洞窟探索 前編
自分の強さの確認ができた。
スキルの確認もできた。
ユニークスキルは微妙だった。
お腹も空いてきた。
と言うわけで、私はついに、この空間から出る決意を固めた。
地底湖の水を飲めば、数日なら生きられるかもしれない。
しかし、何か食料を調達しないと、このままでは餓死してしまう。
転生後、すぐに餓死とか笑えない。
気は進まないし、もし獰猛な動物やモンスターが現れたら、ヒキニートの私には太刀打ちできるはずがない。
出来ることなら、あの空間に引き籠もって過ごしたいところだったが、先ほども言った通り、食料を調達しないと餓死してしまう。
私は周囲を警戒しながら、脇にある出入り口を通り、地底湖をあとにした。
目の前には、一本道の岩の通路。
暗視スキルのお陰で、視界は良好。
目に見える範囲に、動物やモンスターの姿も無し。
細心の注意を払い、ゆっくりと進んでいく。
しばらく進んでいくと、分かれ道に出た。
左右に道が分かれている。
マップがあれば、どちらへ行けば良いのか分かるけど。
〔エルステルン山脈のマップデータの要請〕
〔……より、要請は却下されました〕
さっきから、こちらからの申請が却下されてる。
転生特典とか貰いすぎたせい?
恐らく、申請を出している相手は神様とか、その辺りだとは思う。
確認する方法が無いし、名前の部分も聞き取れないから何とも言えない。
けど、転生中にも何回か申請を出して受理してもらってたし、これからは頼らず生きていけってことかな?
急に、見捨てられたら気分になり、少しだけ心細くなる。
転生中にワガママを言いまくってしまった気がするし、仕方がないと割り切ろう。
まずは、目の前の問題を解決しないと。
右と左、左右の分岐点。
右は緩やかな登り坂。 左は緩やかな下り坂。
ここは最奥部と言っていたし、登り坂を選びたくなる。
しかし、時折頬を撫でる風は、下り坂から吹いてきている。
出口が有るとすれば、風が吹いている方向。 外から風が吹き込んでいると考えるのが、この場合妥当だと思う。
つまり、左が出口に繋がっている。
私は、左の下り坂を進んでいった。
私の読みは間違っていないと思っていた。
確かに風は流れ込んでいたさ。
ネズミが通れそうな、小さな穴から。
その場所は袋小路になっていた。 つまり、行き止まりだ。
この道ははずれだった。
動物やモンスターに出会さなかったのが、唯一の救いか。
落胆しながら、来た道を引き返そうとした時、岩陰に何かがあることに気付いた。
それは間違いなく、RPGではお馴染みの宝箱だった。
しかも、それなりの装飾が施されているところを見ると、これはいわゆるレア宝箱ではないのだろうか?
しかし、RPGの定番では、ミミック的なモンスターの可能性もある。
どうしたものか。
〔鑑定のスキルにより、宝箱の鑑定を行えます。これにより、宝箱内のモンスター、トラップの有無を確認出来ます〕
鑑定すげー。
そんな事もできるのか。
鑑定って死にスキルなことも多いが、これは冒険者にとっても嬉しい、当たりスキルだね。
私は、目の前の宝箱に向けて、鑑定と念じた。
〔宝箱:ランク9。モンスター無し、トラップ無し〕
よしよし、モンスターもトラップも無し。
宝箱のランクが9ってことは、中身はレアアイテムに違いない。
私は意気揚々と、目の前の宝箱を開けた。
宝箱の中身は……服?
見た目は格好良さそうだけど、一応鑑定してみよう。
魔法衣じゃない服だから今すぐ着替えたいけど、これが呪いアイテムとかだったら、それこそ目も当てられないからね。
〔魔王の装束:魔王のみが装備を許される、伝説の防具。これを装備する事により、全ステータスにプラス補正が掛かる〕
〔魔王のマント:魔王のみが装備を許される、伝説の防具。これを装備する事により、全物理属性耐性が25%上昇する〕
〔魔王のブーツ:魔王のみが装備を許される、伝説の防具。これを装備する事により、戦闘時に相手より先に行動する事が可能となる。また、壁や天井が歩行可能となる〕
なん……だと……?
これ、魔王専用装備だったのか。
装備時の効果も、まさに魔王といった印象だ。
魔王のみ装備可能って、私魔王だから装備できるってことだよね。
これは是非とも装備しなければ!
私は魔王装備を取り出し、岩陰に身を隠した。
誰も居ないけど念のため。
着替え完了。
姿見とか無いから、自分の姿を確認することは出来ないが、それなりに似合っているのではないだろうか。
〔自身の姿を確認するため、魔法による鏡を生成する、姿見のスキルを獲得可能です。姿見のスキルを獲得しますか?〕
おお、そんなスキルまであるのか。
もちろん「はい」だ。
〔承認しました。姿見のスキル獲得。姿見は任意で呼び出す事が可能です〕
では、早速姿見を呼び出そう。
私は姿見と念じてみた。
すると目の前に、綺麗な装飾の施された姿見が現れた。
その姿見を覗き込むと、そこには、先ほどの魔王装備を身に纏った、美しい女性が立っていた。
「これが、私なのか?」
思わず声が漏れる。
姿見に写っている美人も、驚いた表情をしながら口を動かしているし、この美人は間違いなく自分だ。
いや、確かに転生中に美人になりたいって言ったけど、ここまで美人になるとは、正直思っていなかった。
それにしても、ここまで美人だと、アニメやゲームのポーズを、色々と試してみたくなる。
空腹も、動物やモンスターへの恐怖も忘れ、私はしばらくの間、姿見に向かって様々なポーズを試していた。