19 ノーネーム
さて、どうしようか?
まずはノーネームについて聞いてみようか。
「ノーネーム、これをよくぞ解読したものだ。これはいつか、セラメリアちゃんに対抗する者に真相を伝えるための書物じゃ」
そうだと思うけど、これだけだと分からないことだらけだ。
それに、どうしてノーネーム?
「ノーネームは成長する書物だからじゃ。儂がノーネームに記したのは、セラメリアちゃんが封印されたところまで。その後の行動は、ノーネームが自動的に記しているのじゃよ」
「いったい、どうやって?」
魔法に関してはエキスパートのカグラですら、やっぱりその方法は分からないのだろうね。
魔法素人の私達に、はたして理解できるかどうか。
「ノーネームには、セラメリアちゃんの魔力を覚えさせておる。魔力の変動から行動を把握し、本の内容を追加するように作ったのじゃ」
「そんな事が可能なのですか?」
「この時代の魔術師では、どうやっても無理じゃろうな」
うむ、さっぱり分からん。
でも、これって要するに、彼女の行動を自動的に書き記す書物ってことだよね?
それって単純に凄くね?
さらっと言ってるけど、かなり凄いことだよね?
「常に内容を追加していくから、ノーネームと名付けたのじゃ」
なるほどね。
それじゃあ次は、彼女の目的を知りたいところだけど。
「セラメリアちゃんの目的は復活を遂げる事。それ以外は分からん。セラメリアちゃんの行動は、儂の予言でも分からんのじゃ。だからこそ、ノーネームを作り出したんじゃがな」
うーん、手がかり無しか。
「手掛かりではないが、サキちゃんの身に起こっている事なら説明出来るぞ」
私に起こってること?
「サキちゃん、身に覚えのないスキルを獲得した事は無いかな?」
ああ、そのことか。
何となく想像できるけど、この予想が外れてることを願いたいね。
「セラメリアちゃんは、サキちゃんの体を使って復活をするつもりなのじゃ。身に覚えの無いスキルは、かつてセラメリアちゃんが持っていたスキル。サキちゃんに、何度か接触していたようじゃな。スキルの獲得は、その副作用じゃろう」
やっぱり、概ね予想通りか。
そうなんじゃないかとは思ってたんだよね。
でも、それを受け入れるつもりもない。
何とかならないかな?
「セラメリアちゃんの復活を阻止するには再封印をするか、セラメリアちゃん自身を倒すほか無い」
やっぱりそうなるか。
でも、再封印なんてできるの?
「あ、無理無理」
エレヌスさんは、手を振って諦めた表情をしてるけど、ノリが軽いな。
「もう、儂等ではどうしようもないんじゃ。セラメリアちゃんは封印されていながら、力を蓄え続けておる。おそらくは、魂の繋がりを持つ者達から集めた力なのじゃろう」
じゃあ、どれだけ強くなってるの?
「流石にそこまでは分からんな。少なくとも、今のサキちゃんより遥かに強いだろう」
このステータスを上回るのか。
考えたくないね。
「それから、アナスタシアちゃんに伝えなければならん事がある」
「何でしょう?」
「アナスタシアちゃんが送った、サキちゃんの捜索願。あれが、ロムルス国のある貴族に渡った。その貴族が、魔王城襲撃を指示したのじゃ」
「その貴族の名は?」
貴族の名前を聞いてから、アナスタシアの顔色が悪い。
そりゃそうだよね。
だって、アナスタシアの身内なんだから。
アナスタシオス・レイクロフト。
アナスタシアの、双子のお兄さんだ。
嫌な空気が流れる。
身内が敵って、考えたくないよね。
でも、まだ敵と決まったわけじゃない。
上手く説得できれば、戦いだって回避できるはずだ。
「誰だってそう考えるものじゃろうが、これは既に決められた事じゃ。戦いは回避出来ん」
生憎、私は良い占い結果しか信じないたちなの。
決められた運命とか予言とか、悪い結果は信じたくない。
「……なるほど。だからサキちゃんを魔王にしたのだろうな。あい分かった。儂も出来る限りの事はしよう」
そう言ってくれると助かるよ。
私達は、この小屋の座標が書かれた紙を渡された。
これさえあればカグラの転送魔法で、いつでもこの小屋に来れるそうだ。
でも、この森は魔法の制限があるらしく、ここでは転送魔法が使えないらしい。
仕方がないね。
私達はエレヌスさんに礼を言って、小屋をあとにした。