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#A5 スキルを超える

 お兄様は、強くなる為のあらゆるスキルを獲得している。

 スキルを持たない私に、勝ち目はないかもしれない。

 それでも、私は魔王様の側近として、そして双子の妹として、お兄様を止めなければならない。



「ゆくぞ!」



 お兄様は、私の右側に回るように距離を詰めてきた。

 しかし、それはフェイント。

 私の間合いの、一歩外まで近付いたところで、上体を低く落として逆側へ回り込む。

 そしてレイピアをしならせて、私の脇腹を貫く。

 しかし、貫かれたのは服の一部のみ。

 寸前のところで、私はお兄様の攻撃を防いだ。


 この技は、お兄様の常勝テクニックだ。

 幼い頃から、幾度となく見てきた技。

 防ぐのは容易だ。

 どれだけお兄様が強くなっていたとしても、どこを攻撃するのかが分かっていれば、対処する事は出来る。

 だからこそ、どうしてこの技を使ったのか、疑問が残る。


 何のスキルも無い、とるに足らない存在だと、侮られているのだろうか?

 私相手なら、今まで見せてきた技で十分だと、手心を加えられているのだろうか?

 お兄様の真意は分からないが、もしそうだとしても、やはり全力を尽くさなければ、お兄様を止められない。



「ゆくぞ」



 お兄様が構えを見せた。

 やはり、私の知っている技で戦おうとしている。

 ならば私は、それに応えなければならないだろう。



 ……どれほどの間、私達は戦っていたのだろう?

 とても長い間、戦っていたような感覚だが、実際にはあまり経っていないのかもしれない。

 体感的にとても長く感じる程に、私は集中していた。

 最早、私の体力は限界だが、それはお兄様も同様だ。

 足元はふらつき、今にも倒れてしまいそうだ。


 次の攻撃で、終わる。

 負けられない。

 負けるわけにはいかない。

 その為には、スキルによる行動補正を、上回らなければならない。



 身体強化や剣術等のスキルは、その行動に補正が掛かる。

 そして、お兄様の獲得している全てのスキルは、最上位のスキルに進化している。

 その為、お兄様の行動には大幅な補正が掛かり、極めて精密な動きを可能としている。

 本来なら、私に勝ち目など無かっただろう。

 そんな私が、お兄様とここまで戦えている。

 手心を加えていたとしても、本気のお兄様とここまで戦える筈はなかった。

 本来なら。


 お兄様の攻撃は、スキルの恩恵を受けているため正確だ。

 狙えば必ず、寸分違わずその場所に当てる事が出来るだろう。

 つまり、当たれば確実に絶命、ないしは戦闘不能に出来る場所を、お兄様は狙っている。

 手数により相手を消耗させるより、急所を狙った方が確実であり、その一撃で事が済むからだ。

 だからこそ私は、お兄様の攻撃を防ぐ事が出来ている。


 お兄様の素早さは、私を上回っている。

 しかし、その動きを目で追えない程ではない。

 攻撃の初動と流れを見極めれば、どこを攻撃されるのか察する事が出来る。

 お兄様が手心を加えている事と、攻撃が正確過ぎるが故に、私はお兄様の攻撃に耐える事が出来ていた。



 しかし、この最後の攻撃だけは、今までの行動が通用しない。

 何故ならお兄様は、私が見た事のない構えを取っているからだ。

 どこを狙うのか、どんな行動なのか、どんな攻撃なのか、全く分からない。

 この攻撃を凌ぐ為に、私はお兄様の行動を、そのスキルを上回らなければならない。


 スキルを超える。

 そんな事が、私に出来るだろうか?

 ……いいや、超える。 超えてみせる。

 私には、スキル以外の魅力がある。 そう教えてくれたのは、他でもないアナスタシオスお兄様なのだから。


 お兄様は上体を、地面に接するほど低く落としながら、一直線に向かってきた。

 この体勢から、突きを放つとは思えない。

 ここまで上体を低く落としているのは、この攻撃が下からの切り上げだと、私に報せているのだろう。

 お兄様には、重撃のスキルがある。

 まともに受けることは出来ない。

 そうなれば私の選択肢は、横か後ろへの回避と言う二択となる。

 しかし、そのどちらを選んだところで、それはお兄様の読み通りだ。

 ならば、それ以外を見出すしかない。


 私は、お兄様に向かって走り出す。

 しかしそれは、お兄様を迎え撃つ為ではない。

 加速し、私の目前まで迫ってしまったお兄様には、切り上げると言う選択肢しかない。

 ならば私は、それを逆手に取る。


 切り上げを放つ瞬間、私はエストック地面に突き刺し、加速の勢いのまま、それを軸にして飛び上がる。

 レイピアの一撃はエストックの剣先を分断してしまったが、既に空中へ逃れた私にダメージはない。

 お兄様を飛び越えた私は、身を翻しながら着地。

 エストックの鞘をベルトから外し、振り向いたお兄様の鳩尾(みぞおち)を強く突いた。


 お兄様は苦悶の表情を浮かべて、その場に崩れ落ちた。

 私も、体力の限界だ。

 エストックを地面に突き刺し、杖代わりにでもしなければ、もう立っていられないほどだ。



「ナーシャ……強くなったな」



 お兄様は賞賛してくれているが、そんな事は無い。

 私は結局、守られてしまったのだから。



「……最後、私の一撃を、お兄様なら避けられた筈です」

「私は、ナーシャの成長を見たかっただけだ。……この様な再会は、望んでいなかったがな」



 私だってそうだ。

 こんな再会は望んでいないし、お兄様と戦う事だって。



「お兄様、お願いです。セラメリア王国にお戻りください」

「それは出来ない。私には、やらなければならない……事が……」



 お兄様は気を失ってしまった。

 その後、サーペントと呼ばれる賊が、お兄様を連れて去ってしまったようだが、この時既に、私の意識は無かった。


 お兄様はまだ、あの野望を抱いているのだろうか?

 そして何故、あの様な賊と行動を共にしているのだろうか?

 もし、また襲撃されたら、私はお兄様に勝てるのだろうか?

 お兄様を止められるだろうか?

 ……強くなりたい。

 私は……強くなりたい。

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