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18 予言者エレヌス

 予言者を探し出すまで数日掛かってしまった。

 正直、カグラが居なければ、彼を探し出すことはできなかっただろう。


 そこは、遥か東の地。

 かつて、初代の勇者と魔王が戦った地だ。

 その戦いの爪跡は、数千年経った今でも残っている。

 大地は荒れ果て、巨大なクレーターがそこかしこに見て取れ、戦いの激しさを物語っていた。

 人の住める場所ではないが、この場所には間違いなく、予言者が隠れ住んでいる。


 私に同行しているのは、アナスタシアとカグラ、そしてレイロフ君だ。

 他の騎士は連れてきていない。

 と言うのも、私がノーネームの内容を話したのが、この3人だからだ。

 あの本の内容は、他の者には教えられないからね。

 ベルンハルトお兄様には来てほしかったけど、彼には騎士団をまとめる仕事があるから仕方がないね。


 ちなみに、この場所まではカグラの転送魔法を使って来たから、時間は掛かってない。

 でも、予言者は隠れ住んでいるから、ここからは地道に探さなければならない。

 仕方がないことだけど、これだけ広いと探し出すのは一苦労だ。


 なんて考えていたら、手痛い歓迎を受けてしまった。

 私の体に突如、無属性魔法の魔法矢が直撃した。

 場所は心臓。

 ピンポイントで狙われたか。

 魔法耐性のおかげで、痛くも痒くもないけどね。

 アナスタシアもレイロフも、突然の襲撃に戦闘態勢に入った。

 カグラは私の体に異常が無いか確認をしている。

 確認するのは良いけどカグラさん、あんまりベタベタ触らないで貰えないかな?



「やれやれ。一撃かと思ったが、流石は魔王だな」



 私達の目の前に、赤いローブをまとった老人が現れた。

 手には魔法杖を持っている。

 さっきの魔法矢はこいつの仕業か。



「次は仕留める」



 老人は呪文を唱え始めた。

 そうはさせまいと、レイロフ君が斬り掛かるが、老人はレイロフ君の攻撃を華麗に躱している。

 魔法タイプなのに、なかなかやるじゃないか。

 レイロフ君の一撃を翳し、老人は私達から大きく距離を取った。



「魔王よ、この場で消え去れ」



 老人が杖を翳すと、空に暗雲が立ち込めた。

 ああ、これはヤバい魔法だわ。



「星天魔術、輝光の矢雨」



 暗雲から小さな光が、私達の逃げ場を無くすように周りに降り注ぐ。

 この魔術は、以前読んだ魔法書に書かれていたもので、かなり強力な魔術だ。

 この魔術の厄介なところは、耐性無視の固定ダメージ。

 つまり、私もダメージを負ってしまう。

 そして見ての通り、相手の逃げ道を無くすように降り注ぐため、回避も難しい。

 これは、本格的にマズいことになった。



「星天魔法、魔術反射」



 咄嗟にカグラが魔法を発動させる。

 すると、私達の頭上に大きな鏡が出現した。

 鏡に当たった光は反射し、降り注ぐ光を相殺していく。


 魔術反射。

 その名の通り、魔術を反射する魔法だ。

 魔法と魔術には明確な違いがある。

 魔法とは、魔力を練り固めて作り出すもの。

 魔術とは、特定の呪文を唱えることによって、魔法とは全く異なる奇跡を生み出すもの。

 本人の魔力に左右される魔法と違い、魔術の威力は固定だ。

 呪文を正確に唱えなければならないが、使いこなせれば魔法より強力だ。

 ゆえに、この老人は侮れない存在なのだ。

 だからこそ、ここに予言者が居る確信に繋がるわけだが。



「魔術反射か、なかなかやるではないか。しかし、次は無いぞ」



 老人はまたしても呪文を唱え始めた。

 いやいや、好戦的でやる気満々なのは良いんだけどさ、こっちにも事情があるんだわ。



「事情だと?」



 あれ? この老人、私の心を読んだのか?

 とりあえず、私達に戦う意思はないから、呪文を止めてもらえませんかね?



「ふん。そんな戯れ言に惑わされるとでも思っているのか、魔王セラメリアよ!」



 んん?

 この老人、何を勘違いしてる?



「待ってください!」



 カグラが、私達をかばうように前に出た。



「彼女は魔王ですが、初代の魔王セラメリアではありません!」

「その者の言う通りだ、武器を納めなさい」



 老人の背後から、青いローブを身にまとった老人が現れた。

 上役か?

 赤いローブの老人は、青いローブの老人にひざまずいている。



「まだまだ、鍛錬が足りぬようだな。この者は魔王サキだ。セラメリアではない」

「では、エレヌス様の予言の?」

「そうだ、セラメリアに対抗しうる可能性を秘めた者だ」



 それを聞いた赤いローブの老人は、私達の方を向いて土下座をした。

 何気に、転生してから初めて見る土下座だったりする。

 彼らには土下座文化があるのか。



「知らぬ事とは言え、大変な御無礼を……申し訳ありません」



 いやはや、見事な土下座だわ。

 とりあえず誤解は解けたようだし、青いローブの老人は事情を知ってるようだし、予言者について聞いてみようか、カグラが。


《私ですか!?》


 だって私は話せないし、不測の事態だから風音魔法にも登録してないからね。



「心配には及びません、我等は相手の心を読む術を心得ております。サキ殿の仰りたい事は把握できます」



 ありがたいような恥ずかしいような。

 まあいいか。

 まずは、予言者エレヌスについて聞きたい。 と言うか、彼に会いたいんだけど。



「分かっております。エレヌス様も、サキ殿に会う事を望まれております。さあ、こちらです」



 青いローブの老人は杖を取り出すと、それを掲げて呪文を唱えた。

 すると、目の前の景色が歪み、私達の前に森が現れた。

 なるほど、魔法で隠してたってことね。

 アナスタシアもレイロフ君も魔法の心得がないらしく、かなり驚いてる様子だ。

 私はカグラから、魔法については色々と聞いてたから、このくらいのことでは驚かないよ?

 驚いてる顔してるって? そんなことはないよ?



 荒野のなかに、ぽつんと森がある。

 なかなか不思議な光景だね。

 耳を澄ませば小鳥がさえずってるし、木の上ではリスのような小動物が、物珍しそうにこちらを見ている。

 豊かな森なんだね。

 私達は老人ふたりに案内されて、森の奥にある小さな小屋にたどり着いた。

 うん、それっぽい。


 小屋に入ると、そこには大釜。

 棚には薬草やら何やら。

 うん、それっぽい。

 奥には、黒に金装飾のローブをまとった老人が、椅子に座って本を読んでいる。



「エレヌス様、魔王サキ殿をお連れしました」



 青いローブの老人の言葉に、黒ローブの老人は、こちらを向かずに手を振って答えた。

 すると、ふたりの老人は一礼をして、小屋から出て行った。

 しばらくして本を閉じた老人は、こちらを見て一礼した。



「はじめまして、今代の魔王とお仲間の皆さん。(わし)が予言者エレヌスじゃ」



 やっと、目的の人物に会えた。

 会えたからには、色々と質問をしないと。



「聞きたい事は山ほどあるじゃろうが、まあまずは座りなさい」



 そう言ってエレヌスさんは、異空間魔法を使って椅子を用意してくれた。

 私達はそれぞれ腰をかける。

 さらには、お茶とお茶菓子まで出してもらった。

 さすが年輩者、客人のもてなし方を理解してるね。



「さて、よくぞ儂を捜し当てたな。今代の予言の巫女も、なかなかやりおるわい」

「いえ、そんな事は」



 カグラは謙遜してるけど、実際カグラが居なければここまで来られなかったし、もっと胸を張って良いと思うよ?



「お前たちの目的は分かっておる。儂が書いたノーネームと、セラメリアちゃんについて聞きたいのじゃろう?」



 さすがは予言者、話が早くて助かる。

 聞きたいことは山ほどあるんだけど……さて、何から聞こうか?

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