21 VS蛇1
レイロフ君とカグラ、そして私は、男と対峙している。
レイロフ君がアタッカー、カグラが回復中心のサポーター、私がオールラウンダーと考えれば、なかなかバランスの良いパーティだ。
「賊よ、名を聞いておこう」
相手を強敵だと感じ取ったレイロフ君は、騎士道精神に則り、相手に敬意を払っているようだ。
「んな事はどうでも良いだろ? ……まあ良い、冥土の土産に教えてやる」
冥土の土産なんて言葉、使う奴いるんだね。
「オレの名は『サーペント』だ。よーく覚えておきな」
それは明らかな違和感だった。
こいつはいま、間違いなく日本語で……じゃない、英語でサーペントと名乗った。
つまり、私の故郷である地球の言語だ。
こいつ、まさか。
「サーペントよ、騎士の名に於いて貴公を討たせていただく」
「かたっくるしい野郎だぜ。まあ、オレも遊び相手が欲しかったところだ。少しだけ遊んでやるよ!」
サーペントはナイフを投げつつ、横に走り出した。
爪甲を着けてる癖にナイフを投げるなんて、器用なことをしやがるね。
サーペントは左右に走りながら、ナイフを投げ続けている。
レイロフ君は飛んでくるナイフを、剣で切り落としている。
素早さで攪乱するつもりだろうけど、そのことを読んだレイロフ君はあえて動かずに、サーペントの動きを見切ろうとしている。
いくら素早く動いても、ナイフの軌道は直線だから対処は容易なんだろうね。
「なかなかやるじゃねぇか。だったら、こいつはどうかな?」
サーペントは、今度は後衛のカグラに向かってナイフを投げた。
まあ、そうくるわな。
レイロフ君は焦ったような表情をしてるけど、心配しなさんな。
カグラを傷付けることは、私が許さないからさ。
氷塊魔法、氷晶壁。
氷でできた壁を作り出す初級魔法だ。
一般的な術士が使う氷晶壁は、物理攻撃を防げるほど強度は高くない。
しかし、私ほどの魔力で使えばどうなるか。
案の定、サーペントの放ったナイフは氷晶壁に弾かれた。
こっちは大丈夫だから、レイロフ君はサーペントに集中。
「魔王様、ありがとうございます」
とは言ったものの、実力の差が明確になってきたね。
唯一張り合えているのは攻撃力だけ。
それ以外のステータスと戦闘技術は、圧倒的にサーペントが上だ。
レイロフ君ひとりに任せるのは無理かもね。
「補助魔法、剛撃、堅牢、疾風」
カグラが補助魔法でレイロフ君を強化してるけど、それでもサーペントに届くかどうか。
……うん、届かないね。
あんなに細い腕なのに、強化されたレイロフ君の攻撃に張り合ってる。
「化け物め!」
全く持ってその通りだ。
レイロフ君は、決して弱いわけではない。
でもそれ以上に、サーペントが強すぎる。
レイロフ君とカグラに任せていれば何とかなると思ってたけど、その見立ては甘かったようだ。
気は乗らないけど、私も介入しないと厳しいね。
と言うわけで、色々と準備だ。
こっちの準備が整うまで、何とか持ちこたえてね。
さて、準備をしている間に、アナスタシアの状況でも確認しよう。
……向こうは向こうで大変そうだ。
アナスタシアは、大型刺剣のエストック、対するお兄さんはレイピア。
どちらも刺剣だけど、剣速ではお兄さんが有利。
アナスタシアが翻弄されてるね。
アナスタシアに攻撃する意思がないとは言え、お兄さんの攻撃を躱すことに精一杯。
防戦一方だ。
アナスタシアは必死に説得を試みるも、お兄さんはそれに応えようとしない。
正直、アナスタシアはかなり不利な状況だけど、こちらから人員を割くことはできない。
そもそも、アナスタシアの方は家族問題だから、他人が口出しできる状況ではないんだけどね。
アナスタシア、なんとか頑張ってくれ。
サーペントとレイロフ君に視線を戻す。
いつの間にか、レイロフ君が防戦一方だ。
目を離していたのは数秒だけど、それだけでここまで戦況が変わるものか?
そう思うほどに、サーペントの猛攻は凄まじくなっている。
何の魔法も技も使わずに、これほどの動きができる。
それでもまだ、サーペントから見れば遊びなのだろう。
仕方がない、まずは動きを止めよう。
レイロフ君、合図をしたら大きく離れてね?
「ケッケッケ! 守ってばかりじゃ勝てねぇぜ?」
迅雷魔法、雷縛鎖。
電気の鎖で相手を拘束する魔法だ。
これで止まってくれれば良いんだけど、たぶん無理かな。
でも、一瞬とは言え猛攻は止まるはず。
「おいおい、良いところだってのに水を差すなよ」
よしよし、攻撃が途切れた。
今の内に、レイロフ君は体勢の立て直し。
カグラは治療魔法と治癒魔法全開で、レイロフ君を回復してあげて。
私の方は、レイロフ君を助けるために雷縛鎖を使っちゃったから、もう少しだけ時間がかかる。
でも、レイロフ君がやられる前には間に合わせないとね。
星天魔法、流星群を。