魔法講座1
惑星シェイムラピアル。
この星には、魔法が生きている。
魔法のもととなる『魔素』を、この星は生成している。
星の中枢で生成された魔素は地表に染み出し、そこに住む全ての生物に影響を与えていた。
ひとつは、生物の体内で魔素が生成されるようになった事。
魔素の肉体への影響はほぼ無いが、極めて高濃度になった場合、その生物は凶暴化する傾向にある。
それらはモンスターと呼ばれ、非力な人間達から恐れられる存在となった。
また、魔素濃度の高い環境で生まれた人間を魔族と呼び、人間達は自分達と異なる彼等を忌み嫌い虐げた。
高い魔素を体内に宿した魔族達は、その魔素を自在に操る術を見出す。
全ては、人間に反旗を翻すために。
これが、この星における魔法の始まりだ。
私は話半分に、魔法の成り立ちを聞いていた。
こんなもの、魔族なら誰もが知っている常識だ。
今更こんな事を聞いて、何になると言うのだろうか?
私は歴史を学びに来たのではなく、魔法を学びに来たのだから。
「魔法が使えるようになった魔族は、人間との戦争を始めました。当初こそ魔族軍は優勢でしたが、人間は魔族の使う魔法を見て研究をし、ついには人間も魔法を覚えてしまいました」
そこから人魔大戦の始まり。
これも常識だ。
「魔法を覚えた人間に、魔族は劣勢へと追い込まれました。そんな時、魔族の中から膨大な魔力を持つ者が生まれました。それこそが、初代魔王様です」
それだって魔族にとっては常識だし、今更復習をするまでもない。
それよりも私は、早く魔法の知識を得たい。
早く魔法を扱いたい。
熱い魔法をぶっ放したいのだ。
「レレ姉さん、聞いてますか?」
講義中のロロが不機嫌そうに聞いてくるが、不機嫌なのは私の方だ。
「あのさ、私は魔法を覚えたいの。歴史の復習なんてしたくないの」
「それは分かっています。しかし、これは魔法を覚える上で重要な事です」
「私を誰だと思ってるの? 歴史書は嫌ってほど読んでるから、魔法の成り立ちは理解してるわよ」
そう、私は幼少の頃から、姉さん達に憧れて本と言う本を読み漁って育ってきた。
だから、魔法の成り立ちも歴史も理解している。
「仕方がありませんね。それでは、実技に移りましょう」
その言葉を待っていた。
私はロロと一緒に、魔法訓練室へ向かった。
魔法訓練室は、魔法の研究や実験のために使われている部屋だ。
部屋の壁には魔法のコーティングが施されていて、最上級魔法や大魔法でもない限り、他の部屋に被害が行かないよう設計されている。
危険な魔法も多いから、当然の措置だろう。
「それではまず、魔素の流れを感じ取る為、魔素探知を使ってください。それが、魔法の第一歩ですから」
ロロに言われた通り、魔素探知のスキルを使用する。
すると、部屋の中に水色の、煙の帯の様なものを感じ取る事が出来た。
これが、地表に染み出しているシェイムラピアルの魔素だ。
「上手く出来たようですね。それでは次に、自分の中に流れる魔素を探知してください」
言われた通りにやってみる。
すると、自分の中に流れる緑色の魔素を感じ取る事が出来た。
自分に魔素探知を使うのは初めてだったから、上手く出来るか不安だった。
「姉さん、魔素の色は確認出来ましたか?」
「私の魔素は、緑色だね」
「はい、上出来です」
魔素は、人によって色が異なる。
その色を知る事は、自分の得意属性を知る事に繋がる。
私の魔素は緑色だったから、草や木、風の魔法が得意なのだろう。
「次です。今度は、その魔素をコントロールします。手のひらから、魔素がにじみ出るようなイメージをしてください」
手汗?
いや、何でもない。
魔素を手のひらから……こんな感じだろうか?
「上手く出来ましたね。体内を流れる魔素を体外へ放出すると、魔素が魔力に変換されます。魔力はイメージ次第で、自在に操る事が可能です」
魔素も魔力も目には見えないから、操るのは難しかったりする。
魔素探知は感覚的にしか分からないから、自在に操れる人は宮廷術士くらいのものだろう。
「因みに、魔力を操る事によって、遠くの物を触ったり掴む事も出来ます。こんな感じで」
ロロは魔法訓練室に有った木箱や樽を、魔力を操作して持ち上げて見せた。
「イメージとしては、長い腕ですね。魔力操作のスキルがあれば、もっと簡単に操れますよ」
とは言え、そんなスキルは持っていないし、そもそもスキルの解放条件が魔力を操作した回数だ。
面倒だが、こればっかりは仕方がない。
「ここから更に難しくなります」
そう言ってロロは、訓練室に備え付けられている黒板に、何やら図を書き始めた。
簡単に言うと。
人→火
こんな図だった。
「自分から少し離れた場所に、魔力の塊をイメージします。次に、イメージした魔力の塊に向かって、細い魔力の線を伸ばします。最後に、魔力の塊が火の玉になるイメージをします。これが魔法です。やってみてください」
本当に難しいな。
魔力の塊をイメージ、自分と魔力の塊を、細い魔力の線で繋いで、魔力の塊を火の玉に……。
すると、イメージした場所に火の玉が現れた。
「やはり、姉さんには素質がありますね。これが火炎魔法、火球の魔法です」
なるほど。
で、これはどうやって動かせば良いんだろうか?
細い魔力の線で引いてみる。
すると、魔力が切れてしまうイメージと共に、火球の魔法は消えてしまった。
「これ、動かせないんだけど?」
「火球は、その場に漂う火の玉を生み出す魔法です。これを動かすのも魔力ですが……これは次回までの課題としましょう」
時計の針は、午後4時を回っていた。
少し熱中し過ぎたようだ、司書の仕事に戻らなければならない。
「では、今日はここまで。レレ姉さん、お疲れ様でした」
「お疲れ。次はもっと分かり易く頼むよ?」
「これでも、かなり分かり易く説明した方ですよ?」
「何と言うか、ロロの教え方には優しさが足りないよね」
「大きなお世話です。それとも、他の姉さん達に教わりますか?」
それが出来ないからロロに頼んでいる。
ロロもそれを分かっているのに、わざとそう言う提案を出してくる。 困った妹だ。
とりあえず、ロロの機嫌を損ねるのは得策ではないため、一応謝っておく。
「それでは、次回までに火球のコントロールを出来るようにしてください」
「ああ、分かったよ」
しかし、とんでもない課題を出されたものだ。
どうすれば火球を動かせるのか。
さっぱり分からないぞ?
やれやれ、派手な大魔法を豪快にぶっ放す日は遠そうだ。
私は思案しながら、ロロと共に図書館へ戻った。