37 魔狼ふたたび
そこは広い部屋だった。
部屋の中央には、エレヌスさんの部下である、ローブの老人が佇んでいる。
どうやら謎解きは、さっきので終わりのようだ。
謎解きは終わり、今度は力を示せってことなんだろうね。
だって、この老人の正体は。
〔LV:89〕
〔名前:ユルス(カーク)〕
〔種族:人間(魔狼)〕
〔HP:10000〕
〔MP:64000〕
〔SP:43000〕
〔攻撃力:2200〕
〔守備力:5000〕
〔魔力:23000〕
〔魔法耐性:18000〕
〔素早さ:5000〕
〔魔狼の眼光〕〔念話〕〔星天魔術8〕〔闇天魔術8〕〔白光魔術8〕〔魔狼の牙〕〔魔狼の爪〕〔敏捷3〕〔闘争2〕〔闇の息3〕〔炎の息4〕〔鑑定妨害〕〔不屈の魂〕
魔狼カーク。
そう、私が転生してから初めて戦った狼だ。
これだけのステータスなのに、サーペント相手では呆気なかったけどね。
サーペントと戦ったローブの老人も、私達がエレヌスさんの居場所を探している時に立ちはだかったのも、こいつなんだよね。
で、こいつは私と戦いたいのかな?
できれば戦いたくないよ?
「これは我の私情だ。エレヌス殿は関係ない」
あ、そう。
こいつ、と言うのもローブの老人と言うのも何か違う気がする。
なんて呼べば良い?
「今はカークと呼べ」
そう言うとカークは、その姿を変えた。
見上げるほど大きな狼の姿に。
戦うのは構わないけど……構わなくないけど、せめて戦う理由を教えてよ。
「外の世界も知らぬ転生したばかりの小娘に、たったの数発で屈してしまった己が許せんのだ。あの戦いは、単なるまぐれだと証明したいのだ」
ああ、それは悪いことをした。
確かに、カークと戦った時は右も左も分からなかった。
転生したばかりで、この世界の知識もなかった。
だから、カークの凄さも知らなかった。
カークは、この世界に一体しかいないユニークモンスター。
そしてその強さは、ピュアブラッドの中でも屈指だ。
だから歴代の魔王は、カークと戦おうとしなかった。
勝てるはずがないからね。
畏怖の存在。 それが、カークのプライドにもなっていたわけだ。
そこへLV1の私が現れて、カークのプライドをズタズタにしてしまったと。
「強き者に敗れるのならまだしも、明らかに格下のお前に敗れた事がまた許せん」
めんどくせー。
気持ちは分からんでもないけど、雄と言う生き物は面倒臭いね。
それで、カークはどうしたいの?
「我と戦え。己が強さを証明して見せよ」
こんな事して、エレヌスさんに怒られても知らないよ?
「それも承知の上。いくぞ魔王よ!」
この台詞を邪魔するのも悪いから、私は数歩前に出て、魔王のブーツの効果を消した。
こんな些細な事でも行動扱いになるのは良いやら悪いやら。
大きく吠えたカークは、私に向かって突進してきた。
あの時と同じ行動だ。
そこで私は、あの時の事を思い出していた。
カークのステータスは、初めて戦った時と大して変わってはいないだろう。
魔力と魔法耐性は、エレヌスさんに修行をつけてもらったから伸びてるんだろうけど。
私が一撃お見舞いしたあと、カークは突進をしていた。
当時の私の守備力は2000。
防御していたとしても、ダメージはあったはずだ。
でも、私にダメージはなかった。
そこで、レイロフ君の修行を思い出す。
レイロフ君の修行は、ダメージを0にするための修行だった。 守備力より攻撃力が上回っていれば、当然ダメージを負う。
カークの攻撃力は2200、対する当時の私の守備力は2000。
普通に防いだところで、ダメージはあったはずだ。
しかし、あの時の私はダメージを負っていない。
あの時、私は何をした?
私は目を瞑り、腕を突きだした……んだと思う。
で、目を開くと、目の前にカークの顔があった。
腕を突きだす、カークの攻撃が止まる……。
……もしかして。
私は目前にまで迫ったカークに向けて、片手を突きだした。
すると、カークの突進が私の手で止まってしまった。
私は防御行動はとっていない。
手を突きだしただけだ。
そして私は、ダメージを受けていない。
ベルンハルトお兄様が教えたかったのは、この事なんじゃないか?
「やるではないか魔王よ」
カークは後ろへ遠ざかり、呪文を唱え始めた。
魔術はヤバい。
そんな魔力で魔術を使われたら、さすがの私でも生きてるかどうか。
気は乗らない。
けど、やらなきゃやられる。
私は魔力を可視化して、魔術の着弾点を予想した。