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02 魔王様の仕事内容

 昼食を済ませた後は、アナスタシアに連れられてバルコニーに来た。

 これから魔王の顔見せが始まる。

 アナスタシアに促されて、私はバルコニーに出た。

 眼下には大勢の国民。

 その歓声は、かなり距離のあるはずのバルコニーまでビリビリと伝わってくる。

 それだけ国民にとって、魔王とは尊ばれる存在なんだろうね。

 嬉しいことだけど国民の皆々様、こんな魔王で本当にごめんね?

 私なんてただのヒキニートなんだから。

 だからそんな、遠目でも分かるような期待の眼差しを向けないでくださいお願いします。


 顔見せが終わった後も、外からは歓声が聞こえてくる。

 魔王様の人気って凄いのね。

 さて、次は玉座の間で魔王様のお仕事の説明だ。

 まず、基本は書類仕事だそうだ。

 部下から上がった書類を確認してサインをする。

 魔王様のサインは絶対だから、上がってくる書類はどれも重要なものばかりで、これに関してはしばらくアナスタシアが助言をしてくれるみたい。

 そして当然、書類に不備何かがあれば突き返してもよし。

 そりゃそうだよね。


 書類繋がりで、報告書の確認。

 こっちはサイン不要だけど、全てに目を通さなければならないみたい。

 実はこっちが、魔王様の仕事の大半を占めるらしい。

 さっき、速読術のスキルを取ったから楽だろうけど、私にはヒキニートのスキルがある。

 スキルが無くたって仕事なんかしたくはないさ。


 あとは、有事の際に指揮を執るのも、当然魔王様の仕事だ。

 人族と魔族は仲が良いはずだけど、どうやら近隣の小国にはろくでもない考えを持ってる輩が居るらしい。

 どこの世界にも、戦争好きは居るんだね。


 魔王様の仕事は大方分かったと言うか、できるならやりたくない。

 どうすれば仕事をしなくて済むのか、今後の課題だね。

 これで仕事の説明も終わりかな?



「魔王様、お疲れ様でした。この後は夕食まで予定はありません。しかし再三申し上げますが、城外への無断外出だけはなさいませんよう、宜しくお願いします」



 アナスタシアに釘をさされてしまった。

 分かった、分かったからそんな怖い目で見ないでくださいお願いします。

 アナスタシアはあれだ、見た目は若いのに百戦錬磨の目つきをすることがある。

 ぶっちゃけ怖いから勘弁してほしい。

 笑顔なのに目が笑ってないとか恐怖でしかない。


 自由時間をもらった私は、再び図書館を訪れていた。

 カグラは宮廷術士の就任やらで来れないから、私ひとりで来ている。

 魔法、魔術関連の書物は司書に頼まないと出してもらえないだろうけど、他人と話せるわけがないし魔法関連は諦めよう。

 とは言え、歴史書もあらかた読み終わったし、何を読もうかな?



「魔王様、どのような書物をお探しですか?」



 図書館をウロウロしているところへ話しかけてくれたのは、司書補のロロちゃんだった。

 とは言え、私にはコミュ障のスキルがあるし、会話はできないよ?



「ご安心ください。ボクもコミュニケーションのスキルはマイナスなので、魔王様の言いたい事はなんとなく分かるのです」



 どいつもこいつも読心術の使い手だったか。

 ありがたいことだけど、心を読まれるのはいかがなものか。



「心を読む訳ではありません。相手の表情から、何を伝えようとしているのかを読み取るのです」



 あ、そう。

 アナスタシアも同じようなことをしてたし、もしかしたら魔王城にはコミュ障が多いのかも?

 と言うかロロちゃん、コミュニケーションスキルがマイナスのくせに、流暢(りゅうちょう)に喋るじゃない。



「司書補ですから、話せないと仕事になりません」



 そうかもしれないけど……まあいいか。

 じゃあ、司書補のロロちゃんに聞きたいんだけど、魔法や魔術関連の書物ってあるかな?



「その様な書物は特殊ですからね……」



 だよね、そうだろうと思ったよ。



「私だけでは決めかねますので、司書に確認をとってきます」



 そっか、司書も居るんだよね。

 じゃあ頼むわ。

 そうだな……10冊もあれば十分かな?



「10冊……ですか。分かりました、確認してきます」



 ロロちゃんはトテトテと、図書館の奥へと消えていった。

 まったく、仕草がいちいち可愛いね。

 さて、何をして待とうかと思ったら、ロロちゃんはすぐに戻ってきた。

 手には何も持ってない。



「申し訳ありません魔王様。魔法関連の書物は全て、魔術塔へ貸し出し中でした」



 魔術塔か、そこなら仕方がないね。



「申し訳ありません」



 ロロちゃんは深々と頭を下げてるけど、別に咎めるつもりはないよ。

 私はロロちゃんの肩をポンと叩く。

 顔を上げたロロちゃんに対して、私は咎めてないアピールの笑顔を向けた。



「ありがとうございます。魔王様って、お優しいのですね」



 いやいや、ロロちゃんが可愛いからだよ。

 これがおっさん相手だったら、間違いなく睨みつけてるからね。

 しかし、これは困った。

 夕食まではまだ時間があるし、どうやって暇を潰そうか。



「サキさ……じゃない、魔王様、こちらにいらっしゃいましたか」



 おお、カグラじゃないか。 なんてナイスなタイミングなんだ。

 と言うか、就任したあとに仕事は無かったの?


《はい、今日は自己紹介と魔術塔の案内だけでした。あとは、この本を図書館に返すように言われただけです》


 カグラは数冊の本を持っていた。

 魔法陣が描かれていたり鍵が掛かっていたりするそれは、魔導書的なあれじゃないのか?

 ロロちゃんはカグラから本を受け取ると、パラパラとページをめくって中を確認してるようだ。



「はい、確かに。ただ、返却期限は守ってください。……と、宮廷術士の皆さんに伝えてください」

「わ、分かりました」



 カグラは、まるで自分のことのように落ち込んでるけど、それよりもその本は間違いないよね?



「魔王様、こちらの書物で宜しいですか? でしたらすぐにでも貸し出せますが」



 もちろんだよロロちゃん。

 私はロロちゃんから受け取った本を持って、近くのテーブルに向かった。

 カグラもロロちゃんも呆然としてるけど、今はこの本が最優先なの。

 カグラが隣に座ったけど、それも気にしてられない。

 だって、これを読めば魔法を使えるかもしれないんだよ?

 そりゃあ誰だって興奮するってもんよ。



 ふむふむ、なるほどね。

 さっぱり分からん。

 いや、理解はできるんだけど、論理的に書かれてるせいで読み辛いのなんの。

 やっぱり、一筋縄ってわけにはいかないか。


《サキさん、魔法の勉強ですか?》


 まあね。

 私は魔法の類が一切使えないからさ。

 何かひとつでも魔法が使えたら便利なんだろうけど、私には難しいわ。


《サキさん、これは上級魔法の本ですから、理解出来なくて当然ですよ》


 確かに知らない魔法の応用とか書いてあったけど、これ上級魔法だったのか。

 それじゃあ理解できないわ。

 ……でも、内容は理解できるから、頑張れば使えるんじゃないかな?


《サキさんは、魔法はどこまで扱えますか?》


 どこまでって、全然だけど?


《え?》


 なに? 何かまずかった?


《い、いいえ。魔法を扱えない事に、驚きを隠せなくて》


 あ、そうか。

 さっきの歴史書に書いてあったけど、この星は魔法の素となるエネルギー『魔素』を生産している。

 その魔素は地表に染み出してくるんだけど、その量は場所によってバラつきが発生する。

 魔素濃度の低い場所で生活していた人間が人族と呼ばれ、魔素濃度の高い場所で生活していた人間が魔族と呼ばれるようになった。

 その魔素を体内で還元したものが魔力ってことだ。

 つまり、この星では誰でも、使おうと思えば魔法を使える。

 魔素を持ってれば誰でもだ。

 私のステータスも、魔力の項目に数値が振ってあったから、私にも魔素が流れているってことになる。

 それなのに魔法を使えないことに、カグラは驚いてるんだろう。

 でも仕方がないじゃない。

 私はこの星に生まれて間もないし、誰も魔法を教えてくれなかったんだから。


《では後日、私が初級魔法の指導をしてさしあげますよ。サキさんなら、すぐにものに出来ると思いますよ》


 カグラありがとう。

 とりあえず、この本は読み切ってしまおう。

 理解するのは難しくても、理解できないわけじゃないからね。



 魔法関連の本を読み終わったあと、私達は魔王様の寝室に向かった。

 ここならカグラも、気兼ねなく話せるだろうと思ったからだ。

 私の名前を呼ぶようにはなったから、もう少し砕けた口調で話してほしいんだよね。


《そう言えば、サキさんのお仕事はどの様なものになるのですか?》


 ほとんど書類仕事だって。

 書類にサインしたり、報告書に目を通したり。


《なかなか大変そうですね》


 本当は仕事なんかやりたくないんだけどね。

 カグラは? 宮廷術士の仕事って、どんなことをするの?


《新たな魔法や魔術の研究開発、回復薬の研究や精製、魔物の調査や研究、地表に染み出している魔素量の比較と様々です。就任したばかりなので、しばらくは雑用係になりそうですが》


 そっちもそっちで大変そうだね。


 そんな取り留めのない話をしてると、時間の流れは速く感じるもの。

 窓からは西日が射し込んでいる。

 昼と夜のサイクルは、この星でもほとんど変わらないみたいだ。

 お腹も空いてきたし、私達は良いところで話を切り上げて大広間へ向かった。

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