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23 VS蛇3

 それは体長1メートルほどの、赤と黄色のまだら模様が特徴的な蛇だった。

 こいつはよりによって、その蛇を数十匹は吐き出しやがったのだ。

 気絶してた方がマシだった。

 こんな光景、見たくない。

 レイロフ君もカグラも、顔を背けてる。

 当たり前だ。

 常人なら、こんな光景を直視できるはずがない。



「さあ蛇共。思う存分、毒牙を打ち込んでやれ!」



 蛇はその体をくねらせながら、私達へ向かってきた。

 キモイキモイキモイキモイ!

 赤と黄色のまだら模様が、嫌悪感を増大させている。


 でも、所詮は蛇だ。

 私は炎熱魔法、火炎陣を発動させた。

 火炎陣は自分の周りに、円形の炎の壁を作り出す魔法だ。

 これなら、蛇も近寄れないはず。

 視界が炎で覆われるのが難点だけどね。


 案の定、蛇は近寄ってこなかった。

 蛇に関してはレイロフ君が何とかしてるし、そこは任せよう。

 サーペントも蛇に任せてるから近寄ってこないし、とりあえずレイロフ君、蛇の駆逐頑張れ。


 レイロフ君が蛇を駆逐すると、サーペントに動きが見られた。

 爪甲を擦り合わせ、低く体勢をとる。

 サーペントが、明らかな“構え”を見せた。

 ここからは本気ってことかな?



「一撃だと面白くねぇからな。しっかりと耐えてくれよ?」



 言い終わるのが先か、サーペントは姿を消した。



「ぐあっ!」



 次の瞬間、レイロフ君の体が吹き飛び、木に直撃した。

 こいつ、私の素早さを上回ってるのか?

 全く反応ができなかった。

 そしてマズい。

 サーペントはカグラのすぐ後ろにいる。

 カグラは気付いていない。

 今から間に合うか?



「きゃあ!」



 間に合うことには間に合った氷晶壁。

 しかし、サーペントの爪甲は氷晶壁を破り、カグラを吹き飛ばす。

 爪甲で引き裂かれたわけではなく、殴り飛ばされたようだが、念のために治療魔法、治癒魔法、再生魔法を総動員させて、カグラの回復に専念する。

 それと同時に、宙に浮いたカグラの体が地面に激突しないよう、私はカグラを受け止めた。


 その、無防備になる瞬間を狙われた。

 サーペントは私の背中を、爪甲で切り裂いたのだ。

 痛みよりも先に、私はカグラを抱えたまま、サーペントから距離をとる。

 離れたところでカグラを下ろした私は、激痛に襲われた。

 切り裂かれた背中が焼けるように熱く、そして痛い。

 転生してから、傷を負ったのは初めてだ。

 背中を、生温かいものが伝っていく感覚。

 血が流れ出しているのだろう。

 私はその場に座り込んだ。

 痛い、痛い、痛い。

 これは……痛すぎる。

 背中から全身にかけて、激痛が走っていく。

 これは、サーペントの毒か?

 毒って、こんなに痛くて苦しいんだね。

 あまりの痛さに、涙が溢れそうになる。

 殴られた衝撃か、カグラは気を失ってるようだ。

 サポーターが気を失ってしまった。

 つまり、自分で治癒魔法を使わなければならないわけだが、あまりの痛みに魔力構成が上手くいかない。

 辛うじて流星群の魔力構成は解けなかったものの、このままではそれも意味がなくなってしまう。


 レイロフ君も、気を失ってるのかな?

 あれだけ激しく木に激突してたから、気を失っていなくてもすぐには動けないか。

 レイロフ君の方を確認したいけど、体にはもう力が入らない。

 レイロフ君の方を見ることすらできない。

 この一瞬で私達を戦闘不能にするなんて、私はこいつを甘く見ていたのかもね。

 何とかなるとか考えてたけど、それは大きな間違いだったか。

 私、このまま死ぬのかな?

 色々なことを考えていると、サーペントが私のすぐ近くまで来た。



「魔王さん、これはあいつの依頼だから、あんたに死なれる訳にはいかねぇんだ」



 するとサーペントは、懐から小さな瓶を取り出し、それを私の目の前で振って見せる。



「これが何だか分かるか? こいつはな、オレの毒に対する解毒剤だ。こいつを飲めば、お前は助かるってわけだ」



 だったら、さっさとそれを寄越しなさい。

 って言えるわけないけどさ。



「今すぐ飲みたいよな? 助かりたいよな? ……だが駄目だ」



 黒い笑みを浮かべてる。

 どうせ、ろくでもないことを言い出すんだろう。



「連れて行く時に暴れられても困るからな。お前が死ぬ寸前に飲ませてやるよ!」



 高笑いしてやがるよ、この下種野郎が。

 あ……目が霞んできた。

 もう、駄目なのかな?

 ……誰でも良い。 誰か……誰か助けて。





 私の祈りが届いたのだろうか?

 突如、一振りの剣が、サーペントを背後から貫いた。



「あ? ……な、なんだ、これ」



 サーペントは口から血を流しながら、体が大きくよろめいた。

 そしてサーペントは、力なく解毒剤の瓶を手放してしまう。

 ああ、終わった。 そう思った時だ。


 瓶が地面に落ちる寸前、それを見事にキャッチしたのは、レイロフ君だった。

 そしてレイロフ君は、よろめいているサーペント目掛けて回し蹴りを放った。

 サーペントの体が大きく仰け反り、背中から地面に倒れ込む。

 背中に刺さった剣に、サーペントの全体重が掛かかり、剣がさらに深く貫いた。



「魔王様、さあ解毒剤を!」



 レイロフ君に解毒剤を飲ませてもらう。

 ……効果はすぐに現れた。

 全身の痛みが消えていく。

 毒さえ消えればこちらのものだ。

 私は治療魔法を使って、背中の傷を癒やした。

 さすがにすぐには立ち上がれないが、それでも周りの状況を把握できるようになった。


 さて、何が起こったのか。

 まず、吹き飛ばされたレイロフ君は、気を失ってはいなかった。

 それでも、ダメージは大きかったために、すぐには動けなかった。

 そして、ようやく体が動かせるようになったのが、サーペントが私に解毒剤入りの瓶を見せびらかしている時だ。

 すぐに助けたかったレイロフ君だったが、ダメージを負った状態では明らかに不利。

 返り討ちにあうのがオチだ。

 そこでレイロフ君は、持っていた剣をサーペント目掛けて投げつけたのだ。


 ここで、この世界の守備力について説明しておこう。

 守備力とは、その名の通り身を守る力だ。

 それは、皮膚が硬質化したり、魔法等の恩恵による表面的な防衛力ではなく、防御行動をした際の防衛力のことを指している。

 つまり、いかにLVが上昇し、守備力が高くなったところで、不意を突かれたり防御していない状態で攻撃をされてしまえば、守備力など関係なく、その肉体にダメージが通ってしまうのだ。


 サーペントは、レイロフ君の攻撃を爪甲で受け止めていた。

 レイロフ君も、サーペントの攻撃を剣で防いでいた。

 つまり、互いの攻撃を、防御による守備力で防いでいたのだ。


 話を戻すと、サーペントは私に瓶を見せびらかしていた。

 つまり、完全に無防備な状態だった。

 そんな状態のサーペントは、普通の人間と変わらない。

 背後から剣が飛んできたら、為す術なく貫かれてしまうのは当然の結果なのだ。

 そうやって、レイロフ君は私を助けてくれた。

 それだけでなく、サーペントに一矢報いることもできた。

 これで死んでくれたら手放しで喜べる。

 しかし。



「ケ……ケッケッケ。おいおい……何て事をしやがる……」



 そう上手くはいかないか。

 それでも、戦況は覆った。

 もう一押し。

 私の方もようやく、準備が整った。

 もういつでも、流星群を発動できる。

 あとは、こいつの動きを止めるだけ。

 頼むから、これで終わりにしよう。

 もう誰にも、傷ついてほしくないから。

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