13 会議なう
はい、帰りたいです。
会議始まって早々ですが帰りたいです。
だって、こんな重苦しい雰囲気に耐えられるはずがない。
「わざわざ我等を呼んだのですから、それ相応の議題なのですよね?」
イケメンのアルベルトがアナスタシアに質問してるけど、相当イライラしてるみたいだね。
爵位持ちを魔王城に呼ぶことは、実は稀な出来事らしい。
彼らは外交面で頑張ってるから、火急の用でもない限りは、自分の領土から出ることもない。
当然と言えば当然か。
でも、今回は火急の用なのだよアルベルト。
「本日未明、魔王城に賊が侵入しました」
室内がどよめく。
そりゃあそうだろう。
「賊の狙いは魔王様でした。撃退こそ出来たものの、捕獲へは至っておりません」
「賊の侵入を許すとは、魔王城の騎士団も堕ちたものだな」
ライオスさん、あまり騎士団とアナスタシアをいじめないでくれないかな?
別に騎士団に不備があったわけでもないんだし。
「料理には睡眠毒を盛られ、全員が昏倒している隙を突かれました」
「では、宮廷料理人の仕業かな?」
ドランさん、目が怖いです。
そんな目で見ないでください。
「どうやら、宮廷料理人が料理を作り終えた段階で、彼らも何者かに襲われたようです。その後、料理に睡眠毒が混入したものと思われます」
「睡眠毒は、スリープシープのものだと判明しています。あまり出回らない毒のため、購入者の特定を急いでいます」
宮廷術士のリーダー、マリアさんだ。
他にも数名の宮廷術士が居るけど、その中にカグラの姿は見えない。
カグラはまだ下っ端だから仕方がないとは言え、少し残念な気持ちになる。
「ファルレイシア領内の捜索を続けていますが、未だに賊を発見出来ていません」
「恐らく既に、国外へ逃亡したものと思われます」
ベルンハルトお兄様は相変わらず棒読みだね。
武人って感じだし、貴族は肌に合わないのかも。
「賊の狙いが魔王様って言っていたが、魔王様の何が狙いだったんだ?」
ブラックオジサマの指摘はごもっともだ。
私の命を狙ったのなら、料理に劇毒でも入れれば良い。
でも、そうではなく私を誘拐しようとしていたらしい。
身の代金が目的か?
それとも別の?
「賊の狙いも定かではありません」
「分からない事だらけ。これでは対策のしようがありませんな」
胡麻擂り野郎ことゼミラニスの意見もごもっともだと思う。
分からない事に対して、何をどう対処すれば良いのやら。
「確かにその通りですが、魔王様が狙われたと言う事実がある以上、警備の厳重化と賊の確保は最重要課題として取り扱うべきです」
うん、アナスタシアの言い分も分かるんだけど。
「それは魔王城内で行えば良い事。我等の騎士団を割く余力も、ましてや調査のために人員を割く余裕も、我等には無いのだ」
そう、ライオスの言う通りなのだ。
彼らだって自分の身は守りたいだろうし、人員は外交面で手一杯だろう。
まあ、予想通りだね。
ライオスの正論に、アナスタシアは何も言えない始末だし。
仕方がない、助け船を出そう。
「皆、私の話を聞いてほしい」
うん、分かってた反応だ。
どよめくのは分かるけど、少し静かにしてほしい。
「私は、皆の言い分を理解しているつもり。だから私は、皆に協力を要請するつもりも、人員を割くよう頼むつもりもない」
「しかし魔王様」
「私は大丈夫。それに、爵位持ちの貴族達が一堂に会していたら、この国に住む魔族の人々は、きっとただ事ではないと思っているはず。人々を不安にさせないためにも、余計な混乱を引き起こさないためにも、あえて何もしない事が、今の最善策だと思う」
結局、最後に考えなきゃならないのは、国に住む人々なんだよね。
それに、私は騎士団のことも宮廷術士のことも、そしてアナスタシアのことも信頼してる。
だからこそ、私は今のままが良いのだ。
「また、今回のような襲撃が起こったら、どうされるおつもりですか? 魔王様の身に何かあったら、それこそ国民は不安を抱きます」
「そうさせないための騎士団でしょ? それに」
私は皆にも分かるように、濃く練り固めた魔力を会議室内に充満させた。
「そんな賊に、私が何をされるはずもないでしょ?」
会議室に緊張感が漂う。
あまり私の強さをひけらかしたくないが、こうでもしないと会議が終わらないでしょ。
「賊の狙いは私かもしれないけど、目的を遂行するために何をしでかすかも分からない。だから皆も、十分に注意をしてほしい」
皆はただうなずいている。
何も言えないように仕向けたのは私だけど、少し悪いことをしたかもね。
私は魔力を体内に戻した。
いつの間にか獲得していた魔力精密操作のスキルを、まさかこんな形で使うとは思わなかったけど。
でも、これで会議も終わりそうな雰囲気になったことだし、結果オーライだよね。
「それでは、他に案件が無ければ、今回の会議を終了したいと思います。宜しいでしょうか?」
貴族達は顔を見合わせてるけど、何もなかったのか皆無言でうなずいた。
やれやれ、やっと解放されるよ。
風音魔法に、あらかじめ台詞を登録しておいてよかった。
さて、私は私で調べ物をしないと。
お決まりのパターンが当てはまれば、賊の狙いが何なのかは想像つくからね。
ただ、私が調べたいものが図書館にあるとは考えにくいし、できれば書庫の立ち入りを許可してほしいところだ。
また風音魔法に登録しなきゃならないのか。
これは結構面倒なんだけど、文句も言っていられないね。