24 VS蛇4
サーペントは、倒れたままの体勢で起き上がった。
いちいち気持ち悪いなこいつは。
そして、背中から貫いている剣を無理やり引き抜く。
当然、傷口から血が噴き出すが、それもすぐに収まった。
こいつの体は謎だらけだ。
引き抜いた剣を投げつけてくるかと思いきや、レイロフ君の足下に放り投げるだけだった。
「やれやれ、風穴が空いちまったぜ。だが、これで仕切り直しだ」
サーペントが低く構えた。
「そこの騎士だけは、オレが直々に壊してやる。覚悟しろよ」
ドスの利いた声で脅してくるが、サーペントのダメージは明らかだ。
先ほどのような素早い動きはできないだろう。
「レイロフ君、頼みがある」
この緊張感からか、私の口は自然と動いていた。
「頼み……ですか?」
「何とかして、サーペントの動きを封じてほしい。そうすれば、私の魔法でサーペントを倒せるから」
「分かりました」
「ただし」
レイロフ君には、絶対に守ってもらいたいことがある。
「私のために命をかけてはいけない。絶対に、全員が生き残る。生きて魔王城に帰る。これは、絶対厳守の魔王命令よ」
レイロフ君は小さく頷いた。
これでレイロフ君も無茶はしないでしょ。
変なフラグが立った気がするけど、そんなものは全部へし折ってやるさ。
レイロフ君は剣を拾い、サーペントに斬り掛かった。
サーペントはそれを爪甲で防いでいるが、先ほどまでの素早い動きは見られない。
私は、レイロフ君に治療魔法と治癒魔法を使ってサポート。
サーペントにダメージは与えられないが、それでも確実に体力だけは奪えている。
しかし、行動を封じるだけの決定打にはならない。
そこでレイロフ君は、恐らく切り札であろう技を発動させた。
「炎熱剣技、猛火連斬!」
炎をまとった剣による連撃。
まるで勇者が使う技のようで、なかなか格好良い。
しかし、やはりというか、サーペントはその連撃を防ぎきってしまった。
どうやらレイロフ君は、戦闘に関しては天才なのかもしれない。
私が動きを止めてくれと言ったことを、忠実に守ろうとした。
その結果、この必殺技ですら、レイロフ君にとっては目くらましに過ぎなかったようだ。
レイロフ君は連撃の最後の一撃を、わざと外した。
そして、剣の遠心力を利用し、サーペントの傷口に回し蹴りを放つ。
さすがのサーペントも、顔を歪めて傷口を押さえる。
サーペントに隙が生まれた。
その一瞬を見逃さず、レイロフ君はサーペントの足に剣を突き立てた。
「重力剣技、グラビティソード!」
重力属性を付加する技。
これにより、突き立てた剣には数倍の重力がかかる。
いくらサーペントの攻撃力を持ってしても、重力属性が付加した剣を引き抜くのは、容易なことではない。
「魔王様、今です!」
レイロフ君はその場から大きく離れた。
まったく、素晴らしい働きだよレイロフ君。
君のおかげで、このキモイ野郎を倒すことができる。
私は、今まで構成してきた魔法を発動させた。
すると、私達の上空に巨大な穴が空いた。
これは、星海と地上を繋ぐ穴だ。
穴の先には、無数の星々が瞬いている。
その穴から、大小様々な隕石が無数に降り注いだ。
「星天魔法、流星群」
流星群は、固定ダメージの隕石を降らせる魔法だ。
使った者の魔力によって、降らせることのできる隕石の数が変化する。
私の魔力で使えば、これだけの隕石を振らせることができるのだ。
そして、それが全て直撃した。
……さすがに倒しただろう。
と言うか、もう起き上がらないでくれ。
〔経験値を獲得しました〕
〔魔王:サキはLV20からLV25に上がりました〕
〔各種ステータスが上昇しました〕
いつもの声に、私は安堵からその場に座り込んだ。
倒せた。
私達は勝ったんだ。
しかし、こいつの経験値量も意味が分からない。
LVUPに必要な経験値量が最大の私が、20から25まで上がった。
普通の人なら、一気に10くらい上がってるんじゃなかろうか?
……さて、サーペントはどうなったかな?
倒したイコール死んだってことかな?
普通はそうかもしれないけど、イベントバトルでは倒しても死んでなかったりするし。
「おいおい、まさかオレを倒すなんてな」
生きてたよ。
しかも普通に喋ってるし。
さすがにダメージは大きかったようだが、経験値を獲得したってことは、戦う意思はないってことだよね?
「お前たちを甘く見ていたようだな」
サーペントはフラフラと立ち上がった。
そして、サーペントの腹が再び膨れ上がる。
また蛇?
もう勘弁してほしい。
そんなことを考えていると、サーペントは蛇ではない別のものを、上に向かって吐き出した。