41 つままれる
ウサギに癒されながら進んでいくと、エルステルン山脈の中腹辺りに辿り着いた。
確か、試練の遺跡はこの辺りだったはず。
まだ険しい道のりではないけど、ウサギの姿が見えなくなったから用心しないと。
……とか言ってる矢先に現れたわ、キツネが。
バッチリ目が合っちゃってるんだよね。
可愛らしい見た目だけど、なんだか怪しい。
ちょっと鑑定してみようか。
〔ユキツネ:エルステルン山脈に生息する狐。魔法が得意。旅人をからかう為、出会ってしまった際には注意が必要〕
注意って言っても、こいつは私をからかうつもりだ。
いや〜な笑みを浮かべてるよ。
無視して行きたいところだけど、こいつは私をからかうまで去ろうとしないよね。
だって、ゆらゆらと揺らしている尻尾が、二本に増えてるんだから。
幻惑の魔法?
でも、この世界の幻惑魔法は魔法耐性で防げるはず。
このキツネの魔力が、私の魔法耐性を上回っているとも思えないし?
おお、今度はキツネが二匹に増えたよ。
尻尾も四本に増えてるし。
これは、幻惑魔法じゃない?
でも、だとしたら何だ?
毒?
なんて考えてたら、今度は四匹に増えた。
尻尾も八本。
尻尾があと一本増えたら、私でも太刀打ちできないかもしれない。
どうかしてたわ、冷静になろう。
敵意は無いから、戦闘にも入ってない。
だからこのキツネも、逃げることはできるはずだ。
ちょっと威嚇すれば逃げ出すんじゃないかな?
こいつは旅人をからかって、その反応を楽しんでるだけだ。
つまり、こいつから見れば遊びなんだよね。
でも、威嚇するのは少し可哀想な気もするし、何よりこっちは遊びに付き合ってる暇はないんだよね。
からかうだけなら、私はこのまま進むよ?
良いよね?
私はキツネ達の横を通り抜けて先へと進んだ。
先へ進む私の周りを、キツネ達は飛び跳ねながらついてくる。
遊んでアピールが凄いね。
心を鬼にして追い払うべきだったかな?
害は無いけど、このままだと鬱陶しくて鬱陶しくて。
さすがに諦めたのか、しばらく進むとキツネ達はついてこなくなった。
やれやれ、これで気兼ねなく進めるよ。
そんなことを思って進んでいくと、登山ルートから少し外れたところに山小屋を見つけた。
さっきの今で凄く怪しいけど、さすがに疲れた。
少し休憩しよう。
山小屋は少しボロだけど、薪や食料はちゃんとあるみたいだ。
暖炉を使うのは初めてだけど、テレビとかで見た通りにやればいけるでしょ。
……うむ、ぬくぬくだ。
それにしても、この小屋はどんな目的で建てられた?
登山ルートが確立されてるとは言え、ここはモンスターばかりだ。
今のところウサギとキツネにしか出会ってないけど、凶暴なモンスターだっているはずだ。
人が出入りしているかのように小屋の中は綺麗だけど、山脈の管理人の小屋にしては薪と食料以外は見当たらない。
……これはもしかしたら、あのキツネに化かされてるかな?
「もしもし、どなたかいらっしゃいませんか?」
扉をノックする音と、綺麗な女性の声が聞こえてきた。
うーん、このあとの展開が読めてるんだけど、せっかくだから付き合ってあげようか。
小屋の扉を開けると、そこには白い服を身に纏った、美しい女性が立っていた。
「良かった、誰もいないのかと心配になりました。実は道に迷ってしまって……少しの間、ここで休ませてもらえませんか?」
登山ルートがあるから迷うはずもないんだけど、付き合ってあげるって決めちゃったし、ここは流れに任せよう。
「私も休憩中だったんだ。良かったら、一緒に休もうよ」
「ありがとうございます。あ、私はユキメ・コンと申します」
「私はマオ、よろしくね」
ユキメ・コンと名乗る女性は一礼すると、小屋の中に入ってきた。
これからどんな展開になっていくのかな?
ユキツネさん。