06 サクラノ王国
関所を抜けて、また馬車に揺られること数分。 馬車はようやく停止した。
「着いたようですね。さあ降りましょう」
馬車から降りた私の目の前には、和風の都が広がっていた。
行き交う人々の服装は和服……ではなく洋服だけど。
私が街並みに見とれていると、カグラが目の前に来て深くお辞儀をした。
「ようこそ、我が故郷サクラノ王国へ」
お、おう。
何だかここへ来た途端、カグラが元気になった気がする。
一週間ぶりに故郷に帰ってきたわけだし、嬉しいのかもしれないね。
それにしても、見れば見るほど日本みたいな所だ。
とても居心地が良いのはそのせいか。
「サキさんは、サクラノ王国は初めてですよね? 私がご案内します」
いつも以上にアクティブなカグラは、こちらを否定させないほどの勢いがある。
確かに初めて訪れる場所だし、案内してくれるのはありがたいことだ。
美味しいお店を重点的に案内してくれることを期待してるよ?
「それでは案内をさせていただきます。この場所はサクラノ王国のワノ領になります。ここは貿易が盛んな為、王都並みの賑わいを見せる街となっています」
確かに、セラメリア王国の大通りくらい賑わっていた。
建ち並ぶ食料品店の店先には、魚と思しきモンスターや、その肉などが並べられている。
セラメリアは肉だったけど、こちらでは魚が主流なのだろうか?
それとも、近くに海でもあるのかな?
薬屋や魔法商はセラメリアと変わらないけど、それ以外の店はさすが和の国といった装いだ。
「因みに、ワノ領と王都のあるメルテラ領、そして私の実家があるエムリシア領以外は和風ではありません」
そうなの?
何だか混乱するし、そう言う文化は統一されるべきだと思うけど?
……って、日本も大して変わらなかったわ。
「エムリシア領までは遠いのですが、サクラノ王国では各領土に転送方陣を設置しています。なので、領土間の行き来は楽なのですよ」
それは便利だ。
と言うことは、カグラの家に行く前に散策する時間はあるってことだよね?
「少しだけなら、寄り道しても大丈夫でしょう」
やったね。
それじゃあまずは、食べ物の美味しい店を案内してよ。
朝ご飯を抜いてきたから、お腹が空いてるんだよね。
カグラに案内された店で出された料理は、やっぱり和食だった。
米に漬け物にミソスープ。
そして魚……なんだろうけど、これはどう見てもモンスターだよね?
見た目は魚なんだけど、鋭い牙や格好良い角が生えてる。
味は魚だったから問題はなかったけどね。
食事を済ませてしばらくの散策を終えたあと、私達は転送装置のある場所へ向かった。
そこは楼閣のような建物だった。
大きなそれは、まさに荘厳の一言だ。
地球なら文化遺産にでも登録されそうな建物に、多くの人々が出入りをしている。
中に入ってみると、そこは広い空間だった。
他に部屋はなく、広い部屋の中央に巨大な魔法陣が描かれていた。
カグラが使ったものよりも大きいのではないだろうか?
魔法陣の前には、2人の兵士が立っている。
2人とも顔がそっくりだ。
双子かな?
『これはカグラ殿。お戻りになられていたのですね?』
おおう、全く同じタイミングで同じことを言ってるよ。
やっぱり双子なのか?
「はい、両親から戻ってくるよう手紙をいただきました」
『そうでしたか。……そちらの女性は?』
……しまった。
ここで魔王なんて知れたら大騒ぎになってしまう。
カグラ、上手く誤魔化してくれ。
「彼女は……私の友人です」
『ご友人の方でしたか。サクラノ王国ワノ領へようこそ』
礼儀正しくお辞儀をする兵士達に、私もつられて頭を下げる。
『カグラ殿、ご両親に会われると言うことは、エムリシア領へ向かわれるのですね?』
「はい」
『では、こちらの手形をお持ちください。ご友人の方も』
私達は小さな手形を渡された。
通行手形ってやつだろうか?
《この手形には、その領土の座標が登録されています。この手形を持って魔法陣に乗れば、登録された座標へ行くことが出来るのです》
なるほど、そう言うシステムか。
私達が魔法陣の中心に立つと、魔法陣が輝きだした。
やっぱりこの、何とも言えない浮遊感は慣れないな。
浮遊感が終わると、さっきの広い部屋?
いや、色合いや内装のデザイン少し違うから、転送は成功したようだ。
目の前には、さっきの双子兵士が立っている。
……四つ子?
『カグラ殿、おかえりなさいませ』
「ただいま戻りました」
『そちらの方はご友人ですね? 連絡は受けています。ようこそエムリシア領へ』
仕事が早くて助かるけど、早すぎないか?
魔法陣での移動は一瞬だし、そんなに早く連絡が行くものだろうか?
《転送方陣の兵士は全て、自動人形なのです。彼らは全ての情報を共有しているため、兵士間の情報の齟齬が起こらないのです》
わお、ハイテク技術。
兵士達の表情も人間そのものだし、サクラノ王国凄いな。
手形を兵士に返した私達は、カグラの家へと向かっている。
手形はその都度発行だから、返さなきゃならないらしい。
行きの座標しか登録されてないから、それ仕方がないね。
エムリシア領もワノ領ほどではないが、それなりの賑わいを見せている。
こういう雰囲気は大好きだ。
しばらく歩いていると、目の前に大きなお屋敷が見えてきた。
まさかカグラって、こんな立派なお屋敷に住んでたのか?
「立派だなんてとんでもない。ただ無駄に広いだけですから」
カグラさん、それは嫌みにしか聞こえないよ?
「それに、魔王城の方が広いじゃないですか」
あっちはお城だからノーカンですよカグラさん。
こんなに広いお屋敷に住んでるなんて、カグラはやっぱりお嬢様だったんだね。
カグラのご両親に、ちゃんとご挨拶できるかしら?
緊張してきたけど、なるようになるしかないね。
こんな事もあろうかと色々と練習してきたし、その成果を試すには良い機会だ。