20 対峙
森の外。
2人の男がローブの老人と対峙していた。
ひとりは、以前魔王城を襲撃した、蛇のような男。
もうひとりは、魔王城襲撃を指示した貴族。
「どうやら、ここのようだな」
「ああ、予言者の隠れ家も出現している。間違いないだろう」
2人は森へ立ち入ろうとしているが、ローブの老人がそれを許さなかった。
「お前達を、ここから先へは行かせんぞ」
ローブの老人は呪文を唱え始めた。
「だってよ。どうする?」
「構わん、始末しろ」
「ケッケッケ、その言葉を待ってたぜ」
男はローブの老人目掛けて、ナイフを投げつけた。
ローブの老人はそれを易々と回避するが、男はその回避方向へ二本、三本とナイフを投げつける。
ローブの老人は回避をしているつもりだが、それは男がその方向へ回避するよう誘導していたのだ。
あまりにも正確な投擲に、ローブの老人は誘導されている事に気付く。
ローブの老人は呪文の詠唱を中断し、魔法矢をナイフに当てて相殺していく。
しかし、それすらも男の読み通りだったのだ。
魔法矢でナイフを撃ち落とす。
その為にはナイフを目視しなければならない。
ローブの老人の視線が、男からナイフへ移った瞬間を見計らい、男は一気に距離を詰めた。
「じいさん、余所見は良くないなぁ」
男の爪甲が、ローブの老人の体を貫いた。
男の爪甲には、劇毒が塗られている。
絶命は避けられないだろう。
「そんな事をさせると思いましたか?」
ローブの老人が貫かれた瞬間、治療魔法と治癒魔法、そして再生魔法を駆使して、カグラはローブの老人を助けたのだ。
そしてレイロフ君は、怯んだ男に連撃を与えている。
「な、なんだ!」
一撃もらった男だったが、その後の連撃は全て爪甲で防いでいる。
しかし間髪入れず、アナスタシアがレイロフの連撃の切れ目に合わせて、更に連撃を加えていく。
さすがに防ぎきれなくなった男は、ふたりから大きく離れて距離をとった。
うむ、なかなか格好良いではないか。
何と言うか、信頼しきったパートナーみたいな動きだね。
うん、何と言う疎外感だろうか。
「チッ! 何なんだよいったい!」
予想外の攻撃に悪態をつく男。
緑の短髪、黄色の蛇のような目、異様に長い舌、骨だけのような細長い手足、爪甲と呼ばれる武器。
アナスタシアの言っていた男の特徴と一致する。
なるほど、こいつが私を誘拐しようとした不届き者か。
今更ながら、爪甲と言う武器について説明しよう。
爪甲とは、一見手甲のようなものだが、指先の部分が鋭利な爪状になっている、近接特化型の武器だ。
うむ、なかなか格好良い武器だと私は思う。
さて、目の前に集中。
男の他に、貴族のような男性。
こいつ、顔がアナスタシアそっくりだ。
なるほど、こいつがアナスタシアの双子のお兄さん、アナスタシオス・レイクロフトだね。
「お兄様、何故!」
アナスタシアの問いかけに、お兄さんは腰に携えたレイピアを抜き、これが答えだと言わんばかりに剣先を突きつけた。
何か事情がありそうだね。
さて、どうしようか。
男はどうなっても良さそうだけど、お兄さんの方は説得したいところだね。
でも、お兄さんは話し合いに応じるつもりはなさそう。
とりあえず、お兄さんの方はアナスタシアに任せて、私達は男を何とかしよう。
横槍を入れられてもウザったいだけだからね。
思えば、転生してから対人戦は初めてか。
こいつは恐らく、レイロフ君より強い。
下手したらアナスタシアより強いかもね。
だったら、ステータス的にチート級の私が頑張るしかない。
頑張りたくはないが、事情が事情なだけに仕方がない。
私は風音魔法を使って、皆に指示を出す。
風音魔法の便利なところは、こういう局面で相手に悟られずに会話ができることだね。
音量を小さくして、発声位置を耳元にすれば容易いことさ。
指示を受けた3人は、小さく頷いた。
ちゃんと伝わったようだね。
さあ、ゲームで言うところのイベントバトルの開戦だ。