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26 決意

 カグラとアナスタシア、そしてローブの老人を抱えたレイロフ君と共に、私はエレヌスさんの小屋に引き返した。

 ここからセラメリア王国までは、馬で2、3日掛かる。

 二人が気を失ってる状態で、そんな距離を帰ることはできない。

 エレヌスさんに聞かなきゃならない事もできたし、引き返した方が賢明だろう。



「なるほど、そんな事が」



 カグラとアナスタシアは、エレヌスさんが異空間魔法から取り出したベッドに寝かせて、私とレイロフ君はエレヌスさんに、サーペントとアナスタシオスの事を説明した。

 ローブの老人は、エレヌスさんが叩き起こした上で、小屋の外へ放り出してしまった。

 レイロフ君は心配してたけど、そんなヤワに育ててないから大丈夫だとエレヌスさんが言っていた。

 私も、あの老人を鑑定してしまったから大丈夫だというのは分かるけど、さすがに雑な扱いじゃなかろうか?



「やはり、儂の予言から外れる者が居るようだな。サキちゃんに然り、カグラちゃんに然り、そしてサーペントに然り」



 やっぱり、エレヌスさんは何かしらを知っている。

 だけど、どこまで知ってる?

 私としては、時期が来るまでは話したくないこともあるけど。



「そうか。おい、そこの堅物」

「……ん? お、俺ですか?」

「他に誰がおる? 少しの間、サキちゃんと二人で話をしたい。席を外してもらえないかな?」



 レイロフ君は私の方を見たけど、それは私からもお願いしたいことだ。

 これからエレヌスさんと話すことは、レイロフ君にはまだ聞かせられないからね。

 レイロフ君は渋々といった様子で、小屋から出て行った。



「さて、念話を使った方が良いかな?」



 できれば。



《どうじゃ? 聞こえるか?》


 バッチリ。


《よし。では、何から話そうか?》


 まず、エレヌスさんはどこまで知ってるの?


《全て。と、言いたいところじゃが、予言は万能ではないからの》


 それじゃあまず、私が何なのかは知ってる?


《今代の魔王。しかしその魂は、この世界のものではないな。異世界からの転生者といったところかの?》


 正解。

 私は、地球と言う星に住んでいたの。

 ある日、何が原因かは分からないけど、私は突然死んでしまった。

 そして、前世の記憶を持って、この世界に転生した。


《そうか。この世界の魂ではないから、予言をする事が出来なかった訳じゃな》


 それからカグラ。

 これは私の推測だけど、カグラも私と同じように、地球に住んでる。

 よくある言い方をすると、転移者。

 おそらく、魂だけ転移してるんだと思う。


 もう一つ、サーペントについて。

 あいつも、地球からの転移者か、転生者だと思う。

 この世界の言語じゃなく、地球の言語でサーペントって名乗ったから。


《サキちゃんの考えは当たっておる。カグラちゃんは転移者じゃ。そして、サーペントもな》


 やっぱり。

 でも、この事はレイロフ君にもアナスタシアにも、そしてカグラ自身にも伝えないでほしい。

 カグラはおそらく、私の事を転移者だと思ってる。

 でも、私は転生者。

 カグラには地球にも体があるけど、私にはないから。

 だから、私から直接伝えるまでは、この事は黙っててほしい。


《分かった、約束しよう》


 ありがとう。

 それから、もう一つ聞きたい。


《何かな?》


 サーペントとアナスタシオスの、今後の行動は予言できる?


《アナスタシオスだけなら予言も出来たじゃろうが、サーペントが行動を共にしておるからの。ある程度は分かるが、詳しいことまでは分からん。サーペントがこの場所を割り出すのも、予想外の出来事じゃからな》


 次の襲撃が分かれば良かったけど、それじゃあ仕方がないね。

 さて、これからどうしよう?


《二人が目を覚ますまで、ここに居ると良い。今は森を隠しておるし、結界も施してあるから大丈夫じゃろう》


 お言葉に甘えさせてもらおう。

 何から何まで、本当に感謝だわ。



 太陽が西に傾き始めた頃、アナスタシアが目を覚ました。



「魔王様、申し訳ありません。アナスタシオスの説得に失敗してしまいました」



 深々と頭を下げるアナスタシア。

 でも、アナスタシアが謝ることじゃない。

 敵になってしまったのは残念だけど、説得するチャンスは、まだあるだろうからね。


 アナスタシアには、レイロフ君が現状を簡潔に説明した。

 概ね理解したアナスタシアは、どこかやるせない表情をしていた。

 アナスタシオスの強さは相当だったようだし、何か思うところがあるのかもしれない。


 それからしばらくして、辺りには夜の帳が降りていた。

 カグラはまだ目覚めていない。

 さすがに心配になってきたけど、外傷もなければステータスにも異常はない。

 こればかりは、目を覚ますまで待つしかないね。


 と言うわけで、レイロフ君とエレヌスさんを小屋から追い出した。

 いや、レイロフ君もエレヌスさんも信頼してるよ?

 でも、美人が三人もいるわけだし、一人は気を失ってるし、万が一って事もあるかもしれないじゃない?

 だから、私とアナスタシアの二人で、カグラの介抱をしている。

 レイロフ君とエレヌスさんには悪いけど、これは仕方のないことなのだよ。



 翌日の早朝。

 ようやくカグラが目を覚ました。

 とりあえず念話を使うよう合図を出して、今までの状況を説明した。



「そうでしたか。やっぱり、魔王様はお強いですね。私はまだまだ……」



 いやいや、カグラも良くやってくれた。

 あいつが、サーペントが異常な強さだっただけ。

 あれは仕方がないことだったんだよ。

 と言っても、カグラは酷く落ち込んでいるようだ。

 でも実際、カグラもレイロフ君も良くやってくれたし、私なんかよりも働いてくれた。

 私は、美味しいところを持って行っただけだ。


 さて、カグラも目を覚ましたことだし、レイロフ君とエレヌスさんを呼んでこよう。

 一晩外で過ごすのは、さすがに酷だったかな?


 ……そんなことはなかった。

 エレヌスさんが異空間魔法から取り出した家具で、二人は快適な一晩を過ごしたようだ。

 何だろう、とても殴りたい。


 さて、カグラも復帰したことだし、今度こそエレヌスさんに別れを告げる。

 森の外に出ても、誰かが待ち構えていることもなかった。

 カグラが転移魔法陣を展開。

 ようやく、魔王城に帰ることができる。



 魔王城に到着した私は、玉座にもたれ掛かる。

 やっぱり自宅は良いものだ。

 一日ぶりの玉座の座り心地を堪能していると、玉座の間にノックの音が響いた。



「失礼します」



 やってきたのはレイロフ君だった。

 何やら真剣な面持ちだけど。



「この度の賊の件。騎士の私が居ながら、大変なご迷惑をお掛けしました」



 いや、倒せたし結果オーライだと思うよ?



「私は、あれからずっと考えていたのです。本来なら、魔王様をお守りするはずの私が、魔王様に守られてしまいました……」



 いやいや、そんなことはないよ?

 結局、私を毒から救ってくれたのも、サーペントを倒す為に働いてくれたのもレイロフ君だし。



「騎士としての務めを全うするため、これから数日程、自らを高めるために修行を行いたいのです」



 なるほど、それで私に直談判しにきたわけか。

 サーペント戦が相当ショックだったみたいだね。

 別に構わないけど、レイロフ君はカグラの専属騎士だ。

 修行の間、カグラはどうするの?



「全て、アナスタシア殿に許可を頂いての事です。後は、魔王様に許可を頂ければ」



 アナスタシアが許可しただと?

 俄には信じがたいけど……アナスタシアが許可したのなら、私は却下するつもりはない。



「ありがとうございます!」



 お、おう……声でけーな。

 サーペントの底知れない強さに、どこまで追いつくか分からない。

 でも、レイロフ君には期待してるよ。

 レイロフ君は深々と頭を下げて、玉座の間から退出した。


 さて、これからどうしようかと考える間もなく、再びノックの音が響いた。



「失礼します」



 やってきたのはカグラだった。



「魔王様、折り入ってお願いが御座います」



 改まっちゃって、どうしたんだろう?

 ……まさか?



「私は、今回の件で力不足を痛感いたしました。自身の力を高めるべく、数日の間、サクラノ王国への帰郷の許可を頂きたいのです」



 カグラもか。

 で、アナスタシアには許可を貰ってると?



「はい。アナスタシア様には既に許可を頂いております」



 だったら、止める理由はないね。

 修行、頑張ってくれたまえ。



「ありがとうございます!」



 あの戦いがみんなに与えた影響は、予想以上に大きかったようだ。

 かく言う私も、強くなりたいとか思っちゃったわけだし。

 カグラが退出すると、間髪入れずに再びノック。

 嫌な予感がする。



「魔王様、失礼します」



 やってきたのはアナスタシアだった。



「レイロフとカグラの事は、既にご存知かと思われます。そして、二人に許可を出していただいた事、感謝します」



 ああ、嫌な予感がするなー。



「そこで、ご相談がございます」



 ぶっちゃけ聞きたくないけど。



「私もアナスタシオスを止める為に、修行を行いたいのです」



 お前もかアナスタシア!



「もちろん、魔王様のお仕事に支障が出ないよう計らいます。なのでどうか、修行の許可を」



 いや、別に構わないけどさ?

 ショックだったのも分かるけどさ?



「ありがとうございます! 魔王様のご期待に添えられるよう頑張ります!」



 ……何だろう、この疎外感は。

 私だけ除け者にされてる気がしてならない。

 だったら私も修行しろって?

 いやいや、今までの行動力が不思議なくらい、今は動きたくないのだよ。

 忘れられてるだろうけど、私にはヒキニートのスキルがある。

 実は今回の外出だって、かなりの苦痛を伴っていたのだよ。

 でも、いつサーペントが動き出すか分からないし、セラメリアの復活も気がかりだし。

 本当にどうしたものだろうか。

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