04 魔王様の武器選び
工房の中は雑然としていた。
足の踏み場もないほどだ。
とりあえず適当に座るように促されてるけど、それは無理な話だと思うよ?
あと、コルタがお茶だと言って差し出した紫色の液体はスルーしとこ。
「へぇ、あんた魔王様だったんだ。で、横に居るのが側近ね。あたしはコルタ。魔物素材の加工をやってんだ。よろしくな」
男勝りなコルタは、とてもにこやかに自己紹介をした。
無礼きわまりない喋り方に、アナスタシアはしかめ面をしてる。
私としては、このくらい砕けた口調の方が好きだ。
だって、私が魔王だからって皆して敬語使うんだもん。
だから、コルタの喋り方は親近感がわくし、無礼とは思わないし、とても新鮮でもある。
「コルタ、相手は魔王様だ。言葉には気を付けなさい」
いやいや、さっきのおじさんの口調も素晴らしかったよ。
生粋のドワーフって感じだったし、私は別に気にしないし気にするのはアナスタシアくらいだし。
だから普段の口調でも問題ないと、私は思うのだよ。
「ところでコルタよ、魔王様の武器作りはどうなっている?」
「お手上げ状態だね」
ケラケラと悪びれずに笑うコルタに、深い溜め息をつくおじさん。
「いや、候補はいくつかあるんだけど、どれもインパクトが無くてさ。素材の良さを全部引き出したいから、かなり悩んでるんだよね」
悩んでる顔してないんだよね。
何というか、とても楽天的なお姉さんだ。
「あんた、魔王様なんだろ? あたしが作る武器を身につけるんだよな?」
そうなるよね。
そのためにドワーフにお願いしてるわけだし。
「じゃあ、ここにある武器を適当に振り回してくれないかい? あんたが武器を使ってる姿を見れば、インスピレーションも湧いてくると思うんだよね」
って言われてもね。
アナスタシアの方を見て助けを求めたのに、こいつ視線を逸らしやがって。
「安心しなよ、全部模造刀だから怪我はしないさ」
それなら良いよね?
アナスタシア、さっきから黙ってるし私の視線をかわしてるし、それは肯定ってことで良いよね?
工房の裏は広場になっていて、その中央には数体の木人形。
剣と盾を持ってるし、兵士の訓練用の人形なんだろう。
どうして工房の裏にあるのかは謎だけど。
「まずは基本的なところで、ロングソードなんかどうだい?」
RPGの定番武器、ロングソード。
造りはシンプルながら扱いやすく、多くの兵士や騎士に支給されてるオーソドックスな武器だ。
そしてやっぱり、何とも言えない格好良さがあるよね。
……あるよね?
「それじゃあ、適当に振り回してくれ」
あ、私の攻撃力は3000オーバーだから、ロングソードも人形も粉砕しちゃいそうだけど?
「言い忘れてたけど、この広場にはある魔法が掛けられてる。どんなステータスだろうが、この広場では一般人と同じ力しか出せないよう調整してるんだ。武器や木人形を壊したくないからな」
なるほど。
つまり、全力で打ち込んでも大丈夫ってことだよね。
剣術の心得はないけど、ゲームキャラの動きとかを思い出せば、それなりな感じにはなるはず。
「いやはや、おかしな事に巻き込んでしまい、申し訳ない限りです」
「いえいえ、魔王様もあんなにはしゃいでいらっしゃいますし、問題ないかと思いますよ」
おい、そこの保護者二人、なに呑気にお茶をたしなんでるんだよ。
こうなったのは誰のせいだと思ってるんだよ。
……私のせいだけどさ。
そんな、無邪気な子供を見るような目で見られても困るんですけど。
「魔王ちゃん、単刀直入に言っちゃって良いかい?」
コルタはいつの間にか、私のことを魔王ちゃんって呼んでるし。
「てんでなってないな。重心の置き方も間合いの詰め方もなってないし、もしかして魔王ちゃん、剣を振るのは初めてだったかな?」
ああそうだよ、初めてだよ。
重いし振り回されるし、すげー疲れるんですけど。
「ロングソードでこれだと、重量級の武器は無理だろうな。じゃあ次は、ショートソードなんかどうだろう。こっちの方が軽いし、扱いやすいんじゃないか?」
コルタからショートソードを渡された。
これもRPGの定番武器だね。
確かに軽いし振りやすそうだ。
「ドワーフ特産の溶鉱炉饅頭です」
「これはこれは、ありがとうございます」
おい、そこの保護者二人、次はお茶菓子か。
勝手に楽しんじゃって、良いご身分ですね。
アナスタシアよ、その饅頭はあとで買って帰るからな。
「さっきよりはマシだけど、イマイチだな。魔王ちゃんはセンスが無いね」
そしてコルタは容赦ないね。
そんなストレートに言わなくても良いじゃない。
「でも、軽くて扱いやすい武器で間違いは無いんだよな。もしかして、刃物じゃないのかもな」
刃物じゃないとなると鈍器?
でも、重い物は振り回せないよ?
「よし、これを使ってくれ」
コルタから渡されたのはグローブのようなものだった。
手の甲の部分には金属板が取り付けられている。
「ナックルダスターと呼ばれる武器だ。主に近接格闘用の武器だけど、魔王ちゃんの動きをみる限りこっち系の方が得意そうなんだよね」
ふむふむ。
コルタはあれだね、人の本質を見抜く力があるのかも。
私が披露してきた動きは、ゲームのキャラやマンガのキャラが使ってた技を、見よう見まねで使ってみたものだ。
特定の型にはまらない動きのはずなんだけど、その中から私本来の動きの癖を見抜いてる。
その癖から導き出されたのが、このナックルダスターなんだろうね。
そこまで真剣に、私のための武器を作ろうとしてるんだね。
それじゃあ私も、コルタの期待に応えよう。
誰かの技とか動きじゃなくて、私らしい私の本能的な動きを披露してみようじゃないか。
「ドワーフ煎餅でございます」
「おや? お煎餅は人族のお菓子だと思っていましたが?」
「人族の方々から製法を学びまして、今ではドワーフと人族の名産品となっております」
「なるほど。とても美味しそうですね」
おいこら、そこの保護者二人。
今度は煎餅か? お茶と煎餅なのか?
素晴らしすぎる組み合わせじゃないか。
アナスタシア、絶対に買って帰るから忘れるなよ?
「うんうん、やっぱり魔王ちゃんはこんな動きが得意なんだな。とても野性的と言うか野獣的な動きだ」
呑気にお茶を飲んでる保護者達に対する私の怒りだよ。
「よし! 魔王ちゃんに相応しい武器のイメージが湧いたよ!」
それは何よりだ。
私も疲れた甲斐があったというものだ。
そう言えば、狼と亀を倒したのは私自身の拳だ。
もしかしたら私は近接特化なのかもしれないね。
「どうやら、終わったようですね」
こいつは本当にただの保護者だったな。
とりあえずお土産用に饅頭と煎餅は買って帰るからね。
「あら、聞いていらっしゃったのですか?」
聞こえてないとでも思ったのかな?
「分かりました、土産用に購入いたしましょう」
やったね。
じゃあ、後のことはコルタに任せて、私達は帰ろう。
もう疲れたよ。
コルタはとても良い人だったね。
ドワーフも面白い人達だったし、また遊びに来たいところだ。