27 修行開始
私は今、キルナス迷宮と呼ばれるダンジョンに来ている。
実はここ、俗に言う隠しダンジョンだ。
どうして私が、こんな場所に来ているのか。
その理由を、どうか聞いてほしい。
私達が魔王城に帰った翌日、玉座の間に転送魔法陣が現れた。
その魔法陣から出て来たのは、エレヌスさんだった。
あれからエレヌスさんも色々と考えた結果、セラメリア復活に備えて、私自身も強くならなければと言う結論に至ったようだ。
そこでエレヌスさんは、私の修行に打ってつけの場所があると言った。
正直断りたかったけど、そんな猶予も与えてもらえなかった。
エレヌスさんは、私の体を転送魔法陣へ放り投げる。
そして気が付いたら、私はキルナス迷宮に来ていた。
《サキちゃん、聞こえるかの?》
エレヌスさんの声が響いてきた。
この老人はいきなり何をしやがるか!
《そう怒るでない。セラメリアちゃんの復活を阻止する為にも、仕方のない事なんじゃよ》
だったらせめて、ちゃんと説明してほしかった。
そもそも、私は修行をしたいとは一言も言ってない。
今すぐ魔王城に戻して。
《そう言いなさんな。魔王城へは、いつでも帰る事は出来るし、サキちゃんだって強くなりたいと思ったのじゃろう?》
思っただけ。
実際に強くなろうとしてたわけじゃないし。
《はいはい、分かった分かった。これから注意事項を言っていくから、聞き逃すでないぞ?》
何か……もう溜め息しか出ないわ。
分かった、もう諦めるよ。
《では、注意事項じゃ。その1、モンスターの平均LVは100。死なないようにな》
この時点で帰りたいと言うか帰してください。
《その2、もし死んでも、チェックポイントからやり直せるぞ》
死に戻りができるのね。
ゲームならありがたいけど、実際に死にたくない。
《その3、宝箱の回収は自由じゃが、あけた瞬間に食べられんよう注意じゃ》
モグモグ注意ね。
《その4、クリアするまでは、一日一回ダンジョンに入らないと、強制的にダンジョン送りじゃ》
毎日ログイン頑張ります。
《その5、ダンジョンからの脱出には、ダンジョンの壁に向かって鑑定を行えばよい》
今すぐ鑑定。
《するな。こんなところじゃが、何か質問はあるかの?》
何をすれば、このダンジョンはクリアになるの?
《最奥部に祀られている宝具を持ち帰れば、ダンジョンクリアじゃ。しかし、力任せでは攻略出来んぞ? 力も知恵も兼ね備えなければ、このダンジョンをクリアする事は出来ん》
頭も使わなきゃならないのか。
面倒くさそう。
《そう言うなて。ダンジョン攻略中は、堅物、カグラちゃん、アナスタシアちゃんの様子が分かるようにしておく。皆の修行状況が分かれば、サキちゃんもやる気を出すじゃろう》
どうかな?
ぶっちゃけ、今すぐ帰りたいよ?
《まあまあ。まずは、このダンジョンのモンスターに出会ってみなさい。それから決めても良いじゃろう》
……そこまで言うなら仕方がない。
でも、飽きたらやめるからね。
《……分かった。まずはモンスターに出会え。話はそれからにしよう。では、念話は切るからの》
モンスターか……。
まずは言われた通りにしてみよう。
どうするかはその後だ。
早速出会ったモンスター。
バレてないみたいだし、とりあえず鑑定。
〔LV:100〕
〔名前:ゲルバ〕
〔種族:リザードマン〕
〔HP:10000〕
〔MP:10000〕
〔SP:10000〕
〔攻撃力:9000〕
〔守備力:3000〕
〔魔力:5000〕
〔魔法耐性:3000〕
〔素早さ:3000〕
〔剛撃〕〔堅牢〕〔魔素探知〕〔魔力操作〕〔魔力精密操作〕〔再生〕〔濁流魔法5〕
どこからどう見てもリザードマン。
RPGの定番モンスターだ。
LVは100、HPは1万、攻撃力は9千だけど、その他のステータスやスキルはそれほどじゃないし、やろうと思えばやれる相手だ。
気になるのは、額にはめ込まれた大きな宝石。
こいつまさか、セラメリアの?
《サキちゃん、聞こえるかの? 言い忘れたが、そのダンジョンにはクロスブラッドしかおらん。それなりに強いから、簡単には倒せん筈じゃ》
わざわざこいつらが居る場所を選んだってことは、何か理由があるんだよね?
《流石サキちゃん、察しが良いな。クロスブラッドには、セラメリアちゃんの魔力が込められておる。普通に倒すと、その魔力はセラメリアちゃんに還元されてしまう。しかし、特殊な方法を用いると、その魔力を我が物に出来るのじゃ》
力の一部を吸収する感じかな?
その特殊な方法って?
《それは自分で考える事じゃ。それも、修行の一環じゃからな》
あ、そう。
まあ、適当に頑張るわ。
《では、首尾良く行く事を祈っておるぞ》
念話が切れた。
さて、向こうは私に気づいてないみたいだし、先制攻撃だ。
魔王のブーツがあるから、必ず先制攻撃だけどね。
リザードマンの弱点は何だっけ?
濁流魔法は水だから、弱点は雷系か?
と、考えるよりは行動。
リザードマンは今、向こうを向いている。
風音魔法の音消しでこっそり近付いて……背後からぶん殴る。
さすがに一撃では倒せなかったけど、それでも5千オーバーのダメージに驚いてる。
この世界のダメージ計算は本当に分からん。
さて、当然ながらリザードマンは振り返る。
私はリザードマンの顔を掴み、額の宝石を引き抜いた。
すると、リザードマンは悲鳴を上げながら倒れ、しばらくして動かなくなった。
魔素探知がなければ分からなかったけど、この宝石からは微量の魔素が流れ出ていた。
これが、セラメリアの魔力なんだろう。
有りがちと言えば有りがちだけどね。
これを吸収か……この宝石を砕くか?
でも、砕いたらセラメリアに還元されそうだし。
〔所持しているアイテムから魔素を吸収する為、魔素吸収のスキルを獲得可能です。獲得条件を満たしています。魔素吸収のスキルを獲得しますか?〕
獲得条件を満たしたって、これもセラメリアの影響かな?
せっかくだから使わせてもらうけど、何か納得いかないな。
〔魔素吸収のスキルを獲得しました。スキルを肉体に適用、最適化します〕
では早速。
〔所持アイテムから魔素を吸収。個体名:サキのステータスに反映されました〕
……実感はわかないね。
あとでステータスを確認しておこう。
《サキちゃん、聞こえるかの? ……うむ、どうやら無事に、魔力を吸収出来たようじゃな。もう少し時間が掛かるかと思っとったが、これならダンジョン攻略もサクサクじゃろう》
エレヌスさん、魔素吸収については教えてほしかったよ。
もし気づかずに倒しまくってたらどうすんの?
《その時はその時じゃろ。それに、サキちゃんは最初の一匹目から気付いた訳じゃし、結果オーライじゃ。では、もう念話は切るからな。この調子で頑張るのじゃぞ》
念話が切れた。
まったく、気楽なものだね。
お宝は好きにして良いって言ってたし、みんなが困るほど宝集めに励んだって良いってことだよね?
修行じゃなくて小遣い稼ぎだと考えれば、いくらか気は楽になるでしょ。
遠回りしまくって、お宝集めに勤しもうじゃないか。
そして今に至るわけだが、私の考えが甘かった。
最初のリザードマンが弱かっただけで、他のモンスターがすこぶる強い。
それに、宝石を取り外して倒すと経験値が入らない。
ダンジョン自体も、試練の遺跡か、それ以上に広そうだ。
これは本気で取り組まないと、攻略まで何年も掛かりそう。
前途多難と言うか、難多すぎ。
でも、クリアしないと一日一回は必ずダンジョン送りにされるから、クリアしないわけにはいかない。
……だったらやってやろうじゃない。
死に戻りが出来るんだし、ゲーム感覚で攻略してやろうじゃない。
全宝箱コンプしつつ、最短クリアを目指してやろうじゃない!
覚悟しろよキルナス迷宮!