47 夜襲
焼き肉パーティーから数日後の、ある夜。
私はこの日、サクラノ王国のお偉方と会談をしていた。
まったく、ダンジョンから帰ってすぐだから勘弁してほしかった。
しかも改まった場所だからってことで、無理やりドレスを着せられるし。
……可愛いドレスだったから、別に良いけどさ。
会談中は私は喋らず、アナスタシアが全て取りまとめてくれたから良いけどさ。
会談の内容は、貿易や人と魔の友好関係について。
セラメリアのことについては話さなかった。
まだどうなるか分からないし、余計な混乱を招くからだ。
いくら私だって、その辺りのことは弁えているつもりだ。
今はまだ、セラメリアのことを公にする時ではない。
エレヌスさんは危惧してるけど、実際のところ復活するのかどうかも怪しいからね。
で、会談も終わって、今は自国へ帰る途中だ。
アナスタシアは今日中に纏めなければならない資料があるとかで、早馬を使って帰ってしまった。
私は来た時と同じく、馬車で帰ることにした。
馬車の周りには騎士団、私の護衛だ。
護衛を付けるのはどうかと思ったが、夜道と言うものはなかなかに心細くなるものだから、実は安心してたりする。
それに護衛を断ったら、アナスタシアに怒られそうだしね。
しばらく揺られていると、馬車が停車してしまった。
……嫌な予感がする。
そう言えば、いつか狼に襲われた時も、こんなシチュエーションだった。
あの時は護衛は居なかったけどね。
「おいお前、今すぐ道をあけろ」
護衛の一人が、誰かに対して話しかけている。
誰が居るのか、想像できるけどね。
間違いであってほしいと願いたい。
私の願いは届かなかった。
護衛は悲鳴を上げ、一人、また一人と倒れていく音が聞こえる。
……全滅か。
何者かの足音が、馬車のすぐ近くで止まった。
正直なところ怖いけど、やらなきゃこちらがやられる。
だったらやるしかない。
私は馬車の扉を蹴破り、目の前に居たそいつの顔を踏み台にしてジャンプした。
空中で体を翻して着地。
前々から思ってたけど、私は前世と違って身体能力は高いようだ。
嬉しいことだが、今はそのことを考えてる場合ではない。
「クソが! いきなり顔を踏みつけやがって!」
顔面を押さえながら悪態をついているのは、やはりサーペントだった。
私は瞬時に、辺りの状況を確認する。
護衛は全員倒れているが、まだ息はあるようだ。
また毒か。
しかも、今回は麻痺毒ときたか。
何とも厄介だ。
「……まあ良い。お前を迎えに来たぜ、魔王さんよ」
「白馬に乗ったナイトならまだしも、あんたのようなドブネズミ、お呼びじゃないのよ」
「言ってくれるじゃねえか。殺すなと言われてるが、気が変わっちまいそうだ」
さて、今のうちにこいつのステータスを確認しておこう。
今の私なら、鑑定の妨害は突破できるからね。
〔LV:?????〕
〔名前:?????〕
〔種族:?????〕
〔HP:?????〕
〔MP:?????〕
〔SP:?????〕
〔攻撃力:?????〕
〔守備力:?????〕
〔魔力:?????〕
〔魔法耐性:?????〕
〔素早さ:?????〕
うぅ、ゲシュタルト崩壊を起こしそう。
それより、突破したはずなのにステータスが全てクエスチョンマークだ。
こんなことは初めてだし、いったいどうなってる?
「おいおい、もうそこまで覚えちまったのか?」
「あんたを倒すためにね」
「そうかい。だが、残念だったな。システム内の力じゃ、オレを見破る事はできねえんだよ。と言っても、今のお前には分からない事だろうけどな」
ああ、そうさ。
システムのことなんか知らないさ。
でも、私はこの日のために強くなったつもりだ。
サーペントの強さが分からなくても、抵抗できるだけの力はついたはず。
「だったら、試してみるかい?」
サーペントは低く構えた。
それに対して、私も構えをとる。
この数日間で開発した、私の戦闘スタイルだ。
私専用の武器は、まだ完成していない。
だから素手での戦闘スタイルを考え出したのだ。
そして、新たに覚えた魔法もある。
サーペントに届くか分からないけど、どの道、私もサーペントも戦闘が終わるまで逃げられないんだ。
だったら、腹を括るしかない。
修行の成果、見せてあげるよ。