12 一夜明けて
目が覚めると、そこは寝室だった。
何だか、頭がボーっとしてる。
お酒を呑んだわけではないのに、軽い二日酔いのような感覚だ。
どうして私は寝室に居るんだろう?
辺りを見渡してみると、ソファーに座ってうたた寝をしているアナスタシアの姿があった。
なるほど、アナスタシアが寝室まで連れてきてくれたんだね。
昨夜の記憶がないけど、多分そう言うことだろう。
アナスタシアはまだ寝てるし、もう一眠りしちゃおうか。
「あ、魔王様。おはようございます」
アナスタシアが起きてしまった。
もう一眠りってわけにはいかないか。
そう言えば、アナスタシアが寝室まで連れてきてくれたんだろうけど、どうしてアナスタシアはこの部屋で寝てたんだろう?
「昨夜の事を、覚えておられないのですか?」
昨夜?
何かあったかな?
パーティーで楽しんではいたけど、私がアナスタシアに何か頼んだわけでもないし、パーティーの途中から記憶がないし、思い当たる節がない。
「……そうですか。では少し、昨夜の事をご説明します」
アナスタシアは昨夜の出来事を話してくれた。
料理に睡眠毒を盛られていたこと、賊が魔王城に侵入していたこと、私が賊を撃退したこと。
話し終えたアナスタシアは、私のことを不安の眼差しで見つめている。
アナスタシアの言いたいことは分かる。
私の様子がおかしかったから、私が本当に私なのか不安なのだろう。
しかし、私は私だ。
それに私は、そんな高度な魔法は使えない。
カグラのおかげで魔法を覚え、上級魔法まで理解している。
しかし、理解しているのと実際に使うのとでは大きな隔たりがある。
私が使える魔法は、せいぜい中級の魔法までだ。
それだけ、魔法と言うものは難しいのだ。
「だとしたら、あれはいったい何だったのでしょうか?」
寝ている間の出来事だから何とも言えないけど、少なくとも私は、獄炎魔法なんて最上級魔法は扱えない。
考えにくいことだが、アナスタシアの見間違いではないのだろうか?
アナスタシアは納得できなさそうだが、私だって納得できないさ。
でも、そうでもなければ、説明がつかないのも事実なんだよね。
「この件に関しては、賊の行方と共に調べた方が良いかもしれません」
そうだね。
私も、その賊のことは気になるし、調べてもらった方が良さそうだ。
「それでは、私は仕事に戻ります。厳戒態勢をしいていますが、くれぐれもお気をつけください。魔王様のお勤めも、今日はお休みしましょう」
アナスタシアは一礼すると、寝室から出て行った。
仕事なしか。
だったら今度こそ、もう一眠りしてしまおう。
私は布団に潜り込み、意識が落ちていくのを待った。
〔レジェンドスキル:魔王が行動:禊ぎによって更新されました。各種スキルの獲得条件が解除されました。行動:禊ぎが消失しました〕
〔……より、魔王:サキへアクセス。プログラム……よりアシスト。サーチ開始〕
〔魔王:サキに対してハッキングの形跡を発見。魔王:サキのデータを検査〕
〔ハッキングにより損傷したハードプロテクトを修復しました〕
うむ、よく寝た。
さて、今日は大人しくしてろってことだし、何をしようかな?
着替えをすませてボーっとしていると、寝室の扉をノックする音が聞こえた。
アナスタシアだろうか?
私は寝室の扉を開いた。
そこに居たのは、ちいさな天使のロロちゃんだった。
「魔王様、ちいさな天使って何の事ですか?」
何でもない、気にするな。
ところでロロちゃん、私に何か用かな?
「先日貸し出した魔法書を、返却していただけないでしょうか? もう、期限は過ぎていますよ」
そう言えば、何冊か借りてたの忘れてたわ。
返却日は……私がこっそり抜け出した日だね。
いやはや、これは申し訳ない。
私は本棚から、図書館から借りた魔法書数冊を、ロロちゃんに手渡した。
「はい、確かに。次からは返却日は守ってくださいね?」
分かったよ。
ところで、その魔法書は私と宮廷術士以外に、誰か借りてるの?
「貸し出し予定はありませんが、姉さんが魔法の講義を受けたいと言っていたので」
ロロちゃん、お姉さんが居るのか。
もしかして、お姉さんは司書だったり?
「はい、図書館の司書をしております」
やっぱり。
今度会ってみたいな。
「あんな無礼な人には、会わない方が良いと思いますよ」
あらら、随分な言われ様だね。
それを聞くと、余計に興味がわいちゃうんだけど。
「悪いことは言いません、やめておいた方が良いです」
ちょっと睨まれてしまった。
仕方がない、今は諦めよう。
「分かっていただけたようで何よりです。では、ボクはこれにて」
立ち去るロロちゃんを笑顔で見送る。
うむ、ロロちゃんは間違いなく、魔王城のアイドルだね。
それくらい可愛いのだよ。
さて、暇になってしまったし、何をしようかな?
暇を持て余した私が来たのは、魔王城の会議室だ。
賊のことも気になってたし、ただ部屋でじっとしてるよりは良いだろう。
アナスタシアも私に同席してほしかったようで、私のことを呼ぼうとしていたようだ。
会議室のテーブルは円卓だった。
円卓と言うのは、会議の場で序列に関係なく発言するためのものだ。
とは言え、一応序列は存在していて、上座は入り口から遠い席だそうだ。
つまり、私が座る席は一番奥ってことになる。
他の席には、公爵から男爵までの爵位持ちの方々、宮廷術士、騎士団長と、なかなか立ち会わない方々が集っている。
この緊張感は久々だね。
今の私には風音魔法があるから、以前とは違うよ?
「それではこれより、緊急会議を執り行いたいと思います」
うむ、やっぱり帰りたいわ。
帰っちゃだめ? だめだよね?
仕方がない、腹をくくろう。
そんでもって、早いとこ終わらせよう。
だからさ、あんまり長引かせるなよ?