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#A4 対立

 お兄様が国外追放されてから、五年の月日が流れた。

 その間、お兄様からの連絡は一切無かった。

 お兄様がどこへ行ったのかも、私にだけは知らされていなかった。

 お兄様と私が共謀しないようにとの措置なのだろうが、私達は血を分けた兄妹だ。

 せめて、お兄様の安否だけは教えてほしかった。

 お兄様の事を考えるあまり、私は側近としての仕事が疎かになってしまったようだ。

 その事を、まだ御健在だった先代の魔王様に指摘されてしまった。



「アナスタシアよ。近頃、考え事が過ぎるのではないか?」

「そんな事はありません。私は大丈夫です」



 そう言ってはみるも、やはり魔王様の仰る通りだ。

 私は、魔王様の側近だ。

 公私を分けなければ、魔王様にご迷惑を掛けてしまう。

 しかし私は、皆が思っているほど強くない。

 今、この場で魔王様のお手伝いをさせて頂いている間も、この重圧に押し潰されてしまいそうなのだ。


 私は……弱い。

 スキルを持たぬ私は、お兄様が居なければ何も出来ない。

 お兄様が居てくれたらと、幾度となく考えたものだ。

 側近の任に就いて五年が経っても、私は弱いままだった。



「失礼します」



 玉座の間にやってきたのは、ドラン公だった。

 手には一枚の書類

 ああ。 ついに、この日が来てしまったのか。

 追放から五年、お兄様の処分が決まる日だ。



「魔王様、こちらにサインを」



 ドラン公の表情は、あの時と同じ、やるせない表情だ。

 この様な結果になってしまった事に対して、負い目を感じているのか。

 それとも、貴重な人材を失うことによる、憂いなのだろうか。

 その表情が指す意図は、私には分からなかった。


 魔王様は、ドラン公から手渡された書類に目を通している。

 そして、テーブルに書類を置き、羽ペンにインクをつけたところで、魔王様の手が止まった。



「アナスタシアよ」

「は、はい」

「我々の判断は、間違っていたのだろうか?」



 魔王様はずっと、お兄様の事について気に病んでおられたのかもしれない。

 だから私に、こんな質問をされたのだろう。

 しかし私には、何が間違っていたのかなんて、分かる筈がない。



「……この件については、発言を致しかねます」

「そうか……」



 魔王様は小さく溜め息をつくと、羽ペンを置き、書類を私に突きつけた。



「身内の処遇は、お前に任せる」

「い、いけません! それでは、民や貴族達に示しが!」

「これは、魔王命令だ」



 魔王命令。 それは、セラメリア王国における最高権限だ。

 こうでもしなければ、私が書類を受け取らないだろうとお考えの事だろう。

 その命令は絶対であり、逆らう事など、出来はしないのだ。

 ドラン公は渋々、しかし最高権限の発動により、この件を私に預ける事に同意した。



「すまないが、今日はもう休ませてもらうぞ」



 魔王様は寝室へと戻られた。

 それを見送ったドラン公も帰ってしまった。

 残された私は、書類やテーブルの片付けを済ませて、自分の部屋へと戻った。


 戻った私は、渡された書類に目を通した。

 そこには、お兄様の罪状と、その所在と思しき場所が記されていた。

 どうやら、お兄様は追放された後、各地を転々としているようだ。

 その詳しい所在は分からず、大まかな場所のみが記されていた。


 そして、最後の数行。



 上記罪状を以て、アナスタシオス・レイクロフトを国外追放から永久追放とする。



 これにサインをしてしまえば、お兄様は二度と、この国に帰ることが出来なくなる。

 しかしサインをしなければ、お兄様の罪は不問となるが、お兄様が考えを改めているかは分からないまま。

 どうすれば良いのか分からなかった。



 数日後、魔王様が亡くなられた。

 魔王様の御葬儀や、各国への書状の作成、混乱の収集及び摂政としての政務。

 そして、次期魔王様の捜索。

 目まぐるしく過ぎ去っていく年月に、私は答えを出せずにいた。



 そして今日、この場でお兄様と対峙してなお、私の答えは出ていない。

 出来ることなら、お兄様には戻ってきてほしい。

 しかし、それは叶わない。

 私は、魔王様の側近だ。

 その責務は、果たさなければならない。



「アナスタシオス・レイクロフト。魔王様襲撃の共犯者として、貴方を拘束します!」



 私はエストックを抜き、お兄様に向けた。

 お兄様の眼光は、本気だった。

 私を邪魔者と見なし、全力で排除しようとしている。

 それに私は、全力で応えなければならない。



「アナスタシア。お前がそのつもりなら、私は容赦しない」



 戦いたくない。

 しかし、やらなければ、こちらがやられる。

 お兄様を止められるのは、私だけだから。

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