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25 戦いの終わり

 サーペントが吐き出したそれは、紫色の液体だった。

 それ、明らかに毒だよね?

 信じられないことに、サーペントはその、明らかに毒物であろう液体を頭から被ったのだ。

 何を考えてるんだこいつは。

 そんなダメージで毒なんか浴びたらどうなるか。


 しかし、いったいどうしたことだろう。

 毒を浴びたサーペントの体が、みるみる回復していく。

 毒で回復とか、もう変人や狂人の域ではないと思う。



「ああ、やっぱり傷跡が残ったか」



 サーペントを貫いた傷だけは、完全には塞がらなかったようだ。

 しかし、その他の傷は全て塞がってしまった。

 あれだけ頑張ったのに、謎の超回復で全てが無駄になってしまった。

 私達に、こいつをもう一度倒せるだけの力は残っていない。

 正直、心が折れそうだ。



「……安心しな、もう戦うつもりは無ぇからよ」



 マジ?

 それなら安心だが、こいつは下種野郎だからな。

 その言葉を信じて良いものか。



「それに、魔王さんがオレと同類だって分かったからな。今は手を出さねえよ」



 あんたと同類とか、本当にやめてほしいんだけど。



「それにしてもだ」



 サーペントは爪甲を外すと、ベルトの部分に引っ掛けた。

 なるほど、そうやって仕舞うのか。

 いや、そこは置いておこう。

 サーペントはレイロフ君を睨みつけている。



「まさか、システムに支配されてる人間に後れをとるとはな。システムも馬鹿に出来ねえか」



 こいつ、システムのことを知ってるのか?

 システムについては、私には分からないことだらけだ。

 鑑定しようにも、権限LVなるものが不足してるから知ることができないし。

 こいつの謎は深まるばかりだ。



「さて、クライアントもやられちまったし、ここは退かせてもらうぜ」



 クライアントって、アナスタシアのお兄さんのことか。

 私はアナスタシアの方へ視線を移す。


 アナスタシアは、エストックを杖代わりにして、肩で息をしている。

 アナスタシアの前には、うつ伏せに倒れるお兄さん。

 説得は無理だったのか。


 サーペントはお兄さんを脇に抱えると、懐から小さな笛を取り出した。

 サーペントは息を吸い込み、その笛を思い切り吹いた。

 しかしその音は、私達の耳には聞こえない。

 犬笛か何かだろうか?


 するとサーペントの側に、見覚えのある狼が現れた。

 それは、額に赤い宝石のついた狼だった。

 そう、あの時私を襲撃した、狼のリーダーだ。

 あいつ、サーペントのペットだったのか?

 サーペントはお兄さんを狼の背中に乗せ、もう一度犬笛を吹いた。

 すると、狼はお兄さんを乗せたまま、もの凄い速さで走り去ってしまった。



「魔王さんよ。あんたが魔王である限り、オレ達は何度でもお前の前に現れてやるからな」



 そう言い残して、サーペントもその場から姿を消した。

 私は緊張が解け、再び座り込む。

 いやはや、世の中は広いと痛感させられる。

 試練の魔物を軽々と倒した私が、全く歯が立たない相手。

 そんな奴が存在していて、私のことを狙っている。

 ……どうしよう、もっと強くなりたいとか思ってる自分が居る。

 しかし、次に襲われたら、勝てるかどうかは分からない。

 さて、どうしたものだろう?



「魔王様、こちらへ!」



 レイロフ君が呼んでる。

 声の方を見てみると、アナスタシアが倒れていた。

 少しは休ませてほしいけど、アナスタシアのことは心配だ。

 私はフラフラと立ち上がり、アナスタシアの方へ向かった。



 アナスタシアに外傷はなかったが、酷く疲労しているようだ。

 治療魔法とは外傷の治療のみで、体力の回復はできないのだよ。

 試しにアナスタシアを鑑定してみる。



〔LV:28〕

〔種族:魔族〕

〔名前:アナスタシア・レイクロフト〕

〔HP:1250/1500〕

〔MP:200/200〕

〔SP:4/1300〕

〔攻撃力:870〕

〔守備力:840〕

〔魔力:120〕

〔魔法耐性:300〕

〔素早さ:760〕

〔スキル無し〕



 HPは大丈夫だろう。

 代わりに、SPはほぼ0だけど、こっちは寝れば回復するから大丈夫。

 レイロフ君は凄く心配してるみたいだけど、しばらく休ませれば目を覚ますだろうから安心したまえ。


 さて、次は気を失ったままのカグラだ。

 治療魔法と治癒魔法をかけておいたから、こちらもしばらくすれば目を覚ますだろう。

 念のため、カグラにも鑑定を使っておこう。

 ……うむ、HPは全快だね。

 しかし、MPの残量はほぼ0だ。

 MPも寝れば回復するし、これも問題ない。

 問題があるとすれば、カグラを鑑定してしまったことだろう。



〔LV:15〕

〔種族:人族〕

〔名前:カグラ・ミヅチ〕

〔名前:ミナヅキ・マイ(水無月・麻衣)〕

〔HP:950/950〕

〔MP:3/2500〕

〔SP:450/450〕

〔攻撃力:250〕

〔守備力:320〕

〔魔力:1680〕

〔魔法耐性:1200〕

〔素早さ:650〕

〔予言〕〔念話〕〔魔力操作〕〔魔素探知〕〔魔力精密操作〕〔炎熱魔法8〕〔氷塊魔法7〕〔水冷魔法8〕〔緑風魔法9〕〔迅雷魔法6〕〔星天魔法5〕〔治療魔法8〕〔治癒魔法9〕〔再生魔法5〕〔補助魔法6〕〔ゲーマー〕〔優等生〕


〔ログアウト中〕



 カグラ、ごめん。

 私は、これを見なかったことには出来ないよ。

 気になる項目を鑑定。


〔ゲーマー:ユニークスキルのひとつ。ゲームプレイ中の反応速度が大幅に上昇する〕



 私は、これの複合スキルを持ってるから、予想通りかな。



〔優等生:ユニークスキルのひとつ。学校で学習する際の知識吸収量が上昇し、学校生活内での行動にプラス補正が掛かる〕



 うむ、そのままか。

 これに関してはノーコメント。

 次だ。



〔ログアウト:現在、その肉体にログインしていない状態を指す〕



 だろうね。

 これもノーコメント。

 ……最後だ。



〔ミナヅキ・マイ(水無月・麻衣):カグラ・ミヅチの地球での名称。カグラ・ミヅチは現在、シェイムラピアルよりログアウトしています〕



 何となく、そうなんだろうとは思っていた。

 カグラの家に泊まった時、色々と質問責めにされたことを思い出す。

 カグラは恐らく、私のオタクゲーマーのスキルを見て、自分と同じだろうと思っていたのだろう。

 でも、私はカグラとは違う。

 カグラは、こちらで生活をしている。

 そして地球でも、こちらと同様に生活をしている。

 つまり、カグラは転移者だ。

 これは私の推測だが、魂だけ転移しているのだろう。

 だから、向こう側とこちら側に、それぞれ肉体を持っている。

 そう言うことなんだろう。

 そして、私のことも転移者だと思っていた。

 そう言うことなんだろう。

 しかし、それは間違っている。

 私は転生者だ。

 向こう側の私は、既に死んでいる。

 カグラとは……違う。

 私はこの世界で生を受け、この世界で生きていかなければならない。

 カグラとは違う。



 ……やめよう。

 こんなことを考えたって、仕方がないじゃないか。

 私は私、カグラはカグラだ。

 そう、たとえ私がカグラの何を知ろうと、私が何も言わなければ済む話じゃないか。

 このことを忘れることはできない。

 それでも、心の奥底に仕舞い込むことはできる。

 そうすれば私達は、今まで通りの友達でいられるのだから。


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