#蛟3 レベル
昼休み。
私達はいつも通り、屋上でお昼ご飯を食べている。
「麻衣ちゃん、朝から変だよ? 何かあったの?」
いつも通りに過ごしていたはずが、やっぱり向こうの事を考えていた。
その心配が、どうやら顔に出ていたようだ。
しかし、凛華に何を言えようか。
向こうの事を話しても、ただの夢だと笑われるだけだろう。
「別に、何もないよ」
「麻衣ちゃん、私達は長い付き合いでしょ? 隠したって分かるんだから」
確かに、私と凛華は小学校からの付き合いだ。
だからこそ、この事については話せるはずがない。
……でも。
「凛ちゃんに、アドバイスを貰いたい」
「……え?」
凛華はキョトンとしている。
そんなに変な事を言っただろうか?
確かに、凛華に何かを聞いたりする事は無かったけど、こんな反応をされるとも思っていなかった。
「……まあいいや。アドバイスって、何を聞きたいの?」
「ヒーラーの立ち回り」
「それこそ、麻衣ちゃんの専門でしょ? ブレアクのチーム戦ではよくやってくれてるし、私からアドバイスする事はもう無いと思うよ?」
私はブレアク内でも、カグラと同じくサポート特化のヒーラーを育てている。
そして、ヒーラーの師匠は凛華だったりする。
だからこそ、私は凛華に聞きたかった。
ヒーラーが回復特化にならず、仲間を守るにはどう立ち回れば良いのかを。
「ほら、私達は今まで咲さんに守られてきたでしょ? 正直、咲さんに甘えていた部分もあったと思う」
「それはそうだけど」
「だから私は、みんなを守れるヒーラーになりたいの」
「……なるほど、昨日のチーム戦が原因か。だから、朝から機嫌が悪かったんだね」
そうではないが、そう言う事にしておこう。
昨夜のチーム戦が酷かった事も事実だし、師匠の言葉を賜りたい。
「麻衣ちゃん。レベル差を埋める事って、出来ると思う?」
「出来る。今までだってレベル差は覆してきたし」
真剣に答える私に、凛華は両手を交差させて×を作り、間違いなくおちょくっている表情を作った。
もう一度小突いてやろうか?
「だから麻衣ちゃんは駄目なんだよ」
「何が駄目なの?」
「テクニックで覆るのは、ステータスとスキルだけ。レベル差は埋められない。昨日戦ったのは、高レベル帯の猛者達。必然的に、テクニックも相当なものだって事になる」
そんな猛者に挑もうとしているのは凛華だけだが、今は大人しく聞いていよう。
「全てが全て、そうだとは言い切れないけど、レベルの差はテクニックの差。1や2程度の差なら埋められるけど、10離れたらかなり厳しくなるよね」
「でも、昨日は勝算があったから、高レベル帯に挑んだんでしょ?」
猛者に喧嘩を売る凛華でも、勝算の無い戦いはしない。
必ずどこかに、勝てるという根拠があるからこそ、猛者と戦っている。
そして、ギリギリの状態でも勝ってしまう。
凛華とは、そう言う女だ。
「もちろん、勝算はあった。だから麻衣ちゃんに、周りを見るように言ったんだよ」
「私は言われた通りに」
「出来てない」
こちらが言い終わる前に否定されてしまった。
そこまではっきり言われると、自信を無くしそうになる。
「確かに、前半はよく周りを見てたね。でも、後半は回復に専念しすぎてた。だから、バフの効果時間の切れ目を狙われて、前衛がやられた。バフの重ね掛けをしておけば、前衛は耐えられたはずだよね?」
凛華の言う通りだ。
あの時、レイロフさんに掛けた堅牢や疾風は、既に効果が切れていた。
回復に専念しすぎ、バフ効果が切れた事に気付いていなかった。
「前衛がバフ無しで一撃だったから、麻衣ちゃんはバフ掛けても一撃だったってわけ」
これも、カグラに当てはまる。
回復役が真っ先に狙われるのは必然だ。
紙のような守備力に、高レベルの一撃が耐えられるはずがない。
「回復役がやられた時点で、敗北はほぼ確定。だから昨日は、あれだけグダグダになったってわけ」
凛華の正論に、私は返す言葉が無かった
「レベルの差は埋められない。だったら、どうすれば良いと思う?」
「……こっちもレベルを上げる?」
「その通り。レベルの差はレベルでしか埋められない。だったら、レベルを上げれば良い。簡単な話でしょ?」
考えてみれば当たり前の事だ。
差を埋めるには、私自身が強くなれば良いだけの話だ。
「麻衣ちゃんは何気に極振りタイプだから、高いステータスにも対抗出来ると思い込んでる。それが、昨日みたいな相手だと、極振りでもダメージが通らなくなるし、相手の攻撃にも耐えられない。だからレベルを上げるの。高いステータスに対抗出来るからって、キャラが完成したと思ったら駄目なんだよ」
「……返す言葉もありません」
「よろしい。じゃあ、今夜はみんなでレベル上げをしようか」
それには賛成だ。
凛華のアドバイスは、やっぱり的確だった。
そして、昨夜の事も向こうの事も、実はかなり悔しかったりする。
私は、強くなりたい。
みんなを守るために、強くなりたい。
しかし、まずはカグラがどうなっているかだが、そんな私の心配をよそに、いつもの声が響いてきた。
《プログラムFAIRY起動。システムに接続。コードGOD起動。サポートa−001からf−098及びm−030からp−081起動。接続不良修復完了。個体名カグラ・ミヅチへの接続準備完了。個体名ミナヅキ マイの覚醒レベルが低下次第、個体名カグラ・ミヅチへ魂の転移を始動します》
良かった、カグラが死んでしまった訳ではなさそうだ。
カグラになっても、どんな状況になっているかは分からない。
でも、もし戦いが終わっているのなら、私は向こうでレベルを上げたい。
サポーターとして、みんなを守れるように。