。
もう駄目かと思った時だった。
サーペントは私が死なないよう、回復魔法をかけたのだ。
この時、助かったと思った私は、この先の地獄を知らなかった。
ある程度傷が塞がったところで、サーペントは再び私をサンドバッグにしたのだ。
殴られ蹴られ、死にそうになったら回復をかけていく。
……生き地獄だった。
もういっそ、私を殺してほしかった。
三回目の回復の時には、私は思考を停止させていた。
心だけでも守ろうとしたのだろう。
気が付けば、辺りは薄明るくなっている。
もうすぐ夜が明けるのだろう。
「まだ気が済まねえが、そろそろ引き渡さねえとな」
サーペントは私を蹴り起こし、最後の回復をかけた。
「さあ行こうぜ、紗絹姉ちゃん」
サーペントの言葉に、私の瞳には光が戻る。
私に兄弟は居ない。
しかし、私のことを“紗絹姉ちゃん”と呼ぶ人物には心当たりがある。
まさか。 いいや、そんなはずはない。
私の聞き違いであってほしい。
サーペントは手枷を持って、私に近付いた。
これで連れて行くつもりだろうが、そんなことはさせない。
回復のお陰で、私の体は少しだけ動かすことができる。
私は近付いたサーペントに、平手打ちをした。
これが、最後の抵抗だ。
平手打ちをされたサーペントは私を睨みつけると、私を蹴り飛ばした。
「気が変わった。今すぐ殺してやる」
サーペントは爪甲を装着して、倒れる私に近付いた。
「あばよ」
サーペントは爪甲を、私目掛けて振り下ろした。