表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
184/188

141 モンスター

 ユキメとグラッドの戦いは、いつしか二人の一騎討ちとなっていた。

 戦いの次元が違う。 そう悟ったネレディクト兵は、二人の間に割って入ろうなどと考えようともしなかった。



「女狐が、やはり強くなっているな」

「私も遊んでいたわけではありません。私は、私の願いを叶えるために強くなったのです」

「その願いは、俺を倒す力を得ることか?」

「……違います。私の願いは、みんなが笑って過ごせる世界。その世界を取り戻したいだけ」

「はっ! そんな理想郷など、永久に訪れん!」



 グラッドは鎖付きの斧を投げ付けた。

 しかしユキメは、変幻自在の斧の軌道を容易く見切り、その鎖を断ち切った。

 グラッドは上空高く飛び上がり、ユキメにもう一本の斧を振り下ろす。

 それさえも回避するユキメだったが、グラッドの目的は斧だった。

 グラッドは先ほど放った斧に鎖を巻き付け、手元へと引き寄せていた。



「死ね、女狐!」



 鎖と斧による同時攻撃。

 その攻撃を蹴り払ったユキメは、魔力を身に纏いながらグラッドの懐へ潜り込む。



「仙狐乱舞、九尾!」



 魔力を込めた、九連蹴撃。

 たまらず、グラッドはユキメから距離をとった。

 しかし、その機を逃さず、ユキメは更にグラッドを追い詰めていく。



「これで、終わりにしましょう!」

「終わらん! こんなところで、終わってたまるか!」



 グラッドは斧を振り下ろした。

 ユキメは魔力を足に限界まで込めると、振り下ろされる斧を蹴り上げた。

 ……グラッドの斧が、粉々に砕け散る。



「なに!?」



 驚きながらもグラッドは、もう一方の斧を振り下ろす。



「空狐閃撃、夢幻泡影!」



 グラッドはその瞬間、ユキメを視認することができなかった。

 ユキメの存在は空間へと溶け込んでいたからだ。

 そこから放たれる、高濃度の魔力を帯びた足技に、グラッドの体は遂に地面へと崩れ落ちた。



「おのれ女狐が……何をした」

「空狐とは、肉体を持たず自然に溶け込むことのできる狐だそうです。この世界に空狐は存在しませんが、それを真似ることはできます」



 ユキメは一瞬だけ幻惑の魔法を使い、グラッドの意識を反らしていた。

 そう、一瞬で良かった。

 一瞬でもユキメを意識しなくなれば、ハイドの魔法が有効になるからだ。



「考えたものだな……」



 グラッドは立ち上がる。

 それ以外に、道はないから。



「もう、この世界のことも魔帝の命令も関係ない。富も名声も必要ない! これは、モンスターとしてのプライドを賭けた、正真正銘最後の一撃だ!」



 グラッドは体に魔力を纏い、ユキメに突進した。



「……分かりました。最後までモンスターであり続けようとする貴方に、私も敬意を表します。幻惑人狐奥義、虎威借狐!」

「鎧牙大猪奥義、豬突猛神!」



 互いの奥義が激しくぶつかり合い、辺りに衝撃波が広がる。

 土埃が舞い上がり、二人の様子を伺い知ることはできない。

 ネレディクトの兵達は、立っているだけで精一杯だ。


 土埃が収まると、グラッドは仰向けに倒れ、その前にユキメが立ち尽くしていた。

 二人の戦いの、決着がついた瞬間だ。



「……敗けだ。完敗だ」



 お互いが全力を尽くし、そしてグラッドは敗北した。

 それは名誉ある敗北であり、そこに最早、恨みや憎しみなど存在しない。

 それはユキメも同様だった。

 グラッドに対して既に憎しみはなく、死力を尽くして戦った強敵との認識を持っていた。



「さあ、止めを刺せ。お前には、その権利がある」

「………」



 ユキメは手に魔力を集め、グラッドに翳した。

 すると、グラッドの体の傷が癒えていく。


「……何の真似だ?」

「私は、貴方を殺すつもりはありません。貴方を殺しても、私の仲間達が戻るわけでもありません。それに、サキさんならきっと、同じことをしていたと思うのです」

「お前……変わり者だな」

「よく言われます」



 ある程度傷が癒えたところで、ユキメは手を止めた。



「……すぐには動けないでしょうが、命に別状がないところまで回復させました。私は、急いでサキさんを追わなければなりません。これからどうするかは、貴方に任せます」

「……そうか、分かった」



 そう言うと、グラッドは大きく息を吸い込んだ。

 そして。



「ネレディクトの兵士共! 道を開けろ! 俺を打ち負かした強者ユキメを、城まで通せ!」

「グラッドさん……」

「これは命令だ! 背いた者は、俺が直々に殺してやる! 分かったか!」



 グラッドの言葉を聞き、ネレディクト兵は瞬く間に、城までの道を開いた。



「ありがとうございます、グラッドさん」

「……礼は良いから、早く行け」



 ユキメは最後に笑顔を向けると、深く一礼してからロムルス城へ急いだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ