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01 ゲームの説明書は読まないけどゲーム内の資料は読破するタイプ

前回までがプロローグ。今回から本編スタートとなります。

 私達の住む街、国、星、銀河、宇宙、世界とは異なる場所。

 その名はランデリアル。

 その世界に存在する、数多の宇宙のひとつ。

 犇めく銀河の中にある、ひとつの星。


 その名はシェイムラピアル。

 この星には、魔法が生きている。

 正確には、魔法の素となるエネルギーを、この星は生成している。


 この星にもまた、人間が生まれていた。

 そして、魔族とよばれる人間も生まれた。

 互いに信じ、互いに尊敬しあっていた。

 しかし、この星の永い歴史は、人族と呼ばれる人間と魔族の争いの歴史だった。

 何時からか魔族は、人族によって虐げられた。

 虐殺すら起こった。

 しかし、魔族から魔王と呼ばれる存在が生まれた事を期に、魔族は人族に対して反旗を翻した。

 醜い争いは、何時しか血腥い戦争へと変貌し、人も魔も多くの命を落としていった。

 魔王と呼ばれる存在は、剣を振るえばまさに無双であり、魔法を使えば全てを無に帰した。

 追い詰められた人族は、魔王に対抗すべく勇者と呼ばれる存在を選出した。

 人と魔の戦争に魔王と勇者が加わり、その戦いの爪跡は数千年経っても癒える事は無かった。



 そして今から五百年前。

 勇者と魔王の勇気ある決断により、数千年続いた争いは遂に幕を降ろす事となった。

 この戦いによって多くの命が犠牲になった事に、憂い悲しんだ当時の魔王。

 歴史を二度と繰り返さないよう、自身の魔力の全てを注ぎ込み魔王と言う存在をスキル化した。

 それは勇者も同様だった。

 自身の持つ莫大な力を悪用されないように持てる力を全て封印した上で、勇者と言う存在をスキル化した。



 それから五百年経った現在。

 シェイムラピアルに、新たな勇者と魔王が誕生した。

 勇者のスキルを持つ者、リン・クロウスライト・フェムリノメス。

 そして魔王のスキルを持つ者、サキ・アルシウス・ネルレザードだ。





 朝だ。

 素晴らしい目覚めだ。

 目が覚めたら、あれは全部夢だった。

 なんてことにはならなかったよ。

 少しだけ期待したけど、そんなことはなかった。

 目覚めた場所は魔王の、私の寝室だったんだから。


 別に良いか、深く考えたって仕方がないんだし。

 とりあえず、私のこれからを考えよう。

 アナスタシアは起こしに来るとも、起きるべき時間を伝えることもしなかった。


 魔王とはつまり魔族の王様だ。

 魔王の仕事がどんなものかは分からないけど、起きる時間を伝えなかったと言うことは、少なくとも私が居なければ進まない仕事は今のところないと言うことになる。

 もしくは、魔王が起きた時点でその日の予定を伝えるのか。

 どちらにせよ、二度寝でも三度寝でもできるってことになる。

 前世だったら間違いなく寝直してるところだけど、残念ながら今は眠くない。

 アナスタシアが来るまでに色々と試しておきたいこともあるし、丁度良かった。



〔念話:指定した相手と思念を通じての会話を行う事が可能になるスキル。獲得条件を満たしていません。スキルポイントによる獲得は不可能です〕



 条件を教えてくれないってことは、隠しスキル扱いなのか条件が複雑なのか、どちらかだね。


 試したい事ってのは、スキルなんかの再確認だ。

 カグラが持ってた念話のスキル。

 これさえあれば、伝えたいことが伝わると思ったんだけど、残念だ。



〔コミュニケーション:他者との会話を司るスキル。他者と会話を行う毎にランクが上昇し、他者との会話を避けていくとランクが下降する。スキルポイントによる獲得は不可能です〕



 予想通りだった。

 たぶん、コミュ障を消す為には会話をしまくって、スキルランクを上げなきゃならんのだろうね。


 私が色々と確認をしてると、ノックの音と共に私を呼ぶ声が聞こえた。



「魔王様、お目覚めでしょうか」



 アナスタシアだ。

 やっぱり起こしにきたね。

 私が扉を開けると、アナスタシアがにこやかな表情で立っていた。

 とても機嫌が良さそうだ。



「お目覚めでしたか。良くお休みになられましたか?」



 とても良く休めたよ。

 あのふかふかのベッドは最高だった。

 私は首を縦に振って、肯定の意思表示をした。



「それは何よりです。これより朝食となりますので、身支度を整えてから大広間までお越しください」





 朝食もやっぱり、とても美味しかった。

 食事の際には数名の従者が待機してたんだけど、見られながら食べるってのはなかなか緊張すると言うか、ぶっちゃけ落ち着かなかった。


 さて、朝食も済ませたところで、アナスタシアが今日の予定を教えてくれた。

 午前中は予定なし。

 つまり自由時間だ。

 昼食を食べた後は、国民に対して魔王様の顔見せがあるらしい。

 それはあれかな?

 お城のバルコニー的なところで、国民に向かって笑顔で手を振るあれかな?

 アナスタシアの説明だと、概ねそんなところだ。

 何か言わなきゃならないわけじゃないみたいだから、これは問題なさそう。

 午後は魔王様の仕事の説明らしいけど、そこまで時間が掛かるわけじゃないから説明が終わり次第、夕食まで自由時間だそうだ。

 就任初日に大仕事を運んでくることも、書類仕事をさせることもないって。

 そりゃそうだよね。

 自由時間と言っても、城外に行ってはいけない。

 当たり前だよね。

 こっそり抜け出したら、アナスタシアがどんな怒り方をするか分かったものじゃない。

 とりあえず今は、アナスタシアの言う通りにしておこう。

 まずは、昼食までの自由時間で何をしようかな?



 やってきたのはカグラの居る、魔術塔と呼ばれる場所だ。

 カグラも正式配属は今日からだったようで、午後までは暇なようだった。

 なので、遠慮なく借りていくよ?



「あの、魔王様?」


 あのさ、私達はもう友達なんだよ?

 だから、私のことを魔王様って呼ぶの禁止ね。


「分かりました。ですが、皆の前では魔王様と呼ばせてください。そうしないと、周りの目線が気になりますし」


 ああ、あまり親密な仲だって思われると、宮廷術士達はエリート集団だって言うから大変かもね。

 いじめを受ける可能性だって出てくるか。

 分かった、皆が居る時は魔王様でも良い。

 でも、私達だけの時は、ちゃんと名前で呼ぶこと。


「分かりました。ところで魔王様」


 なに?


「どちらへ向かわれるのですか?」


 この城には図書館があるって聞いたから、そこに向かってんの。


「魔王様って、勉強熱心な方だったのですね」


 私の場合、勉強熱心とはちょっと違うけどね。


「それはどういう?」


 まあまあ、何だって良いじゃない。

 私はカグラの手を引いて、図書館のあると言う東塔へと走っていった。



 東塔は別名「研究塔」と呼ばれていて、魔術や魔法の構成を研究したり、ダンジョンで発見された魔法陣がどういった効果でどのように応用ができるのかを調べたりする場所らしい。

 しかしそれは、あくまでも塔の上層での話。

 塔の下層には、お目当ての図書館が存在する。

 上層は立ち入り禁止だが、下層の図書館は一般兵だろうが来賓だろうが立ち入り可能なのだ。

 図書館だから当たり前だけどね。

 で、カグラを連れてきた理由は、私が読みたい本を司書に伝えてもらうためだ。

 後は、この世界独特の単語は理解できないかもしれないから、それを訳してもらうためでもある。


 早速入館。 やっぱり静かだね。

 とても広いし、室温も適温に保たれてる。

 本の蔵書数も膨大、さすが魔王城だね。



「魔王様ですね?」



 私に話しかけてきたのは、大きな眼鏡が特徴的な……男の子だろうか、女の子だろうか?

 見分けがまるでつかないけど、とにかく子供が私達の目の前にいる。

 こんなところで何をしてるんだろう?



「はじめまして。ボクの名はロロ。図書館の司書補を勤めています。お目にかかれて光栄です、魔王様」



 手を差し出されたけど、これは握手を求めてるってことで良いのかな?


《良いと思いますよ》


 カグラの助言を受けて、ロロと名乗る子供と軽く握手を交わした。

 笑顔が可愛らしい。

 と言うかマジで見分け付かないけど、この子は男の子? 女の子?



「ボクは女ですよ、魔王様」



 こいつまで私の心を読んできやがった。

 と言うか女の子だったことの方に驚いてる。

 カグラも驚いてるようだ。

 どちらかと言えば男の子だろうと思ってたからだろう。

 しかし、まさかボクっ娘が居るとはね。



「魔王様は、図書館のご利用は初めてですよね。この図書館で守っていただくルールを説明いたしますが、お時間宜しいでしょうか?」



 図書館なんてどこも変わらないと思うけど、一応聞いておこう。

 私は首を縦に振って、肯定の意思表示をした。



「ありがとうございます。ひとつめは、大声を出したり大きな物音を立てたりするのは控えてください。他の皆様のご迷惑になります。ふたつめは、蔵書の無断持ち出しは禁止です。みっつめは、蔵書の保存のために、この図書館内には様々な魔法が施されています。その魔法が崩れてしまうため、魔法や魔術の使用は禁止です。よっつめは、飲食物の持ち込み禁止です。他にも細々としたルールはありますが、基本的にこのよっつのルールを守っていただければ問題ありません。ご理解いただけましたか?」



 大体は予想通りだった。

 とりあえず首を縦に振っておく。



「ご理解いただいたようで何よりです。それではごゆっくり」



 一礼するロロに手を振って返す。

 ひとつひとつの仕草がいちいち可愛い子だったな。

 そう言えば、司書補って何だろう?


《司書補とは、司書のお手伝いをする方々の事ですよ》


 なるほど。

 じゃあ、司書も居るはずだよね?


《その筈ですが、そのような方は見当たりませんね。もしかしたら、蔵書の整理をしているのかもしれません》


 そっか。

 顔見せくらいはしておきたかったけど、まあ良いか。

 とりあえず私は、目当ての本を十冊ほど調達してきた。

 カグラも読みたい本が見付かったようで、私達は一緒のテーブルで本を読み進めた。


 私が読みたかったのはこの国の、この星の歴史が書かれた本だ。

 前世の私は、勉強と言う言葉を聞くだけで、めまいを起こすほど勉強が苦手だった。

 それは今も変わらない。

 こんな本を読んだところで、ものの数分も持たなかっただろう。

 では何故、一時間近く経過してもなお読み進めることができているのか。

 確かに私は勉強が苦手だ。

 しかし、これは勉強ではない。

 私は今、ゲームの中で手に入る資料を読みあさっているに過ぎない。

 そう、ゲーム内でゲームの設定資料を読んでいる感覚だ。

 ゲーム感覚とか言われてしまえばそれまでだが、この世界は剣と魔法のファンタジー世界だ。

 ゲーム感覚で生きたって良いじゃないか。

 そして私は、ゲームの取説は読まないけど、ゲーム内で手に入る資料は片っ端から読みあさるタイプだ。

 だから、こういう資料は読んでも苦痛ではない。

 我ながら、凄まじいゲーム脳だわ。



〔条件を満たしました。読書家のスキルを獲得可能です〕


〔読書家:文章の読解力を司るスキル。このスキルを獲得する事により、文章の読解力と文章の読了速度が上昇します。条件を満たしています。読書家のスキルを獲得しますか?〕



 これは有用だね。

 これからもっと、この世界の設定資料を読むことになるから、このスキルを取って損はないよね。



〔承認しました。読書家のスキルを獲得。読書家のスキルを肉体に適用。最適化します〕



 よしよし、これで効率が上がる。

 ゲーム感覚で資料を読んでるから読む速度はかなり早かったけど、それが更に早くなった。

 体感的には1.5倍くらいかな?

 このスキルのおかげで、持ってきた本を読破してしまった。



〔条件を満たしました。速読術のスキルを獲得可能です〕


〔速読術:文章の読解力を司るスキル。このスキルを獲得する事により、文章の読解力が更に上昇し、文章の読了速度が大幅に上昇します。条件を満たしています。速読術のスキルを獲得しますか?〕



 マジで?

 こんな短時間で条件満たすほど読んでたのか。

 効率重視で、このスキルも取っておこう。



〔承認しました。速読術のスキルを獲得。スキルを肉体に適用。最適化します〕



 ……これは凄い。

 凄く早く読んでるのに、その内容が全部入ってくる。

 更に追加した本も、あっという間に読破してしまった。 その速度にカグラも驚いてるようだけど、私の方が驚いてるからね?



「魔王様、こちらでしたか」



 この声はアナスタシアか。

 振り返ると、数冊の本を持ったアナスタシアが一礼していた。



「そろそろ昼食になります。勉強熱心な事は良いことですが、あまり無理をなさらないでくださいね?」



 なんだ、もうそんな時間だったのか。

 それじゃあ、そろそろ切り上げようか。

 私は軽く手を振って応える。


《サキさん、凄いですね》


 お、やっと名前を呼んでくれたね。

 お腹も空いたし、この辺で終わりにしようか。


《はい》


 私達は図書館をあとにして、大広間へ向かった。

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