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#蛟1 ある女子高生の1日

 朝だ。

 窓から朝日が射し込んでいる。

 頭が重い、疲れが取れてない。

 ネトゲやってて寝落ちしちゃったか。

 疲れの原因はそれだけじゃないけど。


 ぼーっと部屋を眺める。

 やっぱり、こっちは落ち着く。

 もう一眠りしたいところだけど、この部屋に近付いてくる足音が、それを許してくれそうにない。

 足音は私の部屋の前で止まった。

 そして、ドアをノックする音が室内に響く。



「麻衣、起きてるの? 早く降りてこないと遅刻するわよ」



 私は適当に返事をしておいた。

 学校、行きたくないな。

 でも、そんなこと言ったらお母さんに何と言われるか。

 とりあえず着替えを済ませて、私は一階のリビングに向かった。



「麻衣、おはよう」

「おはよ。お父さんは?」

「とっくに出掛けたわ。ほら、早くご飯を食べちゃいなさい」

「はーい」



 私はテレビをつけて、いつものチャンネルに合わせた。

 朝のニュース番組だけど、それを見るわけじゃなくて内容を聞き流す程度だ。

 それがいつもの日課だから。



『……が、最近女子高生の間でブームになっているようです』



 へー、そう。

 あんまり興味ないな。

 私はテーブルに用意されたパンとスープを食しながら、テレビから聞こえる音を聞き流していた。



『ここで速報です。今日未明、市内の住宅で変死体が発見されました』



 いつもならこんなニュースだって聞き流してる。

 自分には関係の無い事だからだ。

 でも、この日は違った。

 何故か、このニュースは見なければいけない。

 そんな衝動に駆られていた。



『発見されたのは、この家に住む』



 突然、テレビを消されてしまった。

 振り返るとお母さんが怖い顔で睨んでる。

 抗議をしようとした私に、お母さんはただ「時間」とだけ言った。

 私は時計に目を向けると、時計の針は7時58分を指していた。



「やばっ!」


 私は残りのパンをスープで流し込んだ。

 熱いとか言ってられない。

 急いで行かないと遅刻してしまう。


「いってきます!」



 私はダッシュで学校に向かった。

 陸上部に所属しているとは言え、食後すぐにダッシュするのはキツい。


 遅刻常連組は、ダラダラと喋りながら歩いてる。

 彼等を追い越し坂を駆け上がる。

 校門の前には生徒指導の先生が立っていた。

 私は時間を確認する。

 ……よし、何とか遅刻は免れた。



「おはようございます!」

「ギリギリだぞ。早く教室に行きなさい」



 私は軽く一礼して、教室へと急いだ。

 私が校門を抜けて少しすると、後ろから生徒指導の先生の怒鳴り声が聞こえてきたけど、私には関係のない事。

 もう少し遅れてたいら私も彼等に巻き込まれていただろうけど、結果的に遅刻しなかったから良し。



 無事に教室までたどり着いた私は、安堵の溜め息をついた。

 昨夜、ネトゲでチーム戦に参加しなければ、こんなギリギリにはならなかったのに。

 私が一息つきながらそんな事を考えていると、後ろの席に座ってる親友が話し掛けてきた。



「麻衣ちゃん、今日は随分と遅かったじゃん。ちゃんと寝ないと駄目だよ?」



 おちょくる様な口調で話し掛けてきた彼女は神谷(かみや) 凛華(りんか)、中学からの親友だ。

 クスクスと笑っているが、私が遅刻しそうになったのは彼女のせいだ。



「凛ちゃん、誰のせいで遅刻しそうになったと思ってるの?」

「さあ?」



 凛華は、私の所属しているチームのリーダーを務めている。

 つまり、チーム戦に召集したのは彼女だ。



「別に良いじゃん。昨日のチーム戦は見事に勝てたし、麻衣ちゃんは遅刻しなかったんだしさ」



 そんな事言っても、昨夜は本当にギリギリの戦いだった。

 私のプレイスキルは上の下、彼女は上の中、他のチームメンバーは中の下くらいのスキルだった。

 それなのに凛華は上位ランカーに喧嘩を売りたがるから、私としては勘弁してほしいところだ。

 せめて彼が居てくれたら、もう少し楽に勝てたはずだ。



「そう言えば、最近咲さんを見ないよね。咲さんが居れば、昨日のチーム戦は楽勝だったのに」



 凛華も同じ事を考えていたようだ。

 咲さんとは、私達のチームに所属しているメンバーの一人だ。

 プレイヤーネームはSakiだが、私達メンバーは咲さんと呼んでいる。

 彼は一切の課金をせずに、課金勢がひしめく上位ランカーに名を連ねている強者だ。

 彼はいつでもログインしていて、彼を見掛けない日は無かった。

 恐らくニートなのだろうが、それは私には関係のない事だ。

 そんな彼がある日突然、姿を消してしまったのだ。

 彼は凛華以上にチームを纏め上げていたし、彼の安否を気遣う声もチームメンバーからあがっていた。

 何か事件に巻き込まれた訳ではないと良いが。

 そんな事を考えてるとチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。

 とりあえず、今は気持ちを切り替えよう。

 私は一応、クラスの優等生として通っているのだから。



 昼休み。

 私は凛華と共に屋上でお昼ご飯を食べていた。

 それが私達の日課だからだ。

 凛華は購買で買ってきたパンを頬張りながら、昨日のチーム戦の良いところ、悪いところを語っている。

 私はそれを聞き流しながら、スマホで今日のニュースを調べていた。

 今朝、テレビでやっていたニュース。

 あれがずっと気になっていたからだ。


 ニュース欄には動画も添付されていた。

 私はイヤホンを片耳に付けて、凛華の話を聞き流しつつニュースの動画を再生した。



『今日未明、市内の住宅で変死体が発見されました。発見されたのは、この家に住む奥村 紗絹さん28歳。外傷や争った形跡等は無く、現在警察が事件と事故の両面で調査を行っています』



 どうして私はこのニュースが気になったのか、それは今でも分からない。

 でも、この奥村 紗絹と言う人は何故か凄く気になる。

 あの人と同じ名前だから?

 それとも……。



「麻衣ちゃん、何見てんの?」

「ちょっとね」



 それ以上は答えない。

 だって、答えようがないから。

 確信なんてありはしないのだから。



「まあいいや。麻衣ちゃん今夜も暇でしょ? またチーム戦をお願いしたいんだよね」

「ごめん、ログインはするけどチーム戦はパス。今朝みたいに遅刻したくないからね」



 それは口実で、今夜は早く眠りたかった。

 眠ればまた、向こうの世界に行けるからだ。

 まるでゲームの様な世界の“シェイムラピアル”に。

 そして私は、向こうの世界で“カグラ”になる。


 私はいつからか、寝ている間に別の世界に住む“カグラ”に宿るようになった。

 それがいつから起こり始めたのか、もう覚えていない。

 それでも私は、間違いなく“カグラ”になっている。

 私の頭に時折響いてくる“声”に導かれて。



《プログラムFAIRY起動。システムに接続。コードGOD起動。サポートa−001からf−098起動。個体名カグラ・ミヅチへの接続準備完了。個体名ミナヅキ マイの覚醒レベルが低下次第、個体名カグラ・ミヅチへ魂の転移を始動します》




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