44 魔王の配下
ライオスとゼミラニスの一撃で倒れた牛。
二人には感謝だね。
でも、どうしてライオスとゼミラニスがここに?
「魔王様の事が心配になり、急いであとを追ったのですよ」
ゼミラニスが胡麻擂りをしながら近寄ってくる。
すかさず距離をとる。 どうせあれでしょ? 私に恩を売るつもりだったんでしょ?
評価は上げてあげるけど、恩を売ったなんて思わないことだね。
さて、このこんがり焼けた牛を持って帰りたいんだけど、どうしようか?
……頼みたくないけど仕方がない、ライオスとゼミラニスに任せよう。
「分かりました。責任を持って持ち帰ります」
ゼミラニスが呼び寄せた衛兵10人掛かりで、牛を運んでいった。
「では、私はこれで」
深々と頭を下げて衛兵達とその場をあとにするゼミラニス。
こいつは悪い奴ではないんだけど、権力の亡者らしいからね。
あんまり深く関わりたくないよ。
「ところで魔王様、用事は済まされたのでしょうか?」
ゼミラニスを見送ったライオスが聞いてきた。
そう言えば二人には、詳しいことは話してなかったんだよね。
「一応ね。あ、そうだ」
「何でしょう?」
「あの牛、一度ドワーフの工房に運ぶように伝えてほしいんだ」
「分かりました、手配しておきましょう」
深く詮索してこないあたりは、さすがと言えるかな?
「私も戻りますが、魔王様お一人で大丈夫ですか?」
「来た道を帰るから大丈夫だよ」
迷いやすい道でもなかったからね。
「分かりました。では後ほど」
さてと、隣でキョトンとしてるユキメに、事情を説明しないとね。
「マオさんは、偉い人だったのですか? みんな、マオさんの事を様付けで呼んでいましたし」
「なるほど、そう聞こえてたか。私の本当の名前はサキ。セラメリア王国で魔王をしてるんだ」
「ええ!?」
うんうん、なかなか良い反応だ。
そう言えば、どうして鎧牛の討伐依頼なんか出そうとしたんだろ?
「そ、それは、あの鎧牛が食べ過ぎだったのです。何でも食べるから食料が無くなって、私達ワーフォックスの生活圏にまで進入してきて」
「で、自分達ではどうしようもないから、魔族に助けを求めようとしたってことかな?」
「はい。それなのにまさか、魔王様が倒してくださるなんて」
私の目的が、たまたま牛だっただけだよ。
そう言えば、冒険者ギルドに頼もうとしたってことは、何かしらの見返りはあるはず。
でも、ワーフォックスであるユキメがお金を持ってるとも思えないし。
……まさか、葉っぱのお金?
「そんな古典的な事はしませんよ」
「じゃあ、報酬はなんだったの?」
「いつか役に立つかもと思って、私がコツコツ貯めたお金です」
ユキメは小さな袋を取り出した。
中からはジャラジャラと、心地の良い金属音がする。
もし袋の中身が全て金貨だったとしても、鎧牛討伐の報酬としては安すぎると思う。
ギルドも請け負ってくれないだろうね。
ちなみに、興味本位で中身を確認したところ、全てが瓶の蓋。 いわゆる王冠だった。
実はこの世界には、そういった技術があったりする。
ここでは説明しないけどね。
「残念だけど、これはお金じゃないよ」
「え?」
「それに、これが金貨だったとしても、足りなかったらどうしてたのよ?」
「それは体で」
年頃の娘がそんなこと言うものではありません。
何だか急に、ユキメのことが心配になっちゃったわ。
……仕方がない。
「ユキメ、私の配下にならない?」
「え?」
「衣服も住む場所ももちろん保証するし、三食昼寝のおやつ付き。どう?」
ユキメはよだれを垂らしながら、目を輝かせてる。
いつの間にかキツネ耳も生えて、嬉しそうにピクピクと動いてる。
かわいい。
「ほ、本当に、私なんかが魔王様に仕えて良いんですか?」
「ユキメさえよければね」
「喜んで! これから、よろしくお願いします!」
「よろしく」
私もセラメリアの復活に備えておきたいからね。
それに、ユキメのステータスやスキルも申し分ない。
鍛え方次第ではかなり化ける。
それだけの素質があるんだから、配下にして損はないでしょ。
下山。
ユキメは山脈から出たことが無かったようで、目に映る全ての光景が珍しいようだ。
気持ちは分かるけど、少しは落ち着いてほしいものだ。
とりあえず王国に戻って、コルタに報告しないとね。
そのあとコルタを殴ってから、あの牛をみんなで美味しくいただこうじゃないか。