30 カンナとカグラ
レイロフ君のその後は、何とも酷いものだった。
レイロフ君のHPが一桁になると、お兄様は回復薬をぶっかけて無理矢理戦わせた。
それが、レイロフ君の体力が尽き、倒れるまで続いたのだ。
さすがにやり過ぎだろうと思ったものの、止める術を持たない私は、ただ見ていることしかできなかった。
結局、ダメージを0にする方法も分からず終いで、その日の修行は終わった。
私の方はと言うと、宝箱に擬態したモンスターにモグモグされて、一度死んでおります。
何度も死ねるとは言え、さすがにもう死にたくないね。
誰が好き好んで死のうとするだろうか。
あと、レイロフ君の修行を見て、私もダメージを0にできないか試してみた。
結果? 聞くだけ無駄さ。
翌日、私はまたキルナス迷宮に来ている。
ここに来ている限り、仕事をしなくて済むからだ。
なんだかんだで、このダンジョンもそれなりに進んできたけど、どうやら構造は試練の遺跡に似ているようだ。
大まかに言うと、巨大な正方形の空間に壁を作った、迷路のような構造をしている。
つまり、一辺の長ささえ分かれば、このダンジョンの広さが分かるわけで、脳内マッピングも容易だと言うことだ。
さて、部屋のような場所のモンスターを粗方片付けたところで、私はダンジョンメニューを開いた。
〔キルナス迷宮、メニュー〕
〔レイロフの様子を見る〕
〔カグラの様子を見る〕
〔アナスタシアの様子を見る〕
〔迷宮から脱出する〕
今日はカグラの様子を見てみよう。
私はカグラを選択し、映し出される映像を眺めた。
そこは、日本の道場のような場所だった。
そこに、カグラとカンナさんの姿がある。
カグラはカンナさんと修行か。
二人とも袴を着ているけど、何とも様になるね。
二人は正座をしているけど、これから戦うという雰囲気ではなさそうだ。
「カグラ。何故、強さを求めるのですか?」
「私は、皆を守りたいのです。皆を守る為に、強くなりたいのです」
カグラの決意を聞いたカンナさんは、小さく溜め息をついた。
親としては、複雑な心境なのだろう。
「カグラ、あなたに問題を出します。それが解けたら、修行でも鍛錬でも付き合ってあげましょう」
「問題?」
問題?
「わたくしが何なのか、それを見破りなさい。それが問題です」
んん? どういうこと?
「あの、お母様……仰っている意味が理解出来ないのですが?」
「そのままの意味ですよ。それが出来ないのなら、修行は勿論ですが宮廷術士もやめてもらいますよ」
「そ、そんな!」
「それが嫌なら、わたくしの問題を解いてみなさい」
うーん、カグラが居なくなっちゃうのは非常に困るけど、カンナさんの意図は読めないし。
そうだ、こんな時こそ鑑定じゃないか。
映像に対して鑑定できるか分からないけど、ものは試しだ。
カンナさんに対して鑑定っと。
〔カンナ・ミヅチは鑑定不能です〕
ええ!?
ちょっと待って、鑑定不能とか初めてなんだけど。
いや、そもそも鑑定不能ってどういうこと?
抵抗されたわけでもないし、マジでどういうこと?
……と、カグラも同じことを考えていたようで、かなり戸惑っているみたいだ。
「これは時間が掛かりそうですね。わたくしは逃げも隠れもしません。わたくしを、見破ってみなさい」
これは、レイロフ君より酷かもしれない。
何とかしてあげたいけど、それも無理だよね。
「グルルルル……」
色々と考えていると、私の背後から唸り声。
とっさに振り返ると、目の前にはモンスターが牙を剥いている。
そして、振り返ると言う行動をとってしまった為、魔王のブーツの効果は切れている。
モンスターは、一直線に私へ向かって走り出す。
いやいや、ちょっとタンマ!
あー、酷い目にあった。
危うく死ぬところだったよ。
周りには気を付けないといけないね。
さて、私も考えようか。
私の知識の素であるゲームから考えてみよう。
私がやっていたゲーム達にも、相手のステータスが見破れない敵は居た。
もちろん、必ずしも見破れないわけではなく、見破る方法は少なからず存在した。
この世界にだって、その方法はあるはず。
カンナさんは、それを教えたいのかもしれないね。
サーペント相手だと抵抗だったし、その突破方法に繋がるかもしれない。
これは何気に、私も会得しないといけない事だ。
よし、私の知りうるゲームの知識を総動員しよう。
そうすれば私も、何かに繋がるかもしれない。
カンナさんの正体も気になるし、良い機会だ。