39 魔王様の武器
戦いを終わらせた私は、カークの頭をわしゃわしゃと撫でながら、色々と質問をしてる。
「聞くのは構わんが、撫でるのはやめてくれぬか?」
「そんなこと言って、満更でもないと思ってるくせに」
所詮は犬だからね。
「そ、そんな訳無かろう」
「じゃあやめるよ?」
「む……」
こいつツンデレだわ。
さて、私はあの時、こいつを倒したはずだ。
なのになんで復活してんの?
「それは、我の持つスキル、不屈の魂によるものだ。決して死ぬことのないスキル。試練の魔物は滅んではならんのだ。それ故、我とグラントは永劫の時を生きてきた」
「なるほどね。で、私に負けたあと、エレヌスさんに拾われたと?」
「そうだ。セラメリアの脅威が迫っていると聞いてな。少しでも戦力が欲しいと言っていた」
エレヌスさんはエレヌスさんで、着々と準備を進めてたんだね。
でも、どうして人間に?
「魂だけとなった我は、エレヌス殿に人間の体に宿るよう言われた。元の肉体の再構築には、時間が掛かるからな。……もう少し右を頼む」
「はいよ。それで、ようやく肉体の再構築が終わったから、私と戦おうとしたってこと?」
「そうだ」
なるほど。
さて、もう少し撫でていたいけど、先に進まないと。
「行くのか?」
「うん。頑張って攻略しないと、強制的にダンジョン送りだからね。いつ、どのタイミングでダンジョン送りか分からないから、早めにクリアしたいんだよ」
「そうか。では、幸運を祈る」
カークは老人の姿に戻り、迷宮から出て行った。
……案外、良い奴なのかもね。
私は扉を開けて、迷宮の奥へ進んだ。
迷宮の壁の色が変わった。
徘徊してるモンスターも、今までとは違うみたいだ。
ここからさらに難しいってことかな?
私は一度引き返すことにした。
だって敵が強すぎるんだもん。
それに、そろそろ武器が欲しい。
武器なしの状態だと、かなり厳しい状況だ。
相手が武器を持ってると、こっちは避けるしかないからね。
と言うわけで私は今、ドワーフのコルタの工房にお邪魔してる。
相変わらずの散らかりようだね。
そして相変わらず、コルタは紫色の液体をお茶だと言い張るのか。
お茶に関してはスルーして、本題に入らないと。
「わざわざ来てもらって申し訳ないけど、厄介な事が起こって完成してないんだ」
「何かあったの?」
「実は、ある素材が足りないんだ。それが無いと、魔王ちゃんの武器を完成させる事が出来ないんだ」
足りない素材か。
ああ、嫌な予感と言うか、これは最早お約束だよね。
「魔王ちゃん、その素材を調達してくれないか?」
ほらね、やっぱりね、そんな事だろうと思ったよ。
で、コルタは工房を離れられないって言うんでしょ?
「魔鋼炉の火を絶やす訳にはいかないから、あたしはここを離れられないんだよ」
分かってる分かってるって。
「分かったよ。それで、何の素材が足りないの?」
「さすが魔王ちゃん、話が早くて助かるよ。必要な素材は鎧牛の皮だ」
鎧牛?
聞いたこと無いな。
「そこそこ凶暴だから、市場にもあまり出回らない素材でね。でも、魔王ちゃんなら何とかなるでしょ」
「討伐隊とかに頼めば良いのに」
「場所が悪いんだ。そいつが生息してんのが、エルステルン山脈なんだよ。神聖な山だから、討伐隊でも簡単には入山出来ないのさ」
……面倒臭い。
でも、その素材が無いと完成しないと言うなら仕方がないよね。
ちなみに、どんな武器ができる予定なの?
「それは完成してからのお楽しみだ」
あ、そう。
まあいいや。
面倒だけど仕方がない。
まずはアナスタシアに事情を説明して、エルステルン山脈へ行く準備をしないとね。